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14.契り

 レオンの申し出に、ジークリンデは眉一つ動かさず、見下ろしたままだった。唐突の参加要請に無反応や拒絶が織り込み済みのレオンは、頭を下げたまま言葉を続ける。


「ニナが俺と一緒に討伐隊に入って魔人や魔獣相手に戦っている。戦闘後のメンテ、いや、調整が必要になると思うので、出来るだけニナのそばにいて欲しい。それに――」


 顔を上げたレオンは切に願う。


「今の討伐隊は戦闘経験に乏しい連中ばかりで、魔人相手に太刀打ちできない。訓練に時間が掛かるが、その間に魔人が暴挙に出る可能性が大きい。だから、討伐隊に参加して戦力となって欲しいんだ。一人で判断できないなら、俺がご主人様に掛け合ってもいい」

「レオン様」


 ようやく口を開いたジークリンデの次の言葉に、レオンは期待を込めて耳を傾ける。


「以前お目にかかったときと違って、レオン様の(わたくし)への言葉遣いが妙に馴れ馴れしくなりましたが、どういう心境の変化でございましょうか?」


 言われてみれば、以前はですます調で話をしていたような気がする。


「気に障ったのならすまない。つい親しげに話をしてしまったが、気が急いていたのかも」

「伺ったお話の内容からお急ぎであることは理解いたしました。ですが、急に親しげになるのは、(わたくし)への感情に何らかの変化があったのでございましょうか?」

「うん。俺には家族同然のニナが世話になっているし。これから長い付き合いになるだろうし」


 だんだん、自分でも何を言っているのかわからなくなってきて、変な理由をこねくり回している気がしていると、


「でも、親しき仲にも礼儀ありと申します」

「そんな言葉は異世界(こつち)にもあるんだ……」

「ですが、言葉遣いに慣れていらっしゃらないご様子のレオン様が混乱して言い回しが変になるくらいでしたら、ご自分がお話ししやすいようにおっしゃってください」

「助かる……」


 細かいところを突いてくるジークリンデが納得した様子なのでレオンが胸をなで下ろすと、ジークリンデが「お話を元に戻しますと」と言って小首を傾げた。


「レオン様の討伐隊に関するお話は、おかしいのではと思います」


 想定外の回答を投げかけられて、レオンは呆気にとられた。


「おかしい?」

「はい。以前、魔人が各地で被害をもたらしたとき、竜騎兵の活躍で魔人は一掃されました。ですから、今回も討伐隊などを設けず、竜騎兵だけでも十分のはずです。それなのに、なぜ戦闘経験に乏しい人をわざわざ集めて討伐隊が編成されたのでしょうか?」


 レオンは、眉を寄せて頭をガリガリと掻きむしる。


「以前のことは分からないから推測でものを言うと、竜騎兵の人員不足や戦力低下とかで、それを補強するためにやむを得ず討伐隊を編成したと思う。あるいは、以前より大きな被害が出たので、魔人側の勢力が大きくなったと判断して増強したとか、かな?」


 ジークリンデはそれでも納得しなかったので、レオンは辺境伯が帝国の支援を交渉しているが自国の兵士で解決しなければいけないことになりそうだから、という理由も添えたが、ジークリンデはまだ腑に落ちない。


「分からない者同士がここで議論をしていても時間の浪費です。レオン様のお申し出は、なかったことにしてよろしいでしょうか?」

「いや、それは困る。ならば、俺をご主人様――ハロルド・ズルツェンバッハさんに会わせてくれ」

「なぜでしょうか?」

「事情を説明して、ジークリンデの参加をお願いしたい」


 と、その時、ジークリンデの後ろから足音が聞こえてきてニナの声が近づいてきた。


「うちからもお願いしたい。ジークリンデ、一緒に戦おう」

「ニナもああ言ってくれている。なあ、考えてくれないだろうか?」


 ニナとレオンの申し出に、ジークリンデは表情を変えずに答える。


「では、(わたくし)はドリッテシュタットへ戻ります」

「ちょっと待った。ハロルド・ズルツェンバッハさんに今回の話は伝えてくれるんだろうな?」

「はい。お伝えして、面会の許可がいただけましたら、フクロウ便を飛ばします」



 ジークリンデが去った後、すでに着替え済みのニナがレオンを手招きした。レオンは扉を閉めて彼女の方へ近づく。


「何?」

「何じゃないよ。見ただろ?」

「見た?」

「とぼるな! さっき、見ただろ!? 言わせるなよ!」


 ニナに吠えられ、彼女が言わんとすることに気づいたレオンは、彼女の裸体を思い出して赤面する。


「あれは事故だ! まさか脱いでいるとは――」

「言い訳するよりも、言うべきことあるよな?」

「ごめん」


 レオンは30度のお辞儀をする。


「それだけ?」

「ごめんなさい」


 今度は最敬礼だ。


「反省が足りない」

「ごめんなさい!」


 さらに土下座で許しを請う。


「本当は記憶が消えるほど殴りたいところだが――」

「いや、それじゃ確実に死ぬ」

「うん。わかってる。うちがちょっと力入れたら、たぶん、頭蓋骨が陥没する」

「こえー……」

「だから、責任取れよな」

「……責任って?」

「この地の風習で……」


 急にニナの頬が赤くなった。


「そのぉ……なんだな……いわゆる……」

「まさかと思うけど、けっ――こん?」


 しばらく固まっていたニナが、ゆっくり首肯する。


「好き……な男……に裸を見られた……ら」

「…………」

「相手も女のことが好きなら、契りを結ぶんだよ」

「…………」

「二度と言わねーよ!」


 ニナがプイッと横を向いてしまう。何だか、モジモジしている様子だ。


 一瞬思考が停止したレオンは、いつ自分はニナに好かれたのだろうと考え始める。


 記憶を遡っても思い出せない。彼女はいつもツンツンしていて、デレたことはない。だから、自分が嫌いなのかと思っていた。


 それがどうだ。ニナは好意を持っている様子だ。ここでこちらから「好き」と言うと、契りを結ぶことになる。


 ニナがベッドの上に膝を抱えて座り、背を向けた。返事待ちであることは背中を見ていると分かる。


 強くなってから告白するという案もあるが、どう考えてもニナの力を上回ることは出来ない。「お前を守れるようになったら結婚しよう」なんて言葉は、明らかな嘘である。


 胃が痛くなるほど考えたレオンは、ようやく決心した。


「ニナ」


 レオンの言葉に、ニナがビクッとする。


「俺は三つ子の妹達を取り戻す。それが出来たら、で良いよな?」


 ニナがゆっくり振り向いた。なんとなく目が潤んでいる気がする。


「出来るのか?」

「今の俺の力では無理だが、もっともっと頑張るし、みんなと力を合わせてなら出来る」

「魔法回路を修復するのか?」


 迂闊に返事は出来ない。これをYESと答えると、魔人の誘いに乗ることになるからだ。


「それ、シュナイダーの話だろ? あいつの誘いには絶対に乗らないから、安心しろ」

「うん。じゃあ、いつ取り戻す?」

「…………」

「魔人討伐は、うちの死んだ家族の敵討ちだろ? 妹を取り戻す作戦じゃないよな?」

「…………」

「いつ、どうやって取り戻すんだ?」


 ニナはレオンが正直言ってノープランなことを百も承知で尋ねている。それが痛いほどわかるので、安心させるための嘘はつけない。


「悪いが、現時点では具体的に答えられない。あまりに情報がなさ過ぎるからだ。だが、魔人討伐を続けているうちに、きっと居場所とかが見つかるはずだ」

「なぜそう言える?」

「連れ去った後、身代金の要求はない。と言うことは、能力を活用するために連れ去ったはず。だとすると、そろそろ何らかの動きがあると思う。それを捕まえれば、居場所も突き止められるだろう」


 ニナは深い溜め息を吐いた。


「長い道のりだな」

「確かに。でも、地道に続けていけば、必ず突き止められる。俺はそれを信じている」

「わかった」


 ここでニナがベッドから降りて立ち上がり、槍を手にした。


「練習に行くか」

「おう」


 二人は練習場へと向かった。

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