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10.突破

「レオン。地面を蹴るから、揺れたら一緒に魔人に向かって走って」


 ニナが小声で囁く言葉に、レオンはニナが退院して家に戻ったときのことを思いだした。あの時、ニナが地面を思いっきり蹴ったときに地面が揺れた。それを再演するのだ。


 こんな危険が迫った状況で? なぜ?


 それは決まっている。


 ――ニナが生身の人間の体ではないことを敵に知らしめるのだ。



 ズシン!!



 ニナの右足が思いっきり地面を蹴ると、周囲にいた全員の足に振動が伝わった。


「「何!?」」


 レオン達との距離をジリジリと詰めていたシュナイダーとマキナが、同時に驚きの声を上げて立ちすくむ。


 レオンの恋人が追い詰められて取ったこの不可思議な行動に、シュナイダーは全くの想定外で重大な事実に気づかされた。


「この重量感って……機巧人形(オートマトン)!?」


 驚きの言葉を口にする直前、レオンが背を向けてニナと共に猛ダッシュしていた。


「その()機巧人形(オートマトン)よ! 気をつけなさい!」


 全速力で駆け出したニナはほくそ笑む。敵を完全に(あざむ)けたと。


 相手が機巧人形(オートマトン)となると、鋼鉄の肌を持っているので、剣や弓矢が通用しない。実際はニナは頭だけが生身なのだが、人間では不可能な重量感のある足踏みを披露したことで、頭のてっぺんから爪先まで鋼鉄で出来ていると敵に思わせたことが大きかった。鋼鉄の肌の機械相手に、敵は武器で攻撃してこないからだ。


「右端の奴を斬れ!」

「任せろ! うあああああああああああああああっ!!」


 ニナの指示に、レオンは自分から見て右側にいる牛頭で巨体の魔人目がけて大声を上げて突撃する。全身真っ黒と聞いていたが、近づいて見ると黒紫色の肌をしている。魔人特有の毒気を発している肌だ。魔人は上半身裸で、ズボンだけ穿いていた。


 咄嗟のことで呆けていた魔人がレオンの鬨の声で我に返り、両手で握った棍棒を振り上げる。これで敵の身体の正面ががら空きになったのを見たレオンは、指導者ハンスの時に成功した抜き胴の攻撃を思いつく。


 素速く相手の懐に飛び込んで、棍棒の振り下ろしが始まったときには、右へ移動しつつ相手の腹を真横に切り裂く。


 初めて肉を切る重みと衝撃が刀身から柄を通じて両手に伝わる。


 ズザザザッと地面の砂利で足が滑るも踏みとどまり、振り向きざまに剣を振り上げて飛びかかり、魔人の背中の左側を上から下にかけて剣を叩きつけるようにして斬る。


 魔人は長い悲鳴を辺りに響かせてうつ伏せに倒れ込んだ。



 一方、右の魔人をレオンに任せたニナは、残り三人の料理に取りかかる。


 敵は全員、ニナの事を機巧人形(オートマトン)と思い込んでいるので、剣で斬りかかってこない。


 その隙を突いて、まず、ニナは真ん中にいる魔人を攻撃すると見せかけ、驚異的な跳躍力で宙に跳び上がる。


 魔人の頭を越える高さまで跳んだ彼女は、一転して顔をマキナの方へ向け、ギョッとして目を見開いたマキナ目がけて槍を上から投げつける。


 まさか空から槍が降ってくると思っていないマキナは恐怖で引きつった顔をして後方へ跳んだが、長いドレスの裾を突き通した槍が地面に刺さって彼女は動けなくなり、後ろへ仰向けに倒れた。


 落下するニナは、魔人の頭へ(かかと)()としをお見舞いすると、魔人の頭にニナの踵がめり込み、額のところまで陥没する。


 惨劇を間近に目撃したサムは悲鳴を上げて背を向けたので、着地したニナはサムの尻を思いっきり蹴ると、彼は3メートルほど吹っ飛んで丸太のように転がっていった。


 三人を10秒で料理したニナは、ゾフィーの形見の槍を拾い上げてマキナを威嚇してから背を向ける。


「レオン、逃げるぞ!」


 ニナの言葉にレオンは脱兎の如く逃走する。


 途中で尻に両手を当てるサムが悶絶しながら上半身を起こしたので、ニナは彼の後頭部に強烈な回し蹴りを食らわせると、彼は顔面が地面にめり込むほど強打して土埃がモウッと舞い上がった。


 それからニナは槍を構えてシュナイダーとマキナの方を向き、二人が追いかけてこないことを確認すると、地面を揺らしながら逃走した。



「何ともはやレオンったら、厄介な()を恋人にしたわねぇ」

「ねえ。討伐隊に機巧人形(オートマトン)がいるなんて情報、聞いてた?」


 マキナはドレスに刺さった槍を抜いて、忌ま忌ましそうに地面へ放り投げる。


「いーや。内通者からそんな情報はなかったわよ」

「してやられたってこと?」

「そうね」

「これでもレオンを捕獲するの? あのボディーガードの機巧人形(オートマトン)相手だとかなりの犠牲が出そうだけど」


 マキナは、殺された二人の魔人と、うつ伏せになったままピクリともしないサムを見やってからシュナイダーを見上げた。


「魔王様がご執心なのよ」

「なんで?」

「洗脳して、魔法回路を修復して、自分の片腕にしたいんですって。だから、無傷で届けなければいけないの」


 舌打ちしたマキナが立ち上がって尻を叩く。


「あの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに、まだ手に入れたいって? そんなことして何を考えているわけ?」

「それは、極秘よ」

「極秘?」

「そう。結構この異世界、裏ではとんでもないことになっているの」

「どんな風に?」


 マキナの問いかけにシュナイダーはウインクで応じる。


「それは、追い追い説明してあげるわ」



   ■■■

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