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20.壊れた魔法回路

 年下で生意気な新参者の言葉が無性に腹が立つ。こちらの実力を知りもせず、平気で挑発してくる。これは笑って済ますわけにはいかない。思い知らせてやる必要がある。


 怒りで震え、頭に血が逆流するレオンだったが、ふとマキナの言葉の断片が頭に浮かんだ。


『調子こいて、魔法使いのお偉いさんを()()にしている天狗』


 こいつもその類いの天狗ではないのかと思えてきた。


 自分と同じ背丈で同じ軍服を着てせせら笑うギルガメシュに自分を投影してみると、今まで異世界の魔法使い相手に取ってきた態度がどんなものだったか見えてきた。


『天狗を実演してくれてありがとうよ』


 カッとなっていきなり魔法をぶつけてしまう衝動が回避され、レオンは冷静さを取り戻した。


 ギルガメシュは、何を根拠にこれほどまでの絶対的自信を持つのか?


 召還された昨日、どこかの時間帯でドロテア相手に様々な攻撃魔法で練習したのかも知れない。いつものように香箱座りする白猫が口を挟まないところを見ると、全ての魔法を打ち消すことはあながち嘘ではないようだ。


 だとすると、先に言われて悔しいが、本気をぶつける必要がある。()()(なり)な攻撃では、相手に勝利を与えて付け上がらせるだけだ。


「防御魔法は使えるんだろうな?」

「必要ないね」

「怪我するぞ」

「唾付けて治してやるさ」

「そんな治癒魔法はねえよ」

「ハハハッ! いいからやんなよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()


 舌打ちするレオンが左の掌を力強くギルガメシュに向けると、ギルガメシュも同じポーズを取った。


「左利きか」

「レオンも左なんだ。うわー、馬鹿が()()りそう」

「てめえ! 言わせておけば!」


 言葉とは裏腹に怒りを堪えて即座に魔法を繰り出そうとしたが、それでは溜めがなくて攻撃が弱くなる。ならば溜めの時間を作り、山を吹き飛ばす力に持って行くべきだが、強すぎて相手が打ち消しに失敗したら命を落としかねない。どの加減で行くのがよいのかを考えていると、躊躇していると思われたらしく、


「おや、ビビってるとか? 体がちっこい(だい)の大人が子供相手にビビりまくり? うけるー」

「うるせー! 精神統一してんだよ!」

「はあ? レオンって馬っ鹿じゃない? もし僕が()()()()()()()、先に攻撃したら――死ぬよ」

「安い挑発をするな!」

「挑発じゃないよ。()()()()


 挑発と分かっていながらも乗っかってしまったレオンは再び冷静さを失い、心の針が強い魔法の行使へ一気に振れると、溜めに溜めた魔法を繰り出した。


『吹き飛べ!!!』


 すると、掌の先に山を吹き飛ばしたときと同じ魔方陣が出現し、特大の稲妻がギルガメシュの体を襲う。


 ところが、(わら)うギルガメシュは左の掌でその稲妻を吸収し、瞬時に金色に輝く特大の魔方陣が出現した。


「――!」


 レオンはそれが攻撃の合図と悟り、防御魔法を使って体の前に楯の結界を形成する。と、同時に、ギルガメシュの魔方陣が稲妻を発射した。


「――っ!!」


 結界は体への稲妻の直撃を回避したが、激突の衝撃までは吸収できず、後ろに飛ばされ無様に尻餅をついてしまった。


 異世界に来て初めて対戦相手に負けた。その精神的ショックで頭が真っ白のレオンに、ギルガメシュが畳みかける。


「これで全力なの? 弱っちーなぁ。呆れて物が言えないね」

「…………」

「何、その目? 鳩が豆鉄砲を食ったようで、うけるんだけど」

「てめえ……」

「ん? てめえ呼ばわり? 心外だなぁ。異世界最強の座は今この瞬間から僕の物になったんだから、ギルガメシュ様って呼んでくれないと――」

「てめえ!! 魔法を打ち消すって話、大嘘だったんだな!!」


 レオンの激声に一瞬目を丸くしたギルガメシュだが、直ぐさまツボに嵌まったが如く爆笑した。


「アハハハハハハハハハッ! うけるー! うけるー! うけまくりなんだけど!」

「この野郎!! 卑怯だぞ!!」

「何言ってんだか。打ち消したよ、完全に」

「打ち消したってんなら、言葉通りに消えるだろうが!?」

「おいおい、アニメの見過ぎだよ、おっさん」


 瞬時に真顔になったギルガメシュが、低音の声を響かせた。態度と声の急変に、レオンは驚愕する。


「…………」

「魔法が霧のように消えるとか思った? ああん?」

「…………」

「魔法は僕の手の中に消えるんだよ。消し去るから打ち消す。言葉は間違ってないだろ?」

「…………」

「そして、僕は相手の魔法をコピーできる。稲妻を返すことでそれを示したのさ」

「……なるほど」


 薄笑いを浮かべてレオンが立ち上がる。


「そういうからくりか」

「おやあ? 再度挑戦するのかい? 何度やっても無駄だよ」


 そんな台詞を魔法使いの誰かに向かって吐いたことがある。それをそっくり自分にぶつけられるのだから、笑うしかない。


「無駄じゃねえ。今から俺の全力をその手で吸収してみろよ」

「やっぱ、手を抜いてたんだ。道理で(そよ)(かぜ)みたいな魔法だったわけだ」

「防御魔法用意しとけよ。ぶっ倒れても知らんぞ」

「必要ないね。どんな魔法でも打ち消すから」

「下手したら――死ぬぞ」

「そっちこそ、僕がコピーして返した稲妻で死なないように」


 レオンは左手を力強く突き出し、長めの深呼吸をし、今までやったことがないほど溜めを作る。限界を超えるほど魔力が増幅したのか、全身が(たぎ)るように熱くなる。


「まずい! レオン、やめろ!」


 今まで成り行きを見守っていたドロテアが、大声を上げてレオンの方へ飛びかかった。ギルガメシュを守るためか、レオンの暴走を止めるためか。だが、レオンの耳にはキーンという耳鳴りの音しか聞こえなかった。


 ドロテアは制止させるためにレオンの左腕に噛みついた。しかし、時すでに遅く、直径が1メートルもの巨大な魔方陣が出現して、激しく輝いた。


 バリバリバリバリバリバリ!!!


 聞いたこともない音量の雷鳴を伴って魔方陣から稲妻が発射されると、それが全てギルガメシュの左の掌に吸い込まれた。だが、ギルガメシュは苦悶に満ちた顔になって右手で左腕を掴み、右に左に()()めいた。


「うわあああああああああああああああっ!!」


 絶叫するギルガメシュは、震える左腕を天に向け、空を見上げて膝を折り、うつ伏せに倒れ込んだ。


 一方、レオンは倒れ込んだギルガメシュを見て勝利を喜ぶ暇もなく、身体の異変に苦しみもだえた。全身の血が沸騰し、肌の色に赤みが強まり、毛穴から汗が湯気となって噴出する。内臓が煮えるほど熱く、酷く(けい)(れん)し、嘔吐が止まらない。


「これはいかん!」


 ドロテアは二人を転移魔法で王宮の扉の前まで移動させ、衛兵の力を借りて治療班の所へ運び入れた。



   ■■■



「ギルガメシュは、吸収した魔力が許容量を超えて、魔法回路が破損しています。でも、時間が経てば治るでしょう」


 治療室から出てきた犬頭の医師は、不安げなドロテアを見下ろしてギルガメシュの容体を淡々と報告する。


「レオンは?」

「レオンですか……」

「大丈夫なのか?」

「無理ですね、あれは」

「無理とは?」

「破損なんてものではありません。暴走しての自壊です」

「治せるか?」

「手の下しようがないです」

「…………」

「魔法使いとしては終わりですね。お気の毒ですが」


 医師は肩をすくめて首を左右に大きく振り、ドロテアはガックリと(うな)()れた。

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