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19.ライバル出現

 異世界に来て初めて町を見た。それまでは、王宮の中か庭園の一部か渓谷がレオンの行動範囲の全てであり、そこから得られる五感情報で「異世界」を把握し知識としてインプットしていた。そこに、今回の外出により、新たな視覚、聴覚、嗅覚の情報が怒濤の如く雪崩れ込んできた。


 王宮が置かれている町の名前はミッテ。シュヴェルトブルーメ帝国の中心地であり、人口一万人を擁する最大の都市である。トオルとレオンが抜け出した先は王宮近くの警備兵宿舎が立ち並ぶ一角で、王宮警護の関係施設に抜け穴があるという皮肉な結果になっていた。


 トオルはまるで兄が幼い弟の手を引くようにレオンと連れ立って結界を抜け、先輩から教えられていた道順を辿り、大通りに出る。


 目の前に広がるのは、整然と並んだレンガ造りで二階建ての建物の列。全ての窓は白い枠で花が飾られている。窓はガラスではなく木の小さな扉で、全てが開け放たれていた。


 道行く人間と亜人を観察すると、半分は獣の頭をしているが、クララのように人間の頭に猫耳が付いている者もいる。人間かと思っても、耳に注目するとエルフだったりする。獣人以外は顔が西洋人風で、黒髪は誰もおらず、金髪が一番多くて、青、赤、緑、紫、銀など髪の色はカラフルである。


 人々に目を奪われていると、四車線の道路を煌びやかな竜車と幌を付けたトカゲ車が横切る。竜は二足歩行をし、翼はなく、茶色の固く見える鱗に覆われていて、恐竜のアロサウルスに似ている。トカゲも二足歩行をしているが、青光りしていて、頭がいかにもトカゲだ。


「うわー。これぞ異世界。まさしく異世界。なんと言おうと異世界――おっと、そんなに手を引くなって! まだ異世界を堪能している真っ最中なんだから!」

「あっちに行こうぜ。うまそうな匂いが胃袋を刺激して我慢出来ん」


 風が運ぶ匂いに誘われてトオルが歩き始めるが、レオンが立ち止まって逆に手を引っ張ったのでトオルが振り向いた。


「どうした?」

「あ、わりぃ。俺、小間使いの手料理を楽しみにしているから、買い食いは無しで」

「ちょっとくらいいいだろ?」

「まあ……一口なら」

「俺の奢りだ。遠慮するな」

「奢りじゃないだろう? この服でタダになるんだから」

「それもそうだな」


 たくさんの屋台が建ち並ぶ風景はヨーロッパ風であるが、レオンは似たような光景はアニメとかで観ていたので、現地レポートを先にテレビで観てから旅をしている気分だった。


「あそこの串焼き屋がうまそうだ。言ってみようぜ」

「焼き鳥みたいだな」

「そういや、焼き鳥と言って豚肉を焼くところがあるだろう?」

「あるある。地方によってな」

「ここはドラゴンの肉とかじゃないのか?」

「食えるのか、ドラゴンって?」


 店主に聞いてみると、大型の蛙の肉と言うことでレオンは腰が引けたが、トオルは構わず二本を注文する。もちろん、軍服を着ているので、店主は何も言わずにスッと二本をトオルに差し出した。


 二人が意外と美味な焼き蛙を頬張りながら市場の人の流れに身を任せていると、前方から人混みを掻き分けてやって来るショートカットの黒髪で黒目の若い女性がいた。背が低いレオンからは前を歩く人の肩越しに頭しか見えなかったが、東洋人風の顔つきから、被召還者かと思ってドキッとした。すると、トオルが串を持つ手を上げてその手を振る。


「おう! マキナ!」

「トオルか。さてはお前も……ん?」


 マキナと呼ばれた女性がレオンを見つけると、眉間に皺を寄せた。


「なんでこいつと一緒にいる?」


 マキナはレオンの前に立って軍服を見せつけ、腰に手を当てて見下ろした。


「ああ、俺のダチさ」

「ふーん。ダチなんだぁ。交流会で調子こいて、魔法使いのお偉いさんを()()にしている天狗とねぇ」

「天狗?」

「勝負を挑んでも手抜きでまともに相手にしないって聞いている。それでも勝ってしまうから、馬鹿にされたってみんな怒っているらしい」

「強すぎるから、手加減しないと怪我するからだろ? なあ、レオン」


 マキナはトオルを無視して、レオンに顔を近づけた。


「あたしの名前は、マキナ・ムサシサカイ。剣士やってる。魔法使いじゃなくて残念だよ」

「…………」

「もし勝負をすることがあるなら、その時真面目に戦わなかったらその左腕をぶった切ってやるからな」


 そう言って、マキナは背を向け、頭だけ振り返る。


「トオル。そいつと付き合うと、この先ろくな事ないから手を切れ。いちお、忠告しておく」



 自分の部屋に戻ったレオンは、ベッドの上で寝転がり、マキナの忠告の言葉を噛みしめていた。確かに、自分に挑戦してくる魔法使い達に取った今までの態度は、相手を完全に見下したものだった。高慢無礼と言われても仕方ない。


 だが、真剣勝負になると、まず間違いなく、相手を傷つけてしまう。それは肉体も心もだ。だから、手を抜くのが当たり前だと思っていたが、自分の当たり前は真剣勝負の世界の常識からずれていたと言うことだ。


『なら、まともにぶつかり合う? ……それはダメだ。下手したら相手を殺しかねない。やはり、手を抜くのが正解だと思う。ただし、相手に接する態度だけは改めよう』


 マキナが魔法使いでなくて本当に良かったと安堵するレオンは、そのまま眠りに就いた。



 それから、トオルはマキナの一件がなかったかのように振る舞い、毎日のようにレオンを町に連れ出した。籠の中の鳥が、自由に抜け出る穴を見つけて外の世界を謳歌するように。


 酒場へ行くと赤ら顔になるし、食事をするとクララの食事が食べられなくなるので、外へこっそり出ていることがバレてしまう。それらは実行せず、トオルと店を冷やかしたり賭け事で遊んだりして、何食わぬ顔で部屋に戻るのが日課となった。



 レオンがそろそろ異世界に来て四ヶ月になろうとしたとき、ドロテアと一緒に修行のために渓谷へ行くと、先客がいた。自分と同じ背丈で、黒目で肩まで届く黒い長髪の少年だった。見覚えのない彼を見つめていると、彼は不敵な笑いを浮かべた。


「へー。レオンっておんなじ背丈なんだ。もっと大人かと思っていた」

「おい。いきなり初対面で呼び捨てかよ」

「同い年だからいいじゃん」

「同い年? もしかして、中身はサラリーマンか?」

「はあ? 何言ってんの。僕と同じ中学生だろう?」

「いや、大人だ。体はこうだけどな」

「ハハハッ! うけるー!」


 レオンが腹立たしげにドロテアの方を向く。


「おい、あんた。誰だこいつ?」

「昨日召還した少年だ。お前の競争相手にうってつけだぞ」

「競争相手? ライバルって奴か」

「らいばる?」

「ああいい、聞き返さなくて。異界の固有名詞だから。で、どのくらい強い?」

「おそらく、対等だ」


 その言葉にレオンの背筋が凍る。今まで、この世界ではぶっちぎりの実力を持っていた自分の前に、突如として対等の力を持つ少年が現れるとは、想像だにしなかったのだ。


「レオンの得意技は何?」

「その前に名を名乗れ」

「ギルガメシュ」

「ふざけんな」

「だって、名前の記憶がないんだもん」

「俺とおんなじか」

「へー、そうなんだ。だから、日本人っぽいのにレオンなんだ。格好付けちゃって」

「うるせー。時を巻き戻す。名を名乗れ」

「だから言ったじゃん。ギルガメシュって」

「英霊気取るな!」

「得意技は、全ての魔法を打ち消すこと」

幻想殺し(イマジンブレイカー)気取るな!」

「だって、本当だもん」

「嘘つけ!」


 ギルガメシュが両手を腰に当てて胸を張る。


「じゃあ、レオンの本気をぶつけてごらんよ。打ち消してやるから」


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