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16.魔法で初対決

 異世界に来て初めての魔法対決。アニメやラノベである程度のことは知っているので、それを今から体験できるかと思うと鼓動が高鳴る。夢の中の出来事ではない。まさに目の前で起きようとしているのだから。


 不思議と不安がない。戸惑いもない。見上げる高さの山の上半分を爆発で吹き飛ばす威力の魔法があるのだから、相手が造形で山を出現させたとしても勝負にならないはず。なので、壊せばいいという勝利条件は、レオンにとって勝利を確定させたようなものだ。


『本気出さなくてもいいよな?』

『出す必要はない』


 ドロテアと頭の中で了承を取り付ける。


 それにしても解せない。交流会で弩級の実力を見せつけているのに、恐れず果敢に挑戦してくるということは、よほどの自信があるのか馬鹿なのか。魔法使い達の上に立つ者ならば、自信があると考えるのが自然。でも、山を吹き飛ばす魔法の上を行く造形魔法とは何なのか。


 ハンスの意図が理解できないレオンは対決の最中にうっかり穴の底へ転がり落ちないように、どの穴からも遠くなるような場所へ移動する。それを待って宙に浮いたままのハンスとは、50メートルほど遠くへ離れた。


「このくらい離れてもいいか?」

「怖くなったか?」


 この一言でレオンは頭に血が上るも、言葉は平静を装う。


「別に。足場がないからここに来たまで」

「落ちるのが怖いとかか?」


 安易な挑発を噛ましてくるハンスに鋭い視線を送る。


「あのな。あんたみたいに俺は宙に浮けない。足が地に着く所へ移動するのが当然だろ」

「それなら、さっきの場所でも良いだろう?」

「崩れやすい山の上に立つなって親から言われてるんでね」

「親からねぇ……」

「だったら、宙に浮いてねえで、同じ土砂の山の上に立てよ。そしたら、俺も立ってやる」

「ほう」

「穴のそばで盛り上がった土の上に立つんだぞ。条件は公平にな」

「いいだろう」


 二人は30メートルほどの距離に近づき、いずれも背後に穴が口を開けている場所に立った。


「じゃあ、何か作ってくれ」

「そちらからどうぞ」

「おい。あんたが作った物を壊す勝負じゃなかったのか?」

「いいから、そちらからどうぞ」

「……なるほど。結界の強度を試すんだな?」

「察しは良いようだ」


 ハンスは試している。自分の性格を。そう思うと、頭から血が引いていった。


「じゃあ、行くぜ。この魔法を人に向けたことはないから、どうなるか知らんが」

「手加減するな」


 レオンはそれに逆らうことを決めた。万が一、相手を怪我させてしまったら、ドロテアが見届け人になっているとは言え、無罪放免にはならないだろう。


「いや。あんたの指図には従わない。俺は一応、平和主義者なんでね」


 レオンが左手を突き出すと、ハンスは両腕を大きく回した。視覚では捕らえられないが、体の前に防御結界でも張ったのだろう。アニメなどでは色が付いたガラス質の壁みたいな物が現れるのだろうが、無色透明なのは意外だった。それから、ハンスは両腕を顔の前で交差させ、ストレートパンチでもブロックするかのポーズを取る。


 人の結界を感心するのは横に置いて、短めに息を吸い込んでから溜めを作って念じる。


『砕けろ』


 即座に魔方陣が出現し、いつもの稲妻が発射された。



 バリバリバリ!!



 ハンスの胸の前で小爆発が起こって硬い物が砕け散る音が響いたかと思うと、苦悶の表情のハンスが後退りして後ろ向きに倒れ、穴へと落下した。


「だから言わんこっちゃない」


 レオンが肩をすくめると、咳き込むハンスがスーッと穴の中から浮かび上がってきた。


「便利なもんだな、その浮遊魔法」

「ゲホッ……ちょっと油断したまでだ」

「違うだろ。こっちの出方を窺う魂胆は見え見えなんだよ」

「もう一度」

「替え玉いっちょってか?」


 ハンスが両腕を念入りに回すので、結界を強化したようだ。


「その結界、色が付かないのか?」

「なぜ色を付ける? 相手に悟られるだろう?」

「……それもそうか。アニメのは『ここに結界がありまっせー』っていう一種の演出か」

「あにめ?」

「あんた達が言う異界にある、極上の娯楽だよ。俺はそれを見て育った。教師よりいろいろ教えてくれたぜ」

「御託はいいから、もう一度来い」

「何度やっても結果は見えてるけどな」



 バリバリバリバリ!!



 再び稲妻が結界を破って、ハンスが仰向けに倒れ、穴へ落下した。


「なんか、無詠唱ってのも味気ないな。掛け声を入れるか」


 レオンが独り言を呟いていると、ハンスが穴から一向に浮いてこない。


「やっべ……。やっちまったかな?」


 不安になって一歩踏み出すと同時に、地響きがして、穴から土色をした人型の巨大な物が立ち上がった。


 ゴーレムだ。穴の深さは10メートルはあって、腰から上が見えているので、背丈は20メートル以上はあると思われる。左肩にハンスが腰掛けているが、飾りのようだ。


「でっけー。さすがだな。でもそのゴーレム、顔くらい描いとけよ。のっぺらぼうだぜ」

「さあ、どうする?」

「どうもこうもない。ぶっ壊すのみ」


 レオンは深く息を吸い込み、念じてから、


雷轟(ローリングサンダー)!」


 咄嗟に思いつきの造語を発すると、先ほどより強い稲妻がゴーレムの腹に直撃した。



 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!



 哀れなゴーレムは胴体が爆発して粉々に吹き飛び、巻き添いを食らったハンスは(つち)(くれ)と共に宙を舞った。


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