3ー3
「じゃ、じゃあ乗せるね……。」
心なしか緊張しているあいの声。
あいの目は見開かれている。
そして、呼吸も荒くなっている。
割り箸で摘ままれているまぐろの切り身は、小刻みにプルプルと震えていた。
どうやらもう腹を括るしかないようだ。
観念したまい。
彼女は目を瞑り、時が過ぎるのを待とうと考えていた。
ぴとっ。
「ひっ!?」
腹部に冷たく柔らかな感触。
まいは思わず声が出てしまった。
「ご、ごめん!痛かった?」
あいが慌てて手を引っ込める。
べちょ……。
腹部から剥がされる刺身。
痛かったとはどういうことだ。
確かにこの行動は痛々しい。
しかし、刺身を腹に置くと痛くなるのか?
刺身にはそんな成分があるのか?
「ふっ、ふふ……いや、大丈夫。」
身体が震え、刺身が落ちそうになってしまう。
「え、え?何笑ってるの?」
「いや、お刺身置かれて痛いはないでしょ……。」
両手で顔を隠すまい。
「ふっ……ふふ……。確かに……。」
まいのもっともな意見に、彼女と同じように笑ってしまった。
一頻り笑った二人。
その後、真顔になるまい。
何やってるんだろう。
今まで生きてきた節目節目の出来事が走馬灯のように脳内に駆け巡る。
入学式、卒業式、ピクニックや旅行など……。
様々な思い出の終着点が、この女体盛りである。
まいは、その事実に思わず涙が出そうであった。
「いただきます。」
いつの間にかまいの腹部に置かれていた無数の刺身。
こんなことをしてもったいない。
それがまいの正直な感想であった。
そんな彼女を尻目に満面の笑みを浮かべるあい。
まいの腹部にべちゃりと置かれている刺身を箸で摘まむ。
そして、それをそのまま口に運ぶのであった。
まいは、そんな彼女の咀嚼を、込み上げる羞恥で見ていられなかった。
「まっず……。」
渋い顔をするあい。
絶句するまい。
見つめ合う二人。
再び訪れる沈黙。




