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「な、なんてことだ……。お、おおおぉぉぉ……。」
それは奇跡と呼ぶに相応しい。
これは神様が与えてくれたチャンスだ。
そうに違いない。
目の前を歩く彼女を見て、そう思うのであった。
少女は歓喜した。
もしかしたら話せるかもしれない。
一緒に遊びに行けるかもしれない。
連絡先を聞けるかもしれない。
そして何より、仲良くなれるかもしれない。
それは、蝉の鳴き声がうるさい夏休みのある日のことであった。
あい達のクラスメイトの少女、田辺華子。
彼女は、街中を歩くあいを見かけた。
輝く黄金の髪。
その美しさは相変わらず健在で、都会の喧騒の中でも一際目立った。
芸能人のようなオーラを纏っている彼女に、前から歩いてくる者達は彼女のことを見た。
「よしっ!」
もう尾行するしかない。
そして、隙を見て話しかけよう。
クラスメイトもとい、姫の黒髪を撫でたい会会員兼金髪のお嬢様に仕えたい会会員である彼女は、その胸にストーカー宣言をするのであった。
数分の尾行。
大きなモニュメント。
そこであいは立ち止まった。
どうしたのだろう?
華子は、少し離れたところで彼女を見ていた。
誰かと待ち合せしているのだろうか?
まいだろうか?
いや、それはない。
彼女らの家は近い。
そんなこと、彼女らのファンクラブの会員ならリサーチしていて当たり前だ。
云わば、基本情報だ。
わざわざこんなところで待ち合わせるわけがない。
それなら誰だろう?
友達か?
それともまさか……。
まさかっ!?
「まさか、彼氏……?」
華子は、自分の言葉に吐き気がした。
それと同時に立ちくらみがする。
そんなわけがない。
そんなことがあってはならない。
あいはまいといるべきだ。
あの完璧な美は、彼女と同等の美の持ち主と二人で完成される。
いや、完成されている上にさらに上乗せするのだ。
無敵。
そう、彼女らは二人いれば無敵なのだ。
そう考える彼女の視線は、不審者のそれであった。




