30/43
9ー2
彼女がそのような奇っ怪な名前で呼ばれるようになったのは、六月頃からのことであった。
そして、彼女はある特定の条件の元でその状態になる。
それは、あいとまいが会話している時である。
中でもより仲の良いことが分かる雰囲気が出ている時に起きやすかった。
「あ、あのー、佐倉さん?」
オズオズ。
「んへぇ……?な、なに?」
陽子のぐにゃあと腑抜けた顔が、すぐに端正な顔つきに戻る。
「だ、大丈夫かしら?なんかその……大丈夫かしら?」
言葉が上手く出てこない。
「え?いや、頗る健康だけど……。」
キョトン。
「そ、そう……。」
何と言って良いのか分からない。
苦笑いするしかなかった。
あいとまいを見守らなくてはならない。
そして、後世へ伝えなければならない。
彼女らと少しでも近づきたい。
あわよくば話をしたい。
夏休みを楽しみたい。
夏休みが始まる。
それぞれの思惑が錯綜する季節が、今幕を開けるのであった。