8ー1
それは、陽子があいの家へ見舞いに訪れる前のことであった。
六月の雨が酷い時期だ。
雨音が方々から鳴りやまない。
陽子は憂鬱な気分で登校する。
学校が嫌いなわけではない。
強いて言うのであれば、きっとこの雨が彼女の気分を落としているのであろう。
彼女の差している傘に、雨が跳ね返る。
その音が、彼女の心をより一層苛立たせるのであった。
「もー、狭いなぁー。」
「ごめんってぇー。ほら、もっと詰めて良いから。」
「えぇー?暑苦しいよー。」
陽子の目の前を歩く二つの影。
それらは、このジメジメとした空気など気にしないかのようにぴったりとくっついていた。
言動と行動が一致しない。
陽子は彼女らを見て、そう思うのであった。
本当に暑苦しいな。
ため息が溢れる。
彼女らの歩幅は、自身のそれよりも遅い。
その為、途中で追い越すことになってしまう。
「おはよう。」
「あ、おはよう。」
黒髪が綺麗な方が、陽子へ静かな笑みを見せる。
クールな見た目、少し幼さが残る笑顔であった。
「お、佐倉さんじゃん!おはよう!」
金髪が眩しい方が、真逆な明るい笑顔を見せる。
元気な少女の中に、大人っぽい雰囲気が見え隠れしていた。
「あんたら相変わらず仲良いねー。」
苦笑い。
今ちゃんと笑えていないのだろうな。
陽子は今、自分が苦笑いしてしまっているのが分かった。
「あ、これはあいが傘忘れたからね。」
「いや、忘れたんじゃないし!」
どっちなんだろう?
いや、どうでも良いか。
「ねぇ、聞いてよー。」
面倒だが仕方がない。
「どうしたの?」
「傘無くしたんじゃなくて、折っちゃったんだよー。」
馬鹿か。
余計たちが悪い。
「そ、そうなんだ……。」
陽子は何と言って良いか分からなかった。
「いや、そもそも折る方が悪くない?」
陽子が思っていたことをまいが代わりに言うのであった。
そりゃあそうだ。
内心まいに賛同する陽子であった。




