6ー1
あいが風邪を引いてしまった。
その知らせがまいの元へ届いたのは、登校準備をしている朝のことであった。
携帯電話のアプリであいから送られたその一報。
普段の彼女なら、絵文字や顔文字、スタンプ文字などを使う。
しかし、それらが一切なかった。
よほど弱ってしまっているのだろうか。
それとも余裕がないのか。
どちらにせよ、状況は芳しくなさそうだ。
まいも彼女の身体を労う言葉を送信し、再度仕度をするのであった。
脳裏に過る、あいの姿。
ベッドで寝ている。
そんな彼女は、息苦しそうに肩で呼吸し、真っ赤な顔をしている。
もちろんこれは、まいの想像だ。
しかし、こんな惨劇が彼女を襲っているかもしれない。
「行ってきます……。」
ポツリと呟き外へ出る。
一人で歩く通学路。
いつも隣にいる騒がしいあいはいない。
ただそれだけなのに、まいはどうしようもなく寂しく感じた。
教室に辿り着いた。
何人かのクラスメイト達と挨拶を交わすと、自身の席に座るのであった。
ざわざわ。
いつもはあいと話している為か、教室の喧騒が気にならない。
しかし、一人でいる今は、なぜか落ち着かなかった。
昼休み。
いつも一緒に昼食を食べるあいがいない。
周りが友達と席を囲む中、一人弁当を広げるまい。
「いただきます……。」
いつもよりも美味しくない。
作ってくれた母に申し訳ないと思いつつも、そう思ってしまうまいであった。
「……ごちそうさまでした。」
この日、彼女が声を出したのは、挨拶のみであった。
授業が終わり、放課後。
まいは帰宅支度もせず、机に突っ伏している。
彼女は今、何もやる気がなかった。
そんな彼女の姿を遠くから見守る者達がいた。
まいの非公式ファンクラブ、姫の黒髪を撫でたい会の会員だ。
「まいさん今日は元気ないわね……。」
はぁ、とため息をつく。
「えぇ。私どもでなにかお力になれないかしら……?」