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黒く艶のある髪。
幼くも、整った顔。
あと数年とすれば、男を手玉にとることなど容易な妖艶な女性となるだろう。
絶世の美女として語り継がれているかぐや姫。
空想上の人物であり、実在などするはずがない。
しかし、もしもかぐや姫が存在していたとしたら、彼女のような姿をしていることだろう。
束原まい。
それが、彼女の名前であった。
金に煌めく髪の色。
靡くそれは、見る者全てを魅了する。
日本人離れした白い肌。
そして、高い鼻と宝石のような青い瞳。
精巧に作られた人形のような美しい姿。
もしかしたら彼女は人形なのかもしれない。
生きている人物に対してそんなことを言えば、ただの悪口、失礼な言動と受け取られることもあるだろう。
しかし、その彼女に限っては、それは悪口ではなかった。
全てが計算されたように整った顔、髪形、スタイル。
それは人工的に作られたものだと言われても仕方がなかったのだ。
結月あい。
彼女の名前である。
アメリカ人の父親と日本人の母親の間がら生れた少女である。
ある日の朝。
そんな彼女らの通う高校。
教室での出来事。
「はぁ……。」
ため息。
それは、彼女らを見つめる集団の一人が漏らしたものであった。
「いつ見ても素敵……。」
うっとりと呟く。
「そうね……。」
同じく彼女らを見ている女子生徒が漏れた息に混じらせて言う。
彼女らこそ、あいとまいの非公式ファンクラブ姫の黒髪を撫でたい会と、金髪のお嬢様に仕えたい会の会員であった。
彼女らは知らない。
先週末にあいの強行でまいへワカメコーラをしたことを……。
そしてそれがあいの自宅で両親在宅中に行った為にすぐにバレたことを……。
そして先々週には件の発端となった女体盛りを行ったことを……。
「……私あんな綺麗な土下座初めて見たよ……。」
目の下にうっすらと隈が見え隠れしているまい。
「……私も……。幼馴染に両親が土下座してるところなんて初めて見た。」
同じく隈が見えるあいがポツリと呟いた。