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KAGUYA __月面blood__  作者: 質川類
第一章:コペルニクス·ダウン
5/9

予想内の想定外

『_______起きろ朔夜(サクヤ)ぁ!!』


「はっ!?」


一気に覚醒した。

鳴り響くアラート。

そして視界いっぱいに宮野(ミヤ)の焦った表情が、バイザー越しにみえていた。


『起きたかサク!早く立て、逃げるぞ!』


耳元から若干くぐもった声が聞こえる。

それが目の前の宮野(ミヤ)の声だと気づくのに数瞬要した。


今、何が起きている?


宮野(ミヤ)、なんで僕は外にいる!?」


『ったーちくしょう、頭ぶつけて記憶が飛んでやがるな。説明は後だ!とにかく立_____』


て、の声は突然のノイズと砂ぼこりの風に遮られた。


『______くそ、いいから立て!』


ぐ、と体を引き上げられ、なんとかよろめく頭を押さえながら二本の脚で立ち上がる。

自分の心拍数が異常に跳ね上がっていることに気がついた。


そして、視線は自然と外へ、


「________え?」


外へ。黒い空。白い地面。白と黒との二色刷り(ツートーン)の風景。

そして基地を彩る赤い爆発と灰煙、白に染み付くシミのように張り付く黒い点_____あれは、『燃えた宇宙服』?

そのすべての惨状が、無音で繰り広げられる。


視線を巡らせた。


光線が地面を穿ち、大量の砂を巻き上げる。

その衝撃に数人の戦闘用甲機動スーツの影が吹っ飛んだ。

べつの光線が走り、白く塗装された基地の壁を穿ち、建物を無音のまま吹き飛ばした。

なんだ?何が起きている?


「...............ミヤ、これはなんだ?」


『あぁ?』


次の瞬間、背中に衝撃が。そこでようやく自分がいつのまにか宮野(ミヤ)に引きずられ、岩影に押し込まれたと自覚した。

なんだ、何が起きている。

僕は宮野(ミヤ)の声を遠くに聞きながら、記憶を掘り起こそうとした。






_____「ノザカやらかしたっぽいってな」


「なまじ一番上だからいい気になってんのよ」

「体重も減って万々歳ってな」

「喧嘩売ってる?」

「あれ、当たってた?」

「なんで私の話になってんのよ!?」


_______『B23-L倉庫(ガレージ)』。


物流基地である『コペルニクス』の中にある大型倉庫の1つで、僕達『第02対機甲新人兵団』の支給装備が並べられている部屋でもあった。

薄緑に塗装されたロッカーが陳列棚のようにずらりと並び、その奥には多脚式月面戦車(ルナタンク)『パラポネラ』の背中に装備された巨砲が見え隠れする。

宮野(ミヤ)とルナ、そして僕が到着したときには体型にフィットした、白い屋内宇宙服でごった返していた。


「うっへー人多いなぁ····まるで人がゴミのようだってな」


「そりゃ5クラス全員いるんだ、これくらいになるよ」


「というかなんでそんなクソ古いアニメ映画のネタが出てくるのよ。目潰し食いたいの?」


ミヤのぼやきにルナと僕がそう返すと、目の前の看板が目にはいった。


『強襲級(クラス·アサルト)


「ミヤ、あっちだ」


「お、一応かかってるんだな看板。んじゃルナ、またあとでな。迷うなよ?ってな」


「分かってるわよ!バカにしないでくれる!?」


『車輌級(クラス·アムド)』のルナと別れ、『強襲級(クラス·アサルト)』のコンテナ群にたどり着く。

横ではなく、縦に立てられて並ぶ人間サイズのコンテナ群は、まさにロッカールームだ。

説明と同時に渡されたカードキーをポケットから取り出す。


『A-15 Sakuya Susukino』


出席番号順か。

人込みを掻き分け、自分のコンテナの前に出た。

薄緑。そこに横長の白いテープに印刷された『A-15』の文字。

コンテナの蓋を閉じているスキャンロック。


「一日ぶりだな、薄野(ススキノ)


そこのスロットにカードを差し込もうとした時だった。

隣から野太い声がかかる。


「·····セルジオ、最後に話したのは地球を発つ前日だから二日ぶりだと思うけど」


セルジオ=アームストロング。


ガチムチに鍛え上げた筋肉と真っ白な歯が特徴の大男。

僕より頭一つ分上の身長で、屋内宇宙服は彼の特注じゃないか、と思えるくらい彼のからだに張り付き、その大胸筋や腹筋を浮かび上がらせていた。

僕の一つ後ろの出席番号で、同じ『強襲級(クラス·アサルト)』だ。


「いつも君には遅れをとってばかりだが___実戦では負けないぞ。お互い生き残ろう」


カードキーを差し込む。


《カード、認証。open》


合成音と共にロックが外れる独特の金属音が響いた。


「······悪いけど、僕は君と勝負しているつもりはないよ」


取っ手を掴み、蓋を開ける。


「ハハハ、手厳しい。流石『実技一位(エース)』だ。言うことが違うね」


コンテナの中には3つの支給品が入っていた。


「それ当て付け?」


支給品の一つは戦闘用甲機動スーツ《火鼠改》。

装甲は軽いのに分厚い。

·····これ、『着る』んじゃなくて『着ける』タイプか。


「いやいやまさか。····ただ私の闘志が燃え上がっているだけだよ」


「·········」


《火鼠改》の装甲を填めながら他の支給品を見る。

もう一つは日本刀のような黒い太刀。

刀身には『Moon blade』と刻まれていた。

····専用武器じゃ、ない?


「____だから私は君には負けない。必ず君よりも武勲を挙げてみせよう。悔しがっても遅いぞ!」


下半身のブーツ、大腿部の装甲、バーニア、腰のアーマーを取り付ける。

上半身の鎧のような袖まで一体になったアーマーを手に取る。


「····勝手にしてくれ。何度も言うけど、僕は君と競ってるつもりはないよ。···何回ライバル宣言されても同じだ」


上からスッポリとアーマーを被り、腰のアーマーと接続。カチリと軽い音が鳴る。

続いて左腕の手袋を手に填め、右手の手袋を手に取る。


「ハハハ、訓練校から変わらないな薄野(ススキノ)!安心しろ、ライバルと認められるにまで迫ってみせるさ!」


着替えが終わったのか影がニュ、と出てくる。

ヘルメットまでして逆光で表情は読めないが、白い歯がわずかに光に反射した。


「·····準備できたんなら行きなよ、置いてかれるよ」


その影を見上げながら右手の手袋を填めると、ヘルメットを脇に抱えた。


「そうだな!では『ガッセンディ』で会おう!」


別れ際までアメコミのヒーローじみたセルジオを見送ると、ヘルメットを被り、『Moon blade』は背中のアタッチメント、最後の支給品であるサブマシンガンのような『電磁銃(リニアガン)』を腰のホルスターにそれぞれ接続する。

ヘルメットを起動させた瞬間、填めた装甲の関節などの接合部が特殊な繊維によって繋げられ、空気が抜ける感覚と共に全体的にブカブカだったスーツが体にフィットする。

そして次々に視界の端に涌き出てくるウィンドウ。

心拍数、酸素残量、服内気圧、服外気圧、大気内成分、味方識別アイコンetc...。

一通りウィンドウの確認を終えると、ヘルメットのバイザーを解除、バイザーが上にスライド収納され、顔が露出された。

周りの人間も大体が装備を着終えたらしい。ゾロゾロと月面迷彩の鎧が出口へと向かっていく。

にしても『専用武器』は何処に?

····ガッセンディ(向こう)で支給するのか?


「____おいサク、なに考え込んでんだ?推理前の考察タイムってなってか?」


しかし邪魔が入った。


「ミヤか····お前随分と軽そうだな」


振り返ると、着替えてないのか、と思えるほど薄めの戦闘用甲機動スーツに身を包む宮野(ミヤ)の姿が。


「いや?そうでもないぜ。周り連中の装甲がちと分厚いだけだ。なんせ『遠距離』兵ってな」


「殴り合いをしながら銃口を鳩尾にねじ込むのは遠距離って言わないよ」


カードキーをコンテナの中に放り込み、扉を閉じる。


「それはサク限定。他の奴はちゃんと遠くから狙ってるってな。

·····例の『重龍級ドラゴナ』も遠くから削ったろ?」


「基地攻略演習の時はガンガン撃鉄で『月面人(アンドロイド)』ぶん殴ってたけど。

·····そんなことやってるから『鉄砲玉』って言われるんだ」


ため息をつき、人の流れに乗るように歩き出す。

宮野(ミヤ)もついてきた。


「あ、それ隣のキイナからも言われた。もうちょっとセンスのある名前つけろよなー」


「そんな的の外れたツッコミ入れるの宮野(ミヤ)だけだよ」


「いやいや、あだ名にも気を使わねぇと。ジョークは大事だぜってな。んじゃ行くか____


突如、光が滲み風景が、声がぼやけて消えていく。

意識が浮上するような意識に捕らわれ、滲んでいく景色に夢中で腕を伸ばして

『おいサクしっかりしろ、聞いてんのか!?』


「____ぐっ!?」


ガン、とバイザーを叩かれて意識が現実に戻る。

···どうやら、途中で気を失っていたらしい。


『やっと起きたか、死ぬかと思ったぜ····俺の話どこまで聞いてた?』


「話?」


『····今何がどうなってるかって説明だ!しゃんとしねぇと死ぬぞ!?』


「それか····そう、それだ、今何が起きてる!?」


とにかく状況見なければ。

僕の上にのしかかる宮野ミヤをもぎ落とそうと体を振るが、宮野(ミヤ)は必死にそれを押さえ付ける。


『落ち着けサク、記憶が飛んでるのは解った。もっかい教えてやる、だから暴れんな、落ち着け!』


「落ち着いてるよ!」


『落ち着いてねぇよバカか!?』


再びゴンッ、と頭が弾かれた。

ヘルメットの衝撃吸収材のお陰で全く痛く無かったが、視界の先に拳銃型の『電磁銃リニアガン』の撃鉄を上げたミヤが目に入った。


『落ち着いたか?』


なんとか、息を整える。

その間にもミヤの後ろで基地の壁にが光線が直撃、白い壁を黒く穿った。


「はぁッ、はぁ、....悪かった」


『おーけー、手短に言うぜ。今月面基地『コペルニクス』は『月面人(ルナリアン)』の襲撃を受けてる』


「はぁ?」


耳を疑った。しかし、ミヤは止まらない。


『だから聞けよ。で、その『月面人(ルナリアン)』の襲撃によって指揮系統が混乱、今俺達は『待機』状態になっている。つまり『各自の判断で動け。ただし基地から出るな』って訳だ』


「.....じゃあその『月面人(ルナリアン)』を倒せばこの危機は終わるってことか?」


『バカ言うな、今基地を襲ってる『月面人(ルナリアン)』ってのは___』


体が宙を舞った。

隠れていた岩にレーザーが直撃した、と気づいたのはなんとか両足で月面に着地した時だ。

一体その『月面人』はどんな兵器を持ち込んだんだ。

顔を上げる。クレーターの縁を見上げる。


見上げて、しまった。

時間が止まったかと思った。

黒い空に浮かぶ、純白の巨体。

下半身は大きなドレスのように裾が広がり、スカートの中からバーニアの炎が吹き出している。

大きな下半身に比べ、幾分か貧相な胴体から伸びる細長い両手の先には二丁のショットガンじみた巨砲。

そして何より心臓を鷲掴みにされたのは、背中に生えた巨大な翼。

その佇まいは。


『·····三年前(ダイダロス)の再来。『月の王』ってまで言われてる現在確認個体の中でも最悪の個体····』


唸るようなミヤの声は、もしかしなくても震えていた。


「コードネーム『堕天使(サリエル)』····!?」


『いきなり最凶最悪ってやつだ····!』

はい、と言うわけでいきなりラスボス戦なサク達です。

····わかります。言いたいことは山ほどあるでしょう。

正直私も『どうしてこうなった』と言いたいです。

ですが彼らにとってはこれが現実。是非登場人物と一緒に混乱してください!


次回は『やっぱり自分の命は大事』をお送りします。

サク「ゲスいね、タイトル」

ミヤ「色々変えるんだろ。作者も大変ってな」

サク「なんだろう、いきなりミヤを殺す羽目になりそうだ」

ミヤ「オーケー、一緒に月の空気吸おうぜ。さぞ解放感がやべぇってな」


すっげーアウトローな会話だなおい。

ではでは!

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