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KAGUYA __月面blood__  作者: 質川類
第一章:コペルニクス·ダウン
4/9

予定調和の腰を折る

____月面基地『コペルニクス』第三棟作戦ブリーフィングホール。

『ホール』というだけあり、その内装は映画館とほぼ変わらなかった。

違うところはスクリーンが液晶パネルで、教壇の前にホログラム投影機が二つ、サブスクリーンとしてあるところか。

段々畑状に10段ある扇状に広がった長机。

100人を越える『第02対機甲新人兵団』の面々がゾロゾロと席につくなか、五段目の指定席に宮野(ミヤ)と僕はならんで腰かけた。

テーブルを見ると、資料が何枚か置いてあったので手に取った。

『後方基地コペルニクスの概要』と書かれたパンフと、基地の見取り図、支給装備のリスト、各々の装備が入ったロッカーのカードキー。

取り敢えず『後方基地コペルニクスの概要』から読み始めてみる。

関係者しかいない基地に案内パンフレットがあるのもなんとも妙な話だが、『ようこそコペルニクスへ』の紹介文から始まる作り方の力の入り方は尋常ではなく、まるで博物館か何かのパンフを見ている気分だった。

それによると、『コペルニクス』は『月地間軌道回廊(アリアドネ)』から送られてくる物資を全線基地に送る物流基地としてだけではなく、『宙間航空機(スペースプレーン)』や僕たちのような補充隊への補給、物流基地という立地から交通網としての中継地点、更には月面基地を繋ぐネットワークの中継点としても使われている重要拠点の一つらしい。

縦約10km横約20km四方、約200km³三階建ての第一棟

一辺100m四方、10km³四階建ての第二棟

そして、僕たちが今いる縦50m横110m一階建ての第三棟が、クレーターの西側に『品』の字の配置で並び、円環状に渡り廊下で繋がっている。

その他にも『宙間航空機(スペースプレーン)』の滑走路、クレーターの縁に並ぶ対空ミサイル、『大口径投射砲(レールキャノン)』、レーザーを意図的に撹乱、屈折させる『パルスバリア発生機』など、おおよそ後方基地とは思えない防衛力も備えている。

ちなみに第一棟。

そこは倉庫棟で、一階をA、二階をB、三階をCと分け、それぞれの階には23の区画がある。

そして23の区画の内、面積が大きい順にL.M.Sと区分けされるのだ。

つまりA階の15番目にあるSサイズの倉庫はまんま『A15-S』と表記される。

あと、A.B.Cの階に入れるものはそれぞれ決まっているらしい。

_____ちなみに僕らが支給装備を受けとるのは『B23-L』倉庫だった。


次の第二棟。

そこは士官用の居住スペースで、レクリエーションルームなんかもあるらしい。

僕らが待機していた休息室は第二棟だったのだ。

延々と何十mも歩かされたのは渡り廊下だ。


最後にここ、第三棟はブリーフィングや会議に使われる多目的ホールらしい。ここと同じ規模のホールがあと二つあるというのだから規模の大きさが伺える。

·····前線基地でもないのにこんなにホール作って何を会議するのかとても気になるけど。


「大ホール三つに会議室10ってそんなに部屋使って何やるんだ?実践より作戦ってなってか?」


同じ事考えてたらしい。


「まぁ物流基地だし____」


「あーいたわねやっと見つけた!!」


「「!?」」


いきなりの大声に揃って肩を跳ね上げる男二人。

宮野(ミヤ)がずんずんと進んでくる彼女に驚きの反動で思わず声をあげた。


「いきなりなんなんだよ、浮気現場見咎めたってなってか!?」


そんな彼の叫びを無視して僕の隣にドカリと座り込むと、堰を切ったように文句を垂れ始めた。


「ここ広すぎるのよ全く!大体女子の待機場所が遠すぎる!ここに着くまでに軽く300mは歩いたわ!」


どうやら不機嫌の原因はそこらしい。

それを察した宮野(ミヤ)は不意に頬を歪めると口を開く。

····また始まった。


「·····おーおー挨拶もなしにフルスロットルだな、『ルナタンク』」


「ミヤ!それやめなさいって私何回言ってるのよ!?

____『月面戦車(ルナタンク)』じゃなくて『ルナミリア』!ルナミリアなの!いい加減覚えなさいよ!」


「いやー、やっぱ『タンク』の方が似合うってってな、なぁルナタンク?」


「うっさい!」


···毎度の事だが僕を挟んで言い合いを始めないでくれるか。

うんざりしながら隣のミヤに唾を飛ばす華奢な肢体の少女をみる。

___ルナミリア・ルーシェ。

サラサラで肩上までのミドルショートを揺らし、僕らの肩ほどの身長、そして細い四肢ながら一応膨らんでるおっぱい。

顔もそこそこ可愛いからおおよそ黙ってりゃ『華奢な女の子』でモテ期の一つや二つ来ただろうに。

とにかく言動が激しい。いつもなにかに怒ってるような印象だ。

そしてその性格に違わず、選択兵科も『車輌級(クラス·アムド)』、つまり主に戦車やトラック、ドローンや輸送機による操縦、戦闘支援を主にするところであり、『ルナミリア』の名前も相まって、部分的にもじった『ルナタンク(月面戦車)』の異名(仇名)を頂戴していた。

ちなみに、それを正面から弄りにかかるのは僕と宮野(ミヤ)だけだ。

まぁ、普段は『ルナ』って呼んでるけど。


「だーもう怒った!勝負よ!勝負!」


「へぇ?今度はなんだ?『アッチ向いてホイ』?『いっせーのーで』?『CCレモン』?それとも『イチイチ』か?ぜーんぶ俺が勝ってるよな?悔し涙中毒ってなってか?」


「うっさいわね!違うわよ、今回は純粋無欠のじゃんけんよ!」


なにが純粋無欠だ。お前の一番の苦手ジャンルだろ。

あと、その負けず嫌いは別のところに行かせないものか。


「いいぜ、じゃあ三回勝負だ、勝てるもんなら勝ってみろってな!」


·····てか、そろそろ始まっちまうな。

白熱している二人の間に割って入ろうと立ち上がる。

が。


「おい、落ち着けよ、作戦ブリーf


「「サク!勝負の邪魔しないでよ!(するなってな)!」」


「ぐげっ」


おもいっきり二人に頭を押さえつけられて机に叩きつけられた。

このあと、僕の頭上でじゃんけん三回勝負が繰り広げられた。

結果は推して然るべき、だ。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


『____よし、全員揃ったな』


短いハウリングの後に響く野太い声。


『よし、これから第02対機甲新人兵団への行動ブリーフィングを始める。

司会は私、『東線』作戦統括総司令兼、月国連軍大佐のグレゴリオ・アージェンタムだ。ここ、『コペルニクス』の司令も務めている。以後よろしく』


壇上でマイクを握っているのは、借り上げた金の短髪、厳つい眼光と、黒の軍服越しからでも分かる屈強に鍛えられた肉体。

まさに軍人と呼ぶにふさわしい男だった。


『今回は、新人兵だということで、学校で習ったであろうところから、詳しく説明し直していく。一回しかやらないからな。勉強不足の者は紙とペンを用意することだな。


____さて、まず敵についてだ。

『月面人(ルナリアン)』。彼らの存在が証明されたのは三年前だ。何が原因だったかというと、そう。有名な____』


「ダイダロス遭遇だ」


横合いからミヤが耳打ちしてきた。

知ってるっての。


『_____だ。この人類史初となる『月面からの攻撃』により、『月面人(ルナリアン)』の存在、及びその危険性が発覚した。

国連は『月方面国際連合調査団(M·U·S·T)』を組織、撃墜された『月面探査軌道ステーション『α(アルパ)』への調査、同時に『月面人(ルナリアン)』へのコンタクトを始めた。

···だが、結果は知っての通り、『月方面国際連合調査団(M·U·S·T)』の派遣隊は月の極付近で全滅、コンタクトにも応えなかった。

我々国際連合はこれを宣戦布告と解釈、『α(アルパ)』奪還に向けて『月方面国際連合軍(M·U·A)』を再編し、月面に送り込んだ。

これが、三年前の『ダイダロス遭遇』から『月面出兵』までの概要だ。ここまでは歴史の授業でも習う内容だな。


____が、同時にこの情報は統制された上で、地上に下ろされた『表の情報』だ。

実情は僅かに違う』


会場がざわめいた。

皆がザワザワと耳打ちし合うなか、隣の宮野(ミヤ)は、


「____________」


真顔。

表情の無い、今まで見たことのない位の冷たい視線をホールのステージに投げていた。


「·····ミヤ?」


「っ、····あ、ぁなんだ?」


「いや、あの···何でもない」


『静粛に!』という言葉で遮られた為、言葉を濁す。宮野(ミヤ)もそうか、とだけ答えて後はなにも言わなかった。


『ゴホン、____違う点は、『月方面国連調査団(M·U·S·T)』の存在だ。

この組織は『存在しなかった』。

我々国際連合は『α(アルパ)』が占拠された時点で実は彼らから『宣戦布告』を受け取っていたのだ。

使用言語は、英語。

原文と録音テープはトップシークレットだが、概要を説明するとこうなる。


『愚かしき地上の民よ、貴様らはついに、禁忌と聖域を侵した。よって、我々は地球に対し宣戦布告する。白銀の世界は貴様らの血で赤く染め上がるだろう』


···どこで我々の言語を調査したかは不明だが、この宣戦布告を受け取った時点で『月面方面国際連合軍(M·U·A)』が組織された。

そして地球への侵略を阻止するために進撃を開始したのだが、月面探査軌道ステーション『α(アルパ)』は現在も『月面人(ルナリアン)』の占領下にあり、全く手出しが出来ない状態だ』


「____質問です!司令!」


突然ホールに響く凛とした声。

声の元を探すと、二段下の端っこで高く挙げられた手が見えた。


『質問はまだ受け付けていないぞ』


「申し訳ありません。

ですが、確認しておきたいのです!」


再びホールに響くよく通る声。


「誰かと思えばアヤナじゃない」


隣でルナミリアが刺々しく呟いた。


___綾奈·ルーファウス·ノザカ。


第02対機甲新人兵団きっての秀才。

同じ『強襲級(クラス·アサルト)』だが滅多に話したことはない。

座学成績はトップで、いつも成績順位のてっぺんを飾っていた。


『·····手短に終わるのだろうな』


グレゴリオ司に低い声がホールに響く。


「はい!問題ありません!」


『···よろしい。許可しよう』


「感謝します!」


手を挙げていた影が立ち上がる。

暗がりでも分かる艶のある長い黒髪を後ろで一本に束ねていた。


「やめとけよアイツは。ガチの優等生ってな」


「誰が狙うか」


からかってくるミヤの肩を軽く叩いたのを合図としたかのように、アヤナ·ルーファウス·ノザカは話し始めた。


「······先程司令は『全く手出しが出来ていない』と仰られました。

我々の任務も進軍する調査団の防衛と『月面人(ルナリアン)』撃破が主でした。

·····ですが、今の説明ではその進軍すら出来ていない様子。

そうなると我々が月面に派遣された理由が根底から覆ります。

______我々の本来の任務はなんなのですか?嘘の任務まで伝え、月面まで派遣された意味は!」


一際大きくザワリ、と会場が揺れた。


「よく覚えてたもんだよな、任務の内容とか。流石秀才ってな」


「むしろ覚えてないの!?あっきれた!」


笑う宮野(ミヤ)にツッコミを入れるのはやはりルナだった。

しかし、僕は任務内容よりノザカの方が心配だ。


「·····でも大丈夫なのか?そんなぶっこんで」


「さぁ?まぁでも確かに『α(アルパ)』に進軍する準備すらしてないってのは『聞いてねぇ』ってな」


「地上に下ろしたのと、内部では情報が違うなんてこと普通よ!第三次大戦の『ドイツ軍』と一緒、戦意高揚のために流すニュースで敗北速報なんて誰が聞きたいのよ!」


「ルナ、流石に持ちだす話題古すg


「_____静粛にィッッッ!!!」


ヒィィィィィイン_____。


許容音量を越えたマイクによるハウリングが一瞬で静まったホールに染み込むように響く。

まじか。あれ、マイク使ってなかったぞ···。


『____貴官、名は?』


スピーカーから低く、圧し殺したような声が響く。


「っ、」


しかし、ノザカは答えない。


『どうしたね、早く答えよ、____答えろと言っているッ!!』


「は、はい!綾奈·ルーファウス·ノザカ!階級は上等兵であります!」


あぁ、もう半泣きじゃん、声。


「ふん、良い気味よ」


ルナ、お前は黙ってろ。


『ふむ、ノザカ上等兵。貴様の質問は確かに鋭かった。

____が、貴様は少々先走り過ぎたな』


「申し訳ありません!司令!」


『·······ッチ、少々予定が狂ったな。まぁいい。

____質問も来たことだ。本題に入らせてもらおう。


まず、前述した通り、現在我々は『α(アルパ)』のある『裏側』へ進行出来ていない。理由は四つだ。

まず第一。

裏側の地形は複雑に入り組んでおり、目標点やで進軍できる見積もりが低いこと。

第二に。

『α(アルパ)』などの軌道ステーションを始めとした宙間輸送機関、及びドローンや戦闘艦などの宙間移動手段、偵察手段が『月面人(ルナリアン)』の精密且つ迅速な迎撃網により、ほぼ役に立たないこと。

第三。

『月面人(ルナリアン)』が表と裏の境界線に多数配備されており、それの突破が難しいこと。

第四。

前述の三つの理由から大規模な進軍作戦にも多大なリスクがあること。

____その中で、『理由第三』への突破口として組織、編成されたのが貴官ら『第02対機甲新人兵団』だ。

貴官らの部隊はまず『東線』前線基地『ガッセンディ』に向かってもらう。そしてそこで現地の隊と合流、あとは向こうの指揮官に従え。

輸送機と共に運ばれてきた貴官らの支給装備は既に『B23-L(ガレージ)』の方に用意してある。出発は30分後の地球時間17:00だ。

_____解散!』


____つまり完全に攻めあぐねてるのか。

きりーつ、敬礼ー!

とアヤナ·ルーファウス·ノザカの叫ぶような号令に従って立ち上がりながら、僕は呑気にそんなことを考えていた。

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