常識はずれの現在地
月面基地『コペルニクス』。
月の表にある深さ嵐の大洋の東部に位置する、直径93キロ、深さ3760メートルのクレーター『コペルニクス』の底に建造された後方支援基物流基地。
前線への物流の中継点に使われている、月面基地としては『静かの海』にある月方面国連軍本部基地『アポロ·オーシャン』に次ぐ二番目に大規模な月面基地だ。
その基地の居住スペース、病院の待合室を思わせるホールで僕達『第02対機甲新人兵団』は束の間の休息時間を貰っていた。
周りはガヤガヤザワザワと騒がしい。
僕は、全員が体型にピッチリした、白い屋内宇宙服を着ている景色を、ベンチに座って眺めていた。
しかし、そんなボッチはいつまでも続かず、隣にドカリと、先程教官にしょっぴかれたミヤ__宮野彼方が座る。
彼は座るや否や肩を回しながら憂さ晴らしに大声を出した。
「だーあのクソ教官め。言論の自由はどこいった!」
「タイミングが悪かったんだろ」
そんな彼の叫びもすぐに掻き消されるような喧騒。
閉鎖空間はよく響くな、なんて考えつつ相手をする。
あのチャットの件は僕もいつ呼び出されるか分かったもんじゃないし。
「サクはいいよな!なんのおとがめも無しなんてよ!無罪放免ってな!」
「僕は被害者だからな」
「承諾しといてその言い逃れはキツいんじゃねーのってな」
「教官には通用してるみたいだけど」
「どうせ作戦前だから叱るエネルギー温存しときたいんだよ。作戦終わったら教官殿のよる処罰激励鉄拳パレードってな」
ベンチの背もたれに両腕をかけ、両足を伸ばしてだれる宮野。
それを横目に見ながら、僕も背もたれに体重を預ける。
「···戦果によっては配置がえもあるかもね。僕ら初陣だし、それに『強襲級』だしさ」
「うわーやだやだ。サクと引き離されて音信不通なんて嫌だよ俺は。以心伝心ってな」
「気持ち悪いこと言うなよ····分かってるだろ、僕らは『機甲兵器』の切り札であると同時に斬り込み隊長なんだから。同じ隊に二人も三人もいらないよ」
「選ばれし精鋭ってのもつらいってな。
····つーか『月面人』の、だろ。イマドキそんなカビがミイラ化するような古くさい呼び名使ってんのお前くらいだぜ?」
両腕で自分の体を抱き締めてくねくねしつつツッコミをいれる宮野から目を離し、天井を見上げる。
しかしあの妙な『ってな』で終わる口癖はどうにかならないものなのか。
地上に比べてやや高く、正方形のタイル張りになった天井は全面『LEDタイル』であり、白い光がぼんやりと、しかし明るく部屋を照らしていた。
「····なぁ、ミヤ」
僕は宮野のことをミヤ、と呼ぶ。
対して宮野は僕をサク、と呼ぶ。
「なんだー?」
隣から間抜けな返事が聞こえる。
「·····誰か予想できたかな。月の裏側に人がいた、なんてさ」
「『月面人』ねぇ。人っていいつつ実はロボットなんだろ?どっかの変形金属生命体ってな。····ま、相手が誰だろうがかわんねぇけど。『ピンチの時こそジョークと拳』ってな」
「前も言ってたな。モットー?」
「親父のな」
「自分のじゃないのか」
「そんな語彙力も人生経験もねぇよ····」
「シュミレートとは言え一人で『重龍級』に電射砲で突っ込んだ奴がよく言うよ」
「結果殺れたんだから結果オーライってな」
彼の嘆息を聞きながら、僕は視線を降ろし、自分の拳を見つめる。
「···コロンブスとかマゼラン探検隊とか、まぁ『新天地』ってやつを見つけてきた奴らも、ペンギンやら原住民を見たとき、多分僕らと同じこと考えてたのかな····」
ミヤノが体を起こし、こちらを向いたのがベンチの軋みと服の音でわかった。
「····バーカお前、次元がちげぇよってな。俺たちゃ変形宇宙人と殺り合うんだぜ?探検とか遭遇とか言ってる場合かよってな」
「·······わかってる。そこから目をそらした訳じゃない」
グ、と拳を握る。
僕らが今からやるのは『戦争』だ。
「ならオーケーだ。····てかさ、お前いい加減教えてくれてもいいんじゃね?」
突然横合いから僕の肩を組み、詰め寄ってくる。
「なにがだよ?」
「とぼけたって無駄だぜってな、薄野朔夜。月まで追っかけて来たんだろ?武勲上げて目立たねぇとなってな?」
「っ····お前まだそれを、てか顔どけろ···!」
そんなこんなでいつものようなじゃれ合い(関節技のかけあい)を始めようとしたところで。
『___ピンポーン 地球時間1600より、作戦ブリーフィングを始めます。第02対機甲新人兵団は速やかに第三棟のブリーフィングホールにお集まりください。
繰り返します。1600よりブリーフィングを行います。第02対機甲新人兵団は第三棟ブリーフィングホールへ移動してください』
「四時から、か。待たせたねぇ...」
「言っても40分位しか待ってないぞ」
ピンポーン、と放送終了のチャイムが鳴る頃には二人ともベンチから降り、立ちあがっていた。
ゾロゾロと喧騒がブリーフィングホールへと移動し始める。
ミヤノは伸びをして、気軽に言った。
「さて行きますか、ってな」
「____あぁ、行こう」
主人公と登場人物2が登場。
次回はもうすこしメインメンバー増えます。