プロローグへのエピローグ
『___ザザザ、残り2:00分で『コペルニクス』へ到着予定。総員、シートベルト着用、着陸態勢に着け』
___非常灯で赤く染まる空間。
壁の一面が巨大なシャッターになった長方形の大部屋。
壁の両側には、背中をくっつた丸い頭のやや寸胴の服がズラリと並ぶ。個性もへったくれもない一律規格の戦闘服は『月面迷彩』と呼ばれる白と灰のデジタル迷彩柄で統一されていた。
何も知らない純粋無垢な少年が見たら『ロボットの倉庫』、位には夢のある回答が返ってくるだろうか。
だが残念ながら『ロボット』などと言う『効率的な兵器』を積んでいる輸送機ではない。
俺達『人間』が作業用宇宙服を着込んでいるのだ。
丸いヘルメットの前面に大きくくり抜かれたバイザーがあるが、誰1人として遮光を上げていない為、バイザーは真っ黒で奥にいる顔は拝めない。
向かいのブスの顔くらい拝みたかったが、こちらも遮光を下ろしているので人の事は言えないのだ。
バイザーの左下で点灯する着陸までのカウントダウンをウンザリした気分で眺めていると、右下に音声チャットの呼び出しがあった。名前に『miyano』とある。
承諾した。
「……なんだ?」
『大袈裟だと思わね?地球の着陸じゃあるまいしってな、たったの1/6しか重力ないってのにさ、1/6だぜ、1/6』
「不測の事態の為だろ。撃ち落とされたり」
『おいおい、そんな事態想定するほど暇なのか?ウチの参謀本部って。お役所仕事ってな』
「俺に当たるなよ···退屈なのはわかるけどさ」
『大体なんだよ、『月面人』ってさ。デブリロボットの間違いだろうが____ザザザ!』
音声チャットが不自然なノイズ共に中断された。どうやらこの輸送機のコマンドルームにいる教官殿にチャットがバレたようだ。
反対側の端の丸頭が不自然に前後しているのでソイツがミヤだろうだろうと当たりを付ける。
ややあって、今度は右下のオープンチャンネルが開いた。
『___ザザザ、えー、もう間もなく月面基地、『コペルニクス』へと着陸する。それは左のカウントダウンで分かるだろう。
行く前にも繰り返し言ったが、『訓練』は全て地球で済ませてある!ここ、『月面』に於いて『訓練』で済まされる事は一切ないと思え!
更に忘れてはならないのは、貴様らは『義勇兵である』、という事だ!
入隊には数々の問題を抱えた者もいよう、入隊するしか道が無かった者もいよう、入隊する事に憧れた者もいよう、
しかし!そんな『個人の事情』なんぞ弾丸は聞いちゃくれん!貴様らがどれほど『月面での対機甲兵器戦に特化している』と声高く叫んだ所で戦闘服の破れは塞さがれんのだ!
『月面人』には容赦はいらん!
それをよく心に刻み込め!分かったかッッッ!』
「Yes,Sir!!」
反射的に返事する。周りの声は分からないが、皆同じように唱和した事だろう。軍隊精神、ここに極まれり。
カウントダウンが1:00を切る。
いよいよ着陸が始まる。
刻刻と刻み続けるカウントダウンを睨みながら、僕は無意識に呟いた。
「____俺は来たぞ、約束通りに」