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第5話 相反する者たち


(何の、音だ……)

 少なくとも実弾銃の発砲音ではない。

 だが、それを連想させ同等の反応を身体がとるものだ。

 人の注目を集めているという私という個人にとっては異様な状態。そして久々に感じるピリピリとした殺気に空気が粘度を持ったようにねっとりとまとわりついてくる。

 無意識のうちに発動したクロノスの力で音は途絶え人々は止まっているように見えた。

「どうした?」

「……ごめん。……なにか、変」

 震えた声を絞り出すと右手を前に突き出す。会場を包み込むように障壁を展開した瞬間、衝突した光弾が弾け煙が障壁の外で渦巻く。

 クロノスの自己加速が解け、突然の轟音に悲鳴が響き渡る。

(当然だ)

 ここにいるのは戦いを知らない人間なのだ。戦闘部員のみならばすぐに迎撃態勢に移るところだが、一般人が多すぎる。背後には日本政府の要人が控えている。

「――様っ!」

 聖王としての私たちの名をよみながら舞台の裾から飛び出てきた片山が拳銃を片手に駆け寄ってくる。

片山ハイド、私ではなく今は彼らの安全を他の護衛と共に。我々は後回しでいい。……光騎士各員はイスクと共に一般人を安全な場所に誘導せよ! エリック、そちらの指揮を。レクトルは私についてこい」

 指示を飛ばしている間にも障壁に着弾した弾から新しい煙が生まれる。

 腰に下げていた実体剣を抜きはらうと、展開していた障壁を解除する。

 煙の中の微かな光とクレアレアの流れを察知する力を最大限に生かしアラキアはパージから光弾を放ち、相手の光弾を相殺していく。舞台上に落下してくるものは私が切り落とし無力化する。

「避難完了しました! お二方も!」

 舞台下から叫んだアストレに頷くと壇上から飛び降りる。

(一体だれが、こんなことを!)

 とんできたのが光弾だという点からして相手はトゥルーエ以上の力を持つ人間だ。でなければ光銃は扱えない。しかしトゥルーエにしては威力が高かった。

「これは、イスクなのか?」

「大旅団員じゃないイスクっていうのはどう? どっちにしろ、捕まえてみればわかる!」

 光弾がとんでくる方向へ向かって羽を広げ飛び立つ。後ろからアラキアが付いてきているのはクレアレアの軌跡で見なくても分かった。

「捕まえるだって!?」

「避難誘導できたのはあくまで会場内だけであって、周りはできていない。都心ってことは人はたくさんいるんだ! それに襲撃犯は1人じゃない! 複数だよ!」

 誰にも聞こえないため普段通りの口調で叫ぶ。

「ならばそれこそ眷属とまではいかなくてもイスクを数部隊連れていくべきだ! 危険だ」

「嫌な予感がするんだ。そんな時間もないような。……変にクレアレアが集ってる……あそこにっ!」

 指さした先で光が煌めく。

 建設中のビルの屋上から飛来した光を斬ると解放された力が爆発を起こす。今いる場所はまだ高層ビルが密集しているとは言えない場所のため爆発が起きても影響はないが、進路上にはどうしてもビル群が見える。

 射出音と光弾の到達時間から見て先ほどもあそこから撃ちだされたものだったのだろう。敵は1か所に固まっている。

 私はアラキアの手を掴むと垂直に飛び上がる。瞬く間に地面が遠ざかり気温が下がり始める。

「アルマ!?」

「黙ってて!」

 雲を突き抜けると今度は斜め下に向かって急降下する。

 通常の同高度からの自由落下の速度を超えているというのに何も異常が起こらないとはさすが完全展開体だ。羽を使い微調節すると光の軌跡を描いて目標としていたビルへ着地する。

 ゆっくりと立ち上がり顔をあげると左手を振る。

 宙から降りてきた光は人型を作り弾ける。

「やれ、いささか荒々しい召喚ではないかね?」

 光の中から現れた結城――レクトルは盾を構え剣を抜き放つ。

 クロノスの空間操作能力を応用して結城を転移させたのだ。力に組み込まれ継承者の力の一部ともいえる眷属のみに使える方法であり、これを私たちは召喚と呼んでいる。

 緊急時以外使わないことにしているが、今こそ緊急時だ。

「……して何のつもりだね?」

 レクトルがにらんだ先にはぼろぼろの黒い衣装に身を包んだ人影が6つあった。全員が光銃を手にしている。

 一見普通の光銃に見えるがあきらかにクレアレアの流れがおかしい。

 違法に改造された光銃というわけだ。だからこそあれほどの威力を出せたのだろう。

 しかし制御装置が外されているということはそれだけの危険性があるということだ。使用者への負担もそうだが、何よりも。

「貴様らはその危険性を理解しているのだな?」

 剣先をランチャー型光銃をもった男に向ける。

 改造を施せるということは専門知識を持った人員がいるということ。それならば暴走の危険性は知っているはずだ。

 光銃はガライア同様、クレアレアリトスが使われている。ガライアは適性者でなくとも使用できるように、そしてエネルギーの安定供給のためについている。光銃も同じくエネルギーの安定供給のためというのもあるが、それよりも威力上昇のための増力装置としてあの青い宝石が内蔵されている。

 クレアレアリトスは安定した物体だが、まれに暴走を起こすことがある。

 クレアレアリトスはクレアレアの制御が突如効かなくなり、最悪暴走と呼ばれる状態になり周囲に甚大な被害を引き起こす。一度ハルの研究室で起こりかけたが、咄嗟に漏れ出た膨大なエネルギーを消費して事なきをえたという。そのため一般用のガライアには防護策がとられている。

 ここでそんなことが起きれば多くの人が巻き添えとなる。

 私たちならば巻き込まれても耐えられるだろうが、ここは都心だ。

「……ふん」

 男たちからは答えの代わりに光弾の嵐が返ってきた。

 建物に被害が出ないよう、光弾を包み込むように障壁を展開し受け止める。またあの嫌なクレアレアの気配は大きくなる。

(このままじゃ暴走する……!)

 降り立った時、展開を解き聖王としての制服姿に戻っていたが相手がイスクでもこのままで対応できる。それだけ力を使いこなし、動き回れる自信はある。

 だが暴走した力を抑えるとなると完全展開しないといけない。

 しかしそれではこの襲撃者たちを取り逃がしたときに正体が漏れる可能性が出てくる。

(ボクは……)

 何を迷っている。人の命に変えられるものはないというのに、動けないでいた。自分の身がかわいいというのはあるが、それでも聖王という役を引き受けた以上はやり遂げなくてはいけない。

 剣を片手にリーダー格らしいランチャー男へ向かって光弾の中を走る。

「貴様、何が目的だ!」

「……くくく」

「なに?」

 ニヤリと笑った無精ひげの口元が見えたその時、男が床面に何かを投げつける。

 すさまじい光を発したそれに思わず腕で顔を覆う。薄暗いビル内部でもよく見えるようにと強化していた視力が仇となる。何も見えない。

 男が私の横をすり抜けたのは分かった。背後で光銃独特の射出音が響く。

 ようやく目が見えるようになったときには男たちの姿は消えていた。

「……一体何が目的だったんだ」

 剣を鋭く横に振り鞘に納める。

 アラキアたちは、と振り返った私は息をのんだ。

「結城さん!?」

 アラキアをかばうようにこちらに背を向けた結城はうずくまり右腕を押さえている。その右腕の白の手袋は赤く染まっていた。

「僕を、かばって……!」

 結城を支えるアラキアの衣装にも血の跡がついている。

「まさか、さっきの光弾で……」

「ああ、咄嗟にかばったが光で何も見えなくてな。盾を展開する間もなかった……っ」

 駆け寄ると白い布でおさえる。すぐに赤く染まるその布を見て私はさらに布をその上からあてると二の腕辺りを縛る。ポケットを探ると幸い簡易転移装置があった。

「アラキア、2人を今すぐ本部に飛ばす。結城さんを医療部に引き渡したらさっきの襲撃者たちの情報収集を。……ボクは、会場の対応をしてくる」

「わかった。頼んだ」




 結論から言うと予測通りあの襲撃者たちは大旅団に所属しなかった隠れイスク達だった。

 汚灰はい事件の際はコールドスリープしていたが、解凍後自分たちの能力に気づき寄せ集めの集団をつくっていた。その中でも特に大旅団に対して敵対心や不満を抱いていた集団らしかった。

 6人中5人は情報部と戦闘部によってすぐに捕縛。聖王並びに総司令襲撃の罪で大旅団の牢に入れられている。今後の対応は議会と日本国家との交渉で決まる。そのあたりは未だに法整備がなしきれていない部分だ。今後のためにも、慎重にならねばいけない。

 しかし、彼らがどこから光銃の知識を得ていたのかだけが分からずじまいだった。

 光銃などクレアレアが関わる技術は一般に普及させているものも含めて厳重に管理されている。ガライアも例外ではなく、分解や解析を防止する措置が取られ製造から修理、破棄まで大旅団の管轄で行っているほどだ。

 光銃などという兵器の情報管理はさらに厳しい。

 それに関しては残る1名のメンバーが鍵らしかった。

 どれだけ探してもあのリーダー格のランチャー男は出てこなかった。

「やはり、見つからんかね」

「ええ。情報部も総出で捜索しましたが何も。私と片山さんでも見つかりませんでしたからね」

 カストは若干苛立ちを含んだ口調で言う。握られたソピアーの先端が揺れていた。相当腹が立っていると見える。

「しかし、どういうことですか」

「何がだね?」

 結城のその言葉にソピアーがカツンと床をつく。

「何が、ではありません! 何故、総司令と聖王自ら襲撃犯の捕縛に当たったのかと聞いているのです! いくら緊急事態とは言え危険すぎます! 何かあってからでは遅いのです!」

「カスト君、確かに君の言い分は正しいだろう。だがあの場ではそうするのが一番だと判断したからそう行動した。戦闘部員を向かわせていたのでは暴走で死傷者がでていただろう」

「たしかに、そうですが……! 私が言いたいのはそういうことではなく!」

「ごめんなさい、カストさん。結城さんはボクの命令に従っただけだから……怒らないで……」

 あの冷静沈着なカストがここまで感情をあらわにするというのはそれだけのことがあるからだ。そう考えて私は2人の会話に割って入る。

 聖王の命令は絶対。

 あの場で結城は断ることはできなかった。そうなれば非難されるべきは命令を下した私だ。それに前々から言われていた自ら出すぎるなというふるまい方の約束も破ってしまった。

 口ごもったカストはため息をつく。

「……あなた方そういう行動をするということはわかっていました。そしてきっと正しかった。……ですが、私が口うるさく言うのもわかってください。このままでは、あなた方に負担が集中してしまう可能性が大きくなるのです。動くなとは言いません。……うまく動いてください」




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