第52話 捕縛作戦
大分間が空きましたがボチボチ再開しようと思います
フィレインの跳ね馬亭に戻ると同じように尾行してきたプレイヤーを連れて帰ってきたらしいアラキアと彼が呼び寄せた《銀色の風》の幹部たちが待っていた。私の方も同じ状況であることが分かっていたようで席もちょうど用意されている。
私の方をつけてきたのはクインツとルツという男性プレイヤーでどちらも大旅団員だった。
対してアラキアの方を尾行したのはリッカという女性プレイヤーだった。こちらはクインツとルツのリアルでの知り合いだが大旅団員ではない。
「……それで、何の用かな?」
並んで座った私たちを見て背筋をのばし固まった3人は私の問いかけでさらに緊張した様子で姿勢を正す。
「そんなに緊張されても困るんだけどな。ほら、僕らはただのプレイヤーだし」
「そ、そんなことは……!」
「本当だよ。大旅団は光騎士だのなんだのって持ち上げすぎなんだ。見てごらんよ。隣の彼女、緊張はしているけど君たちの反応の意味は理解できていない。それが正しい反応だよ」
アラキアの言葉にリッカを見てみると大旅団の『お偉いさん』ということは理解しているようだが、友人2人のこびへつらう様子を不審に思っているらしい。私たちの方を不審な顔で見てきている。
聞いたところクインツとルツの階級はそこまで高くないようで私たちが光騎士であるということ以外は知らないらしい。それでもクインツは戦闘部先遣隊所属、ルツは情報部所属のため私たちの顔は知っていたということだ。
「さて、いつまでもこれじゃ時間の無駄だ。言葉遣いなんてこの世界じゃ関係ないのだし、気にしなくていい。話してもらえるかな?」
「は、はい……」
大旅団所属の2人は新規、リッカは引継ぎ組のプレイヤーだがそこまでやりこんでいたわけではなく、3人の現在のレベルはほぼ横並び状態だ。比較的早い段階、とはいってもデスゲーム化から2か月ほどたった時からフィールドに出てレベルを上げはじめたという。
その中でフィレインの街で起きているレベラリオンとの対立やPK集団の話を聞き大旅団員の2人は行動を起こした。
同じように最前線に行くにはまだまだレベルが足りない大旅団員や引継ぎプレイヤー、そして完全に新規のプレイヤーをできる限り集めたのだった。
賛同してくれるプレイヤーはかなり少なかったが、新興チームとしてはリベラリオンほどとはいかなくともそこそこの規模をほこっているという。
「今この街はリベラリオンの連中が牛耳っているようなもんでね、アタシたちも目立ってとやかく言われたくないから十分知れ渡ってるとはいいがたいけどさ。最近仲間があまり街で見ない顔をよく見るって言うから調べてみたらビンゴ! アンタたちだったってわけ。ちょっと悪いかなって思ったけど、この2人がそうだっていうから後つけさせてもらって接触してみようかって」
先程関係ないと言ったはずだが、敬語の欠片もないリッカの言葉にクインツとルツが恐々とこちらをうかがっていたため怒っていないと示すために頷くと続きを促す。
「それで……?」
「この街で何かしようって言うなら、アタシたちも協力するって話! どう?」
「なるほど」
情報屋のプロが集まる《銀色の風》に加え片山やマオもいたため彼らの情報を入手済みのはずだ。それでも彼らを呼ばなかった理由は彼らに危険が及ぶ可能性があるからだろう。
いくらイスクや大旅団員が複数人いるとは言っても彼らのこの世界での技量は心許ない。
私たちがやってきて十分とは言えないが、ある程度の人数を確保できた現状巻き込むことはないと判断された結果だ。
「……接触してきた理由は分かった。じゃあ、協力する理由は? 君たちの話を聞く限り見返りを求めているわけじゃあない。けれども、この状況でで見返りを求めることなく、自身たちとは無関係であるまたは現状維持でほとんど問題のないはずの危険な物事へ首を突っ込む理由がボクには理解できない」
「それは」
「命を懸けたボランティア、とでも? それともそれらの交渉はこれからだったかな?」
我ながら嫌味ったらしく面倒なセリフだとは思ったが彼らの意志は確認しておかないといけない。
「それは……」
「違うわ!」
男性2人が口ごもる中、彼女だけは立ち上がりはっきりと反論を口にする。第一印象と変わらず真っすぐな性格らしい。それに満足しながら先ほどけしかけた嫌味の返しを静かに待つ。
「確かに、生き延びるだけならこのまま街にこもって待ってればいい。お腹はすくけれどただそれだけでこの世界では死ぬことはない。単純に宿屋から一歩も出なければいいの。けど、アタシたちは外に出た。理由は生きるため。矛盾しているけれど、矛盾じゃないでしょ?」
「……ああ」
「だからもこの申し出も他ならない『生きるため』自分達のため。そして生きたいと願うみんなのため。でしょ?」
「……確認した」
彼女の言葉に頷くとイアンにもう一度現状を説明してもらう。
リベラリオンもPK集団もどちらも数日前と大差ない状況で確認程度で終わったが、そのあとにそれらの話には全く関係は無いが放っておくこともできないような話をしだした。
「……実は、ですね。私のチームメンバーがこの街でユーリさんらしき人影を見た、と」
「はぁ?」
私やアラキアはもちろんのこと、フィデやハイドまでその言葉に怪訝そうな表情を浮かべると首を傾げた。
完全に蚊帳の外なクインツ達には悪いがとても中断していいような話ではない。
現状、ユーリのステータスのことを知っているのは私とアラキア、トガ、ハイド、ユニータ、フィデといった大旅団の幹部陣とそれらに関する情報を探してもらうために話したイアンくらいだ。
同盟に加わってから外に出たことがないため彼女がどれくらい動けるかは知らないが、仮にあのステータスが見かけのみならず実際に反映されかつそれ相応のプレイヤースキルさえあれば誰よりも強いことは明らかだ。そしてそれが異常なのも。
リベラリオンに見つかればどんな反応をされるかは上位スキルや装備を見ただけで何かしら突っかかってくるような連中だ。容易に想像がつく。
それが直接戦闘に関連するようなものでなくとも、だ。
彼女の場合、もっとめんどうなことになりかねない。最前線のプレイヤーでさえ《吟唱》のスキルを習得しているのは彼女だけだ。リラも天空エリアの巫女からもらったものとなればさそ目立つだろう。
「それは確かな情報なのか?」
「いえ、確定というわけでは。ですが、複数報告が上がってきていますのでほぼ間違いないかと」
「尾行は……」
そこまで言いかけて口を閉じる。
同時にイアンは首を横に振る。
「彼女を簡単につけられたら苦労しませんよ」
ですよね、と相槌を打つ。
私たちも何度もまかれてやっと捕まえたのだ。それにゲームの中とはいえあのハイドでさえ失敗している。無意識に歩いているだけであれなのだ。彼女が本気で逃げたら中途半端な尾行ではすぐにまかれてしまう。そもそも見つけられないかもしれない。
その点では安心しているのだが、彼女の性格上危険なことに首を突っ込みかねない。
出発前、彼女は天空エリアの拠点で待っているということで話がまとまったが随時入るこちらの状況にしびれを切らしたのか、それとも不安に思ったのか。いくらそういう約束だったとはいえ、おとなしく待っているとは思えないと考えられる。
「本当にユーリなら早めに接触したいとこなんだけど……」
そこまで言って私はメニューを開く。
彼女とならフレンド登録していた。ならばメッセージを送れるのだ。
ウィンドウを開きメッセージを打ち込んだところで手を止める。
(……見るか?)
普通のプレイヤーならばメッセージが来たことは通知され時間が空き次第見るだろう。
だが彼女はあのレベルでありながらステータス画面のことも知らなければメニューの開き方さえ知らなかった。そうなると武器の装備などもどうしていたのか疑問だが、そんな彼女がメッセージを確認するだろうか。
こんなことならば確認しておくべきだった、と思うが今更どうしようもない。
とりあえずメッセージを送信するとイアンに向き直る。
「仕事を増やしてすまないんだけど……」
「ええ、わかっています。ユーリの捜索も追加しておきますね。それとリベラリオンの方ですがなかなか返事がもらえないので先にPK集団の方をどうにかしようかと。調査の結果、件の場所でPKを行うプレイヤーは複数のグループに分かれているのですが、狩りを行う場合は他のグループも近場に潜伏しているらしく。……ので、あのあたり一帯を覆うような人員配置を行い捕らえようかと」
「詳細は任せるよ」
「ではのちほど作戦が固まり次第協力を要請させていただきます。……ああ、もちろんあなた方にも」
しばらく押し黙っていた3人はイアンに話を振られると一瞬驚いたような顔をしたのち勢いよく頷く。
その場はひとまず解散して今日の各々の活動を報告しながら夕食にうつった。
数日後の早朝、私は東門へ続く通りを歩いていた。
東門が見える地点まで来ると裏通りへ入り近接職のステータスを存分に活かし壁を蹴り建物の上へ登る。通りを見下ろすと一組の男女が東門へ向かって歩いて行っていた。先日協力関係を結んだクインツとリッカだ。どちらも自身のレベル相応の装備を身に着けている。ちょうど今からフロンドベルへ向かう、といういで立ちだ。
互いに姿は見えていないが今このエリア一帯には同盟をはじめとした最前線プレイヤーたちが一定間隔で散らばっている。その間隔約50メートル。
そしてペアとなったモノ同士小さなウィンドウを開き『OK』ボタンの上で指をかざし合図を待っている。ウィンドウにはpVp申し込みと表示されている。私の相手はアラキアだ。
無論、実際に戦うわけではない。PK集団と同じ手段を用いるのだ。この状態ならばたとえ味方同士だったとしても多少ダメージを負わせたところで即座に敵対判定はされない。システム的に同盟関係を崩さないための対策だ。
実際に殺さず捕らえるということ。そのため全員装備品は攻撃力を極力落とし高レベルな麻痺異常効果が付与されたモノを装備してる。私も今は片手剣ではなくほぼ針に近い見た目をした短剣を装備している。ビィズニードルというまんまハチの針だが銀色に輝いている針部分のみであるため普通に見た目もきれいだ。これが毒袋付きとかならば絶対に触りたくはない。
2人に視線を戻すと歩みを止めたところだった。
その前には1人のプレイヤー。互いに武器を抜くと戦い始める。さすが先遣隊所属か、明らかに格上相手でもひるむことなく立ち回れているが、時間の問題なのは明らかだ。
OKボタンを押してから減っていくカウントダウンを意識しつつその2人を見守る。
いざとなれば、助けに出ていくことはできるが集団を誘き出すという観点から言えばまだ早い。
「こっちくんなー!」
1人目のプレイヤーと同じような格好をしたプレイヤーがリッカの背後に複数現れる。彼らに対しランチャーをかまえたリッカは連射するがまるでアシストが働いていないようにPK集団のプレイヤーたちが避ける間でもなく弾は全弾外れていく。
「だー!」
リッカのそんな声が聞こえ私も隠れながら唖然とする。
弾の軌道を変えるなど新しい装備品かスキルだろうか。
私自身は銃を扱ったことがないためアラキアたちから聞いたり前にネットで見かけた情報だが、このPFO:VRでは銃でも魔法でも遠距離系のものはアシストが働いている。
例をあげるならば弓を使うときに出る十字型のガイドラインなどがわかりやすいだろうか。それ以外にも技量によっては軌道の修正が行われたりなど現実世界ではないゲームの要素はたくさんある。
実際に現実世界で銃を使っていたアラキアたちからすれば奇妙な感覚だというが、素人が銃や弓を戦いで使うにはそうするのが一番だ。だからこそ、あそこまで狙いが外れるなどそうそうないことなのだ。
「この、このっ!」
その後も撃ち続けてはいるのだがかすりはすれど未だに命中したものはない。
銃弾に加えて爆風での攻撃もあるランチャーであれはいかがなものか。襲ってきた側もどこに飛んでいくのか分からない銃弾に逆におびえているようにさえ見える。
そのとき、カウントダウンがゼロになり光の壁が展開される。それがこの一帯で次々と起こったためさすがに襲撃者側も異常を察知したのか逃げ出そうとしていた。
だが2人を襲っていたプレイヤーは私が踏み出す前に近くにいたイアン達が捕縛。周囲からも次々捕縛の声が上がる。
私も眼下に見えた影の真後ろに跳び下りると軽めに短剣を突き刺し麻痺した相手を加工されたプレンタのツルで縛り上げる。
こうして一気に捕縛したのだが騒がれているのが不思議なほど呆気ない捕縛作戦だった。
のちに彼らは末端に過ぎないと分かるのだが、捕縛作戦に加えこののち徐々に警備が強化されたことにより、ひとまずフィレインでの騒ぎはこれで収まったのだった。




