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第49話 緊急会議

パソコン戻ってきたので更新再開

……いやぁ、章途中で止まらなくてよかった


 シャロマの新拠点は信仰神殿からもらったものとあってとても広い。

 同盟全員が食堂ではない一つの部屋に集まったとしても余裕はある。以前は座れる場所にならどこにでも座ってしまえという風潮だったが、ここでは椅子を置き十分なスペースをとることができる。そのため、比べてしまえば小規模だが大旅団の議会場を思い出すような光景が出来上がっていた。

 キッドが意図的にそうしたのか、私とアラキアは部屋の一番奥の中央、つまり議長席と呼べるような場所に席を割り当てられていた。

 大旅団内の会議で私を見る団員たちの視線と雰囲気を思い出しため息をついていたのはアラキアだけが知っている。ここでは聖王という身分も何も関係ないのだが、同盟主というまた違った意味での肩書はできることならば誰かに代わってほしいくらいだ。

 だいぶマシになったとはいえ、注目を集めるのは苦手だ。

(……ここなら大丈夫)

 ここなら大丈夫。と、心の中で唱える。

 50人近いとはいえ、みんな私のことを知っている。彼らなら大丈夫。

「うぅ……」

 それでも落ち着かないことに変わりはない。

 当のイアンは到着が遅れると連絡が入っている。大幅に遅れるわけではないため、もうすぐ到着するだろうが、この時間はかなり苦痛だ。

 そう思っていると扉が勢いよく開きイアンがとびこんでくる。

「すみません。……少々、面倒ごとが起こりまして」

 その場にいた全員の目がイアンにくぎ付けになる。

 彼が纏っているのはいつもの魔法職用のクロークではなくほとんど初期装備に近い低ランクのクロークだ。その他の装備品もそれに合わせたかのように初心者向けのものだった。

「その装備は一体……」

 いくら街中といえども戦闘用途でない服ならともかく、低ランクの戦闘用途装備というのは推奨できない。特に攻略の最前線たるこの街ではディアザの時のように突発的にイベントバトルが発生する可能性も捨てきれない。あのイベントバトルが起きてから就寝時以外はなるべく戦闘用装備で過ごすように通達したばかりだった。

 イアンは気まずそうにクロークをつまむ。

「これについても、説明します。決して理由がないわけではないのです。……すみません、お待たせしました」

「理由についてものちほど説明を。……はじめよう。時間がないんでしょ?」

「ええ」

 イアンは私の側にある席に移動すると座ることなく話し始める。

「まず、結論から申し上げますと……エイムス大陸で、プレイヤーによる殺し……PKが起きています」


 室内は人の話し声で溢れていた。声を張り上げても部屋の隅まで届かないため会議は続行不可能な状態だが、私もそれを止める気はなかった。

 彼らをそのままにイアンとはじめとするチームリーダーとアラキアを呼び寄せると別室に移動する。

「PKが偶然ではなく、……組織だっているっていうのは確実な情報?」

「ええ、本当です。私たちも何度か襲われています。いえ、わざと襲われました。それがこの装備である理由です。いわゆる囮ですよ」

 イアンの話ではPK集団はpVpのルールを利用してPKを行っているという。光の壁に囲まれたpVp圏内であれば安全圏内でも戦闘フィールドが生成されダメージが発生するようになるというものだ。例え決闘者でなくともダメージが通ってしまうためPFO時代でも巻き込まれないように退避するしかなかった。

 自分よりレベルが低いプレイヤーしか襲わないことにより離脱前に殺してしまえる。

「厄介な点は、彼らはリトスの光の残量を見ないで襲ってくるということです。……ですから、死者も出ています」

「そんな……。どうしてそんなことを」

「資金稼ぎです。どんなに弱くとも外に出てくる以上、それ相応の装備は持っています。この世界ではお腹もすくし娯楽にも現実リアル同様お金がかかる」

 イアンは忌々しいといったように言葉を吐き出した。

「せっかくの後続プレイヤーをつぶされてしまうとは。これだけでどれほど前線の戦力がそがれたことか!」

「……対策は」

「もちろんしていましたよ! 少しでも戦力を増やせれば、そして死者を減らせればと情報を流しあちらで活動してくれていた仲間達は進んでミドルレベルプレイヤーの装備・技術強化をしてもらっていました。……とはいえ、あちらの大陸に関してはVR:PFOでのデータではなく以前のデータをひとまずのものとして流してしまったのが裏目に出たのかもしれません」

「確かにVR:PFOはPFOに比べて敵AIが進化してるし追加モーションとかもある。それに、ずっと同じ攻略法で行けるわけじゃない。群れでの学習は、もう?」

 イアンは頷く。

「フィレイン周辺では、すでに」

 群れでの学習。それは同名モンスター間で起こる。

 一匹のモンスターと長時間戦闘していると彼らはこちらの戦い方を学習し対抗策を練ってくることがある。だからこそ2人以上で攻撃パターンを変えながらの攻略は有効な手段になる。

 それが種族全体で起こるのだ。

 フィレイン周辺で例を挙げるのならばボア系の突進をプレイヤーが避けるというのを学習し、フェイントをかけてくるようになる、ということになる。場合によっては従来の攻略法が禁忌となってしまうこともあるだろう。

「PK集団の多くはモールス大陸に渡れても前線へ加わるには力量不足、だがエイムス大陸では強い部類に入るといったプレイヤーが多い。それに、問題はそれだけではないのです。大旅団と前線、とくに引き継ぎプレイヤーへの確執が多いのです」

「……大旅団……ボクらへの」

 事実、最前線のこの同盟はイスクが多い。戦闘に慣れているということと反動のキャンセルという利点は大きい。

 私たちは一刻も早くゲームをクリアするべきだと考えて行動してきた。あくまでその時点で一定レベルに達しているプレイヤーの力のみをあてにして、だ。いくら命のやり取りをしてきた経験があるとはいえ、他の人のことを考えていられる余裕はなかった。そこには初心者も含まれている。

 それを彼らは見捨てられたと感じたのだろう。イアン達が流した旧情報を得られたプレイヤーも新モーションや変更点につまづいた人もいる。

「……もっと詳しく」

「我々、いえ、もっといえば大旅団関係のプレイヤーを情報と装備、アイテムを独占し他を見捨ててまでも先へ進もうとする一団ととらえる人が一定数います。VR:PFOをデスゲーム化したのも大旅団のせいだとする人まで。……確かにそう考えるのは打倒ですが、あくまで可能性であって確定情報ではありません。私にはあのディーバが結城だとはとても思えない」

「ボクも、現状から考えて結城さんが黒だとは思えない。でも、否定もできない」

「今もトガや光騎士の方にあちらに残ってもらい現状の情報収集にあたってもらっていますが、悪化しているといわざるおえません。……何か、影響を与えられればいいのですが」

 これが大旅団内であれば聖王として呼びかけるという方法がとれる。だが、ここではできない。効果はない。

 必死に対策を考えるが何も思いつかない。

「……PK集団については向こうの有力チームに協力してもらえないのかな?」

 私の言葉にイアンはそうだ、と手をたたく。

「実はすでに無限騎士団インフィニティナイツとアスタリア、雷光イエローに協力を要請しています。雷光イエローに関してはチームリーダーであるユニータさんが自ら申し出てきたためすでに合流済みです。囮作戦も彼らと共に行い、すでに数人捕縛に成功しています。ですが、無限騎士団インフィニティナイツに関してはチームリーダー、アスタリアはチームリーダー、副リーダー共に不在ということで意見がまとまらないそうです」

 アスタリアのトップ2人は知らないが、幹部ならばアストレがいる。ユニータとフィデがログインしてきたため可能性はゼロではないだろうが、これまでのペースを考えると当分不在だろう。

 無限騎士団インフィニティナイツのリーダーは結城のためそちらが動くこともない。それに彼らはダンジョン攻略を重視していた。プレイヤー同士の戦いで真価は発揮できない可能性が高い。

「うーん、ボクも一度そっちに行くことにするよ。実際に見てみないとわからないし」

「わかりました。フィレインの仲間に連絡しておきます。フィレインに着いたら跳び馬亭という酒場兼宿屋があるので来てください」

「わかった」

 再び議会場に戻り同盟員たちに攻略の一時中断を告げる。不満の声もあったが、そういった人には個人での攻略続行を認めレイドが必要になった場合は連絡するということで合意した。

 他のプレイヤーは分からないが、私やアラキア、トガならばしばらく前線を離れても適性レベルは保ち続けることができる。この件を解決してすぐ戻れる。

「アルマ、もちろん僕も連れていってくれるんだよね?」

「なに、今更?」

 部屋でアイテムストレージを整理してるとひょっこり現れたアラキアが恐る恐るといったようにきいてくる。私としては何を今更きいているのだろうといったところなのだが、彼はそうではなかったらしい。

 もちろんついてきてもらう。

 今回の問題はゲーム内のものだけではおさまらない。ゲームの問題ならば私だけでもまだ対応はできただろうが人が関わってくるとなるとどう足掻こうと私では解決できない。

 彼の協力が必要だ。

 私は人の心を理解するということに疎い。

 積極的に関わってこなかったのもあるが、何より他人の心なんて本当に理解することなど不可能だという持論を持つがゆえに理解しようなどと思っていないこともある。

「……へんだよなぁ」

 そうだというのに、アラキアだけはあの不思議な繋がりのおかげで多少なりとも感情が伝わってくる。それがおかしくてならない。

 同時にそれがアラキアだけでよかったと思った。

 表でどんな大義名分を掲げ立派な地位に就いていようと私は私でしかない。本心など筒抜けになったらそれこそ嫌われる。いや、嫌悪感どころではないはずだ。

 言うなれば、本心など我がままだ。それを口に出さないからこそ、いい人だと思われているに過ぎない。

「ねぇ、アラキア」

「なに?」

「もし」

「うん?」

「ボクがわがまま言ったらどうする?」

 きょとんとしたアラキアに私はさらに続ける。

「それもとびっきりめんどくさいヤツ」

「アルマがわがまま言ってるとこなんて想像できないなあ。……あ、でも意地っ張りならいっつもだよね」

「えぇ……」

「だってこれは私がやるんだーって。もう少しあてにしてくれてもいいのにさ」

「えーっと、それは……」

 当てはまりすぎてつらい。

 トガを浄化しようとした時やアルティレナスにとどめを刺すとき、最近のことを思い出してもきりがない。

「そうじゃないってばああああ!」

「はいはい、からかっただけです。で、わがままなに?」

 詫びとばかりに頭を撫でてくるアラキアにふくれると呟く。

「……ボク、……ゆっくりしたい」

「ゆっくり?」

 だって、と振り向く。

「大旅団結成から今まで小休止はあっただろうけど、けど、キミとどこかでゆっくりしたい。……監視も護衛もなくて、うーん……そう、ただの人間として」

「僕もそうしたいけど。けど……」

 私だって聖王である以上そう長くだ旅団を離れられないことは分かっている。護衛と監視がないというのも大旅団からすれば許可できないものだろう。

 今はユーリの件もどうにか解決し、ハイドにはフィレインでの別動隊として動いてもらっているため別行動だが、それも私とアラキアがイアンを巻き込んでまで無理を言ったからだ。それに今回は亜人種が有利だという状況もあった。それがなければこのようなことを認めるはずがない。

「よし、わかった」

 しばらく考え込んでいたアラキアが決意の表情を浮かべる。

「僕が説得してみせる。だからアルマは行きたい場所とかやりたいことを考えておいてくれ。もちろん、現実世界で」

「ほんと?」

「ほんとだよ。ここで嘘ついてもなんのメリットもデメリットもないだろ? それに僕も夏休み的な休暇がほしいと思っていたし、このゲームをクリアしたらいい機会だし交渉してみようじゃないか」

「やった。何しようかな。昼寝? ゲーム? あ、温泉はいるのもいいかも」

 美味しいものも食べたいな、とやりたいことをあげていくとアラキアが手を打ちそれを止める。

「まずは、目の前の問題を解決する。いいね? 今はこのゲームの攻略に集中しよう」

「おー!」



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