第36話 神剣オズマティアス
ミレニア晶洞を抜けスーラ林道、ココラ水洞を経由するとラント森林に出る。
ここから山へ入ってゆくとザ・リートユグドラシル=アンヘルのいるリーリス天空郷へたどり着くが、私はわきの小道に逸れる。リーリス天空郷もきれいな場所ではあるがこの状況で挑むわけにはいかない。
道の先がエルフの隠れ里ユーカティカだ。
このゲームにしては珍しく街とフィールドの境界がはっきりしないつくりのため、小道を街中の表示となるまでただひたすらに歩いてゆく。霧で視界が悪い中たどり着いたユーカティカは静まり返っていた。
ただでさえ数が少ない亜人専用のマップである上にいくつかのダンジョンを越えなくてはいけないとなればプレイヤーがいる理由はない。新規プレイヤーもまだ専用スキルを覚える段階にまでは至っていないだろう。
建物の装飾を頼りに族長の家を目指す。
最奥に位置する、とはいってもユーカティカは小規模な街のためそこまで時間はかからず族長の元までたどり着いた。
緑の髪を腰まで伸ばした女性エルフの頭には金輪の飾りがついている。エルフの族長レスカだ。その胸から目を逸らしつつ本題を切り出す。
毎回思うが、なぜこんなにも理想を詰め込むのだろうか。
「神剣オズマティアスをご存知ですか、族長」
「唐突に来たかと思えば、いきなりオズマティアスか、アルマ?」
「知ってるんでしょ?」
「……はぁ、まったく。里に来たかと思えば毎度毎度そなたは騒ぎを持ち込むな」
族長の気持ちもわからないわけではない。
エルフ専用スキル習得のクエストの時も里が魔物に襲われたり伝説の竜が目覚めたりと族長や里の民にとっては厄介極まりないシナリオが用意されていたのだから。
今回の神剣オズマティアスもそれらと同等かそれ以上に厄介なモノなのだろうか。
だが、知らないと突き返されなかっただけマシだ。
「で? どうなの?」
無礼なうえこの上ない対応をしても怒らないのはこの族長の性格ゆえなのか、または私が何度か来たことがあり里を救ったというシナリオ上の実績があるからなのか。以前側付にやんわりと怒られたことはあるが、それ以外は特に不満など聞いたことはない。
「それをどこで聞いたのか、教えてもらってもいいか? いくらアルマとはいえ、そう簡単に渡してはいけない情報なものでな」
「えー、族長のけちー。んー、ボクが説明するよりコレ見てもらった方が早いかも」
アイテム欄から取り出した一通の手紙を族長に手渡す。きちんと伝えられるか心配だったためエルディムとダークエルフの族長に用意してもらった書状だ。内容はきちんと確認してあるため改ざんの心配はない。
私からその手紙を受け取った族長は一通り読むと唸る。
「そなた我らが故郷にたどり着いたのか……」
「ん? じゃあ、やっぱりここでいいんだね?」
笑顔で返す私に族長は若干引き気味だ。
「そうせかすな。確かに我らエイムス大陸のエルフ族はもともとこの大陸の種族ではない。ここへ来たのはエルフでの何代も前だ。私も詳しいことは知らんが、他大陸からの移民という話だ。その際、初代族長のユーカティカが携えていた剣がオズマティアスというのは合っている」
「じゃあ」
「だから落ち着け。アレはエルフ族の秘宝だ。いくら古き盟友の頼みとはいえそう簡単に渡すわけにはいかないのだ。まあ、とはいってもアルマの頼みならば細かいことは省くとしよう。重要なモノのみ……と、いうわけで」
レスカは立ち上がると腰に美しい刀を吊るす。
「本当は必要ないとは思うが規則は規則、一戦交えようではないか!」
楽しそうに笑う族長に苦笑すると闘技場へ移動した。
闘技場とはいっても木の柵で囲まれた簡易なものだが、森の中で戦うより格段に足場はいい。
「よし! 存分に楽しませてくれ!」
そう言って投げ渡してきた剣を装備すると、抜き放つ。
「……って、あれ?」
無意識に装備し構えたのだがよくよく考えると変なのだ。
「ねぇ族長、ボク、二刀でいいの?」
「何を言っている。アルマは二刀剣士だろう?」
本来はそうなのだがVR:PFOでは二刀流は高威力すぎかつ私以外使用者がいないという理由でシステム的に破棄されているはずなのだ。結城曰く拾うなどの行動で装備できたとしても二刀流専用スキルがないためアーツは発動せず威力も出ないという。
今回のこれはそれに当てはまってしまうのではないか。
「心配するな! というよりそれを使う方法を見つけるのがアルマの仕事だ!」
「は?」
「ん? 何か言ったか? アルマは二刀剣士なのだからそれでよいのだろう?」
一瞬意味不明な言動をとったレスカだが何事もなかったかのように振舞われる。システムによる修正なのだろうか。いや、しかしこんな違和感満載な修正をするだろうか。しかも直前の言葉を打ち消すような方法を使ってまで。
とりあえずはこの状況で勝てばいいということだろう。
両手に握った剣を構えなおす。
ひさびさのその感覚に気分が高揚した。
「勝負っ!」
刀による攻撃を避けたり弾いたりしてしのぐ。
認識通り二刀流のアーツはすべて発動できず、通常攻撃によるダメージもそこまで通らない。決定打はないのだ。しかしガードすることができるらしく現在防戦に徹しながら使い方を探っているというわけだ。
「そこだっ!」
「うおっ!?」
上段から振り下ろされた刃を弾くと後方へ退避する。
手加減という言葉を知らない様子で斬りかかってくるためじっくりと考える時間はない。すかさず放たれた風魔法を横に転がって避けると一か八か突進攻撃の構えをとり地面をける。
その瞬間、ふわりと身体が軽くなる。
驚きブレーキをかけると右側で光が収束し身体が硬直する。そのまま地面に顔面から突っ込むが刃が空を斬る音を聞いて横に転がる。慌てて立ち上がると再び距離をとった。
先ほどの硬直は魔法やデバフによるものではなくアーツの反動硬直そのものだ。と、いうことはアーツが発動したことになる。
(しかし、なんでいきなりアーツが発動したんだ?)
今まで二刀状態で発動しようとしたアーツはすべて失敗に終わっている。アーツを発動した時と同じ速さで動くことはできるのだがダメージなどは乗らなかった。オリジナルアーツならと思い二刀流の初期モーションと思われる姿勢をとってみても何も起こらなかったのだ。
もう一度二刀のアーツを発動しようとしてみるが発動する気配はない。
何度か族長の攻撃を避けつつ試すが同じだった。
微々たるダメージは与えられているため彼女のHPは5分の1ほどは削れている。システム的にはこのまま戦闘を続ければ勝てるだろうがそんなのはこちらの集中力がいつ切れアーツで攻撃されてしまうかわからない。
何度目かわからない後退後に先ほどと同じ動きをしてみる。
「!」
軽くなる身体。今度は抵抗することなく流れに身を任せてみる。
発動したのはハックバッシュ――片手剣用のアーツだ。
(まさか……)
硬直が解けるとすぐに顔の前に右手の剣を地面と垂直に構える。そのままレスカの攻撃を受けると押し返し下に振る。
「きたっ!」
キン、というカウンター音と共に発動したアーツに確信を得る。
これは私のオリジナルアーツ、セブンスクートだ。カウンター技になる。初期モーションで防御に成功すると発動する突斬技。
高速で繰り出された技にレスカのHPゲージが見る見るうちに減ってゆく。6割程度で止まったため勝負はついていない。しかし分かった。
右手の剣で片手剣の技を発動することは可能なのだ。
左手の剣は牽制と防御にしか使えないが、それで十分。先ほどのセブンスクートで付与されたバフの攻撃力アップの効果が切れないうちに一撃を叩き込めば5割以下にまで削れる。
「いっけええぇぇ!」
体勢を崩したレスカを下から斬りあげる。
吹き飛ばされた族長がしりもちをつくのと同時に勝利判定が出たのだった。
「いやぁ、愉快! 実に爽快!」
笑う族長から黄金色の何かがなみなみと注がれた盃を受け取るとおそるおそる口をつける。爽やかな果実のような風味のそれをチビチビと飲んでいると付き人らしきエルフの青年が私の前に細長いなにかを運んでくる。
「それが神剣オズマティアスだ。これではれてそなたの物だ、アルマ」
「これが? ……へぇ」
「これ! もっと喜ばんか! 秘宝だぞ? 神剣だぞ? 資格なき者は手にできぬ剣だぞ?」
「ん? 資格?」
いつそんなものを手に入れたのだろうか。
そんな私の心中を察したのか族長は呆れたような顔をした。
「これは代々族長が受け継ぎ守ってゆく秘宝でな。所有するには所有者に勝つ必要があるのだ。……純粋な力比べでは負けそうだからとせっかく小細工を入れたというのに難なく攻略法を見つけるとはな」
「あ、ははは……」
つまり、本当ならばあのままちまちまHPを削る戦いをさせ疲れた私を仕留める気だったのかまたは忍耐力を試す決闘だったのか。最初から二刀で攻略させようというわけではなく偶然、システムをすり抜ける攻略法があった、ということか。
「まあ、文句を言ってもしょうがあるまい。役に立てるのだぞ。……へし折ったりしたら許さんからな」
「あー、うん、努力するよ」
以前のクエストで伝承に出てくる宝剣を粉々に砕いてしまったことをまだ根に持っていると見える。
「だって砕けちゃったんだからしょうがないじゃん」
とは言えず。当時の私もそうする気はさらさらなかったのだが。
再びダンジョンを抜けモールス大陸カナンにある仮拠点に戻る頃には出発してから約1週間の時が過ぎていた。
無事持ち帰った神剣オズマティアスを仲間たちに見せると歓声が上がる。
黄金に光る剣は綺麗ではあるが少々私は派手すぎて苦手だが、彼らにとっては羨ましいの一言だったのだろう。ゲーマーゆえのレア品への渇望だろうが私はスティリア=クリュスタルスが一番だ。もっとも、一番しっくりくるのはアンチ武器のクロノスだからないものねだりしてもしょうがない。
「これであの姿が見えないっていう状態を打破できるんだな!?」
「伝承上ではね」
そればかりは実際に試してみないとわからないが、ぶっつけ本番というのも怖い。それこそ閉じ込め系トラップがあったら終わりだ。
あの死戻りバグは起こらないはずだが、私は次死ねば終わり。
怖くないといったら嘘になる。事実、どんな低レベル攻撃でも受けるたび怖くてしょうがない。
ここは圧倒的な力をほこれた大旅団とは違う。完全に、とは言えないが誰にでも平等の可能性がある世界だ。
「で、ハイエルフの方の情報はどうなってるんだっけ?」
「それについてはしっかりマオたちが情報収集したにゃ」
「ええ。私たちが集めた情報をアラキアさんにまとめていただきました。と、いうわけで説明よろしくお願いしますね」
「はぁ!?」
息の合った3人のやり取りに笑うと先を促した。
「……えーと、まず伝承の方なんだけど」
アラキアの話をまとめるとこうなる。
終末戦争を終結したハイエルフは女性、名をフィティリス。各地の神殿で祀られている女神像は彼女だという。
彼女はハイエルフの王族だった。激化する戦争を嘆き戦場に降りたった。唄が得意で魔力を込めて唄われる唄は《聖歌》や《呪歌》と呼ばれる特別なものらしい。それが隠しスキルである《吟唱》スキルと何かしら関係がありそうだろいうこと以外は今のところ謎だ。
フィティリスは戦争終結後は王城にこもり姿を見せることはなかった。それが祀られる要因にもなったのだろうというのが分析結果だ。
そして神殿を襲ったとされるハイエルフの情報だが、この森林エリアの北側で目撃情報が数件あるという。すべてNPCから得た情報だが信憑性は高い。
「けれど、1つ不可解な動きがあって。ここ数日なんだけどこの街の西の森があるだろ? そこで同じような目撃情報があったんだ。すぐ逃げたようで人的被害はないけど、なるべくその周辺を避けるようには告知してる」
「西の森って……あんな何もない場所で?」
カナンに一番違いそこまで深くないダンジョン形式の森でこの大陸での闘い方を学ぶにはぴったりとされている森だ。ダンジョンボスもいないためあまり攻略も重点を置いていない。そんな場所にいく人もそうだが、そんな場所で何かイベントを起こすというのはどういうことなのだろうか。
「一応様子を見に行ってみる?」
と、いう言葉は入口を押し開け飛び込んできた影の言葉で言えずに消えた。
「だ、誰か、……アルマっ! いるかっ!?」
それが誰なのか一瞬わからなかった。胸のアーマーは傷だらけ、服もぼろぼろで体には赤やオレンジの攻撃痕がまだ残っている。街のすぐそばでダメージを受けたらしかった。
相当やられたのか床に膝をついていたその人物をマオとイアンが支え椅子の方へ行こうとするが、なおも叫ぶ。
「待ってくれ! 今すぐ、誰か……!」
赤い瞳と目が合ってようやく誰なのかわかる。
「え、……トガ!?」
「アルマ、お願いだ一緒に来てくれ! 彼らが……」
「ちょっと待って、落ち着いて。何があったの?」
トガはソロで動いているはずだ。ときおりこの仮説本部へ顔を出すことはあれどそれは情報提供と情報収集のためであり寝床さえ完全に別にしていた。
次に確実に会う約束をしている日程にも3日ほどはやい。
「エリアボスと思われるエネミーに襲われた。なんとか逃げ出したが、その時共にいたプレイヤーが2人まだ残っている……。彼らを、助けなければ! お願いだ、一緒に来てくれ!」




