第23話 オリジナルアーツ
冷たい海風に吹かれて外套をさらにきつく体に巻き付ける。
VR:PFOには季節が実装されており、どうやらソレは現実世界と連動しているようだった。地方によっても気候設定や天候設定は存在するらしく、北のノースガルム地方が年中雪に閉ざされている野に対し南のマガラス地方は海に入れるほどの気温となる。
転移ポータルがあることで登録さえしてあれば、地方間をすぐに移動できるのはいい。
だが、体が慣れないのだ。
鉱石を得るためにいたサレドニア地方は季節による寒暖差が小さく、坑道内ともなれば1年中ほぼ変わりはない。それに比べてこの港町は比較的気温は高いものの冷たい海風が吹き抜け、さすがに防寒具がないと外に出ようなどとは思えない。
ノースガルムから帰ってきたトガは暖かいなどと言っていたが、私にはかなり堪える寒さとなっている。
集まった素材を納品したため着々と船の建造は進んでいる。やはりかなりの時間がかかるようでここ1週間ほどイーランに泊まり込んでクエスト完了ログが更新されるのを待っていた。
「おい、そんなに寒いなら耳当てをつけたらどうなんだ」
背後から現れたトガは手に持った湯気をたてる袋を差し出しながら言った。
「耳当て、嫌いなんだよ」
「まあ、それは認めよう。それならばそれでもっと分厚いフードをかぶればいいだろう」
「ゴールドルーの皮は全部トガにあげちゃったし」
「……あれで、全部だったのか?」
レアエネミーであるためその価値は非常に高い。
性能もかなり良く、防寒性もばっちりだったはずだ。
トガは羽織ってるフード付きマントを軽くつまむと申し訳なさそうな表情になる。
「別に気にしなくていいよ。必要だったんだし」
「……感謝する」
「べつに……礼なんて。ところでコレなに?」
先ほど受け取った袋を開けてみると肉まんのような白い物体が出てきた。この世界の食べ物を見た目のみで判断してはいけないというのは経験済みで、前に一度水かと思って飲んだ液体がとてもつもなく甘辛い焼き肉のたれのような味だったことがある。
聞けば珍妙な食べ物は多いらしくこってりした野菜サラダなどもあるという。
「安心しろ、毒見済みだ。ただの野菜あんかけまんだ」
「……珍しい」
一口かじる。
「ああ、ただし相当辛い」
「ぇ?」
じんわり広がる辛み。次の瞬間涙目になる。
「なに、これ……」
「うまいだろ?」
得意げな笑みで首を傾げられるがそれどころではない。
「か、辛い! な、なにか飲み物! トガぁ!」
差し出された水袋の栓を抜くと思い切りあおる。口の中に流れ込んできたのはフルーツティーらしきものだった。
「はぁ……はぁ……」
「慣れるとなかなかうまいと思うんだがな」
見るとトガは食べ終えたらしく外の包みを破り捨てていた。宙に投げられた包みの破片は消滅エフェクトを散らして消え去る。
「確かに辛いものは好きだけど最初からあれはきついよぉ……」
「じゃあ次は辛さ控えめのを買ってきてやる。間違っても甘いものは買ってこないから安心しろ」
ここは素直に頷いておく。
互いに味の好みが一致するため食事に関してはとても楽だ。何よりどちらもそこそこ料理スキルを伸ばしているというのも不確定要素が多すぎるこの世界の露店メニューに対抗するうえで役に立っている。
もちろん一握りだがおいしい食べ物も存在する。
そういう店はすぐに口コミで広がり混むため、人混みが嫌いな私たちはまだ知られていない隠れた名店を探し歩くことのほうが多い。すでに各街で数件ずつおさえてある。
私たち2人だけでそこまで情報を集められたわけではなく。
「どうもにゃー」
ふと、背後から聞こえた声に振り返るとマオが立っていた。
「どうも、マオさん。よくわかったね」
トガ以外のプレイヤーがいそうな場所では通常装備の上から足元まですっぽりと覆えるフード付きマントを装備してるため私だという判断は身長程度でしかできないはずだ。
「そんな格好しているのはアルマちゃんくらいだにゃ。で、その黒いバージョンがトガさんにゃ」
「ほぅ……」
逆に目立つということか。だが、顔を隠すという面では役に立っているため問題はない。
「で、猫。何の用だ」
「そんなせかさなくてもマオは逃げないにゃ。朗報にゃ」
「朗報?」
マオに頼んでいたのは船の建造アイテム収集の人員募集くらいだったはずだ。それはすでに完了済みであとは建造終了ログの更新を待つだけ。
となるとトガが何かを頼んだのだろうか。
そっとトガの方を見るとトガも同じように私のほうを伺ってくる。
同じような反応だということは向こうも知らないということになる。
「なんのこと?」
「なんのことだ?」
綺麗に私とトガの声がはもる。
「んにゃ……。新大陸の攻略メンバーもとい最初の航海メンバーが集まりそうなんだにゃ。レベルと装備はもちろん基準以上にゃ」
「レイドパーティー2つ分。つまりボクとトガを除いて48人も?」
適正レベル帯1000人のうち50人。つまり5%とはいえデスゲームという状況で危険がつきものである新大陸への初航海へ名乗りあげてくれる人がいるとは思ってもいなかった。せいぜい集まってもレイドパーティー1つ分くらいだろうとおもっていたのだ。
「……そんなに」
「とは言っても3分の2程度は本当に戦い慣れてる人間らしいんだな」
「……戦い慣れてる?」
「イスク、らしいにゃ。わかるよな? 連日テレビで流れてたしな」
マオには私が大旅団の人間だということも、イスクであるということも伝えていない。本屋で見かけたあの本に子細な完全展開姿の記述があったためそれを見られていては面倒だと思ったからだ。
確かにガライアがもっとも普及しているのは大旅団関係者内のため、大旅団員が巻き込まれていてもおかしくはないのだ。いままで何故それに気が付かなかったのだろうか。
戦闘部員ならばある程度の命のやり取りには慣れているはず。デスゲームとはいえ命がかかっているのは前と同じなのだ。そう捉えいくらかマシな動きができる人員がいたかもしれないというのに。
そしてイスクだというのならば。
その反射神経をいかしてパラメータ以上の力を引き出せるはずなのだ。
正確にはシステムの力を借りずに動ける。
VR:PFOのモーションはイスクの動きを参考につくられている。仮想世界の中でならイスクでなくともシステムの力さえ借りれば同じような動きを一般人が再現することができる。それがアーツだ。当然システムに補助された動きと自然の動作入力は異なるため切り替え時に若干の入力不可時間――硬直時間―が生じる。それをゲームではアーツの反動と呼んでいる。
しかし、イスクの反射神経ならばシステムに頼らずともアーツの動きを再現することが可能だ。もちろんただ再現するだけではダメージ倍率判定が出ないため、初期モーションでシステムを起動するのは変わらない。アーツシステムが立ち上がったのを確認し、過不足なく同じ動きを自らの運動入力で行うことによって反動を起こさずアーツを放つことが可能なのだ。
反動がなければ次の行動へうつるまでの隙が少なくて済む。
モーション通りに動かねばならず、わずかに力加減が狂っただけでも失敗してしまうのが欠点だが、元のアーツに特殊な効果や高いダメージ倍率が設定されていなければ回避策はある。
オリジナルアーツ。
自らアーツを登録すればいいのだ。それができるもの現状イスクのみと考えていいだろう。
オリジナルアーツはエネミーや攻撃判定のあるものに対し特定の初期モーションを取り一定の速さ以上で実際のアーツと同じモーションを行うことによって登録できる。登録時もダメージ倍率換算はされるため、特定の初期モーションパターンを頭に入れておけばある程度までなら登録なしでもダメージを叩き出せる。
登録しスキルしてあげていくことによってさらにメリットが付加されていくためある程度まで、なのだ。
とはいえ、通常それでできるのは精々3連撃程度までであり、通常のアーツの半分の連撃数程度までが限度だ。それ以上続けようと思うのならば相当の練習と適性が必要になる。
最終的にはガライアのクレアレア回路を通じてどれほど早くサーバ側と交信できるかの範疇になってくるだろう。クレアレアが使われている以上、どうしてもそこに適性というものは関わってきてしまう。
私も1つ、たまたまうまく登録できたオリジナルアーツがある。付加されたメリットもなかなかいいものだったため積極的に使っている。
7連撃パリィ&斬突技、セブンスクート。
トガに相手になってもらい、全速力で私の剣を避けてもらった。どちらも素養があったからこそできたものだ。
集まってくるであろうイスク達には反動なしに動ける程度にはなってほしい。そしてできるならば使いやすいオリジナルアーツを1つでも持っていてくれれば、安全に越したことはない。
「……集まるのはどれくらいの日?」
「明後日には集まるにゃ。で、船が出来上がるのがだいたいそれくらいにゃ。資材がそろうのが約1週間後だから、3日くらいは猶予はあると思うにゃ」
「一度、集まっておきたいんだ。パーティを編成しなきゃいけないだろうし、確認したいこともある」
「伝えておくにゃ。やっぱりアルマちゃんがリーダーでいいね。向こうは向こうでイスク中心に複数のグループに分かれてるけどにゃ。そのとりまとめってことでにゃ」
「……リーダー?」
「今更嫌だって言っても無駄にゃ。向こうもそのつもりにゃ」
マオはニヤリと笑う。
どこかでそう仕組んだらしい。これはもう逃げられまい。
これ以上ややこしい話が来る前に切り上げようと集合場所と時間を決めマオとは別れた。




