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今にも笑い出しそうで必死でそれを堪えている
真夜を浩太は見ながら
「そうだ! 喉、渇かない?……」
自転車の前のカゴの中にある、ジュースを
真夜に差し出した。
さっき、笑って、ちょうど喉が渇いていた真夜は
「ありがとう! ちょうど、喉が渇いていたんだ!」
浩太が差し出したジュースを受け取り、蓋をあげ、
ジュースを飲もうとした。
だが、浩太が真夜に差し出したジュースは
炭酸入りでおまけに真夜に渡すまで浩太の
自転車のかごの中で散々、揺られていた。
その結果、真夜が蓋を開けた途端、勢いよく、
炭酸が吹き出し、真夜の顔にかかった。
「ひっかかった!……」
浩太は顔に炭酸がかかった真夜を指差しながら、
大声で笑った。
ムッとし、一瞬、不機嫌な表情をしたが
たわいもない子供のようなイタズラに
「やったわね! これはお返しよ!……」
真夜も浩太に炭酸入りのジュースを吹きかけようとしたが
「おっと! あぶない!……」
浩太はジュースが掛かる寸前で交わした。
「こらぁ! よけるな~……!」
どうしても浩太に仕返しがしたかった真夜は
浩太に再び、ジュースをかけようとした。
「かかるもんか!……」
浩太は真夜から逃げるように自転車を漕ぎ出した。
「こらぁ! 逃げるな~……」
真夜は自分から逃げるように立ち去る浩太を
ジュースを持ったまま、楽しげな笑みを浮かべ、
追いかけた。
それはいつものアイドルの真夜らしくなく、
浩太と同年代の女の子そのものだった。
坂の頂上まで上がると真夜は疲れたのか、
息を切らし、その場に立ち止まった。
後ろを振り返りながら、逃げていた浩太は
そんな真夜を見ると自分も自転車を止め、
「そこの湧き水で顔を洗うといいよ! 気持ち良いから!」
真夜の横に湧き出ている湧き水を指差した。