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「すまん! 配達先が多くて……」
浩太はそう言いながら、自転車の荷台の荷物を
由貴の前に降ろしていると
「ちょっと散歩に行ってくる!」
由貴の両親が営んでいる旅館から港で見かけた
麦わら帽子の真っ白なワンピースの真夜で出てきた。
『あっ! さっきの子だ!……』
浩太が真夜に見惚れていると
「真夜ちゃん。どこに行くの?……」
由貴は自分の両親が営んでいる旅館から出てきた
真夜に声を掛けると
「ちょっと、散歩。」
真夜はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫? 道、わかる?……」
島に着たばかりで道がわからないかと由貴は
真夜のことを心配したが
「うん! 大丈夫。 そこいら辺をちょっと、
散歩してくるだけだから……」
真夜はそう言うと山手の方へと歩き出した。
しばらく、真夜に見惚れていた浩太だったが
「誰? あの子?…… お客さん?……」
由貴に真夜のことを尋ねると由貴は驚いた顔で
「あんた、あの子を知らないの?……」
見詰めたが浩太はまるでわからず、首を傾げていると
由貴は世間【芸能】のことをまるで知らない浩太に
呆れながら
「あの子はモデルでトップアイドルの
新宮地真夜【しんぐうじまや】じゃないの!」
と言ったが
「しんぐうじ? まや?……」
浩太はやはり、由貴が言っていることがわからず、
首を傾げた。
浩太は由貴のところに荷物を配達し終わり、
近道をしようと山手のほうに自転車を走らせていると
行く当ても決めず、真夜が山道をフラフラと歩いていた。
後ろから真夜のことを見ながら
『本当にあの子がアイドルなのかな?……』
そう疑問に思い、確かめたくなった浩太は
自転車のペダルを思い切り、踏み込み、
坂道を駆け上がった。