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「お~い!…… 早く、来いよ!」
長い梅雨が終わり、夏に向けて、照り返す日差しが
強くなり始めている日曜の午前中。
嶋川浩太は島の中心を貫くように伸びる長い坂道を
息を切らしながら、自転車で上がっている。
「待ってくれよ!……」
坂の中腹で限界が来た浩太は足を付き、ゼーゼーと
息を切らし、止まっていると坂を上りきった
浩太の親友の琢也たちが
「早く!早く!…… 船が来ちゃうぞ! 置いて行くぞ!」
坂の上から浩太のことを急かす。
週に一度、島にやってくる観光船と浩太らの住む島に
物資を運ぶ船が一緒になったような船を見に浩太らが
住む住居地区の反対側にある港に行き、その船を
見るのが浩太ら、少年らの楽しみだった。
やっとの思いで浩太が港に辿り着くと港にはすでに船は
到着しており、物資や観光客などが続々と島に降り立っていた。
「すげぇなぁ……」
琢也らと浩太も港に船に見惚れていたが島に降り立つ、
観光客に混じり、真っ白なワンピースに大きめの麦わら帽子を
目深に被った浩太と同じ位の歳の女の子【真夜】に
目が留まった。
目深に被った麦わら帽子の為に顔までははっきりとわからないが
出で立ちから清楚な子だとはわかった。
真夜は先に降り立っていた母親のような女性となにやら、話すと
真夜らを迎えに来ていた島で旅館を営んでいる浩太の幼馴染み
由貴とその母親が真夜らを車に乗せ、立ち去った。
『彼女【真夜】は一体、誰なんだろう?……
何しにこの島にきたのだろう?』
浩太は今、逢ったばかりの真夜のことが気になっていた。