027 迷惑なファン
「だぶさん。今日のヒット絶妙な当たりだったね」
「…………」
「いやいや照れなくていいよ。本当に痺れたよ。テレビじゃなくて試合観戦に行ってたファンならもっと大喜びしてただろうし」
試合終了後、居酒屋で日本酒を飲んでいただぶさんは、コアなファンに話しかけられていた。そのまま無視するのも感じが悪く、ただ相手の話しに合わそうと懸命に言葉を探すだぶさんだが、あいにく彼は口下手だ。何を言っていいのか分からず、終始無言が続いていた。
「…………」
「一二塁間をダダーッと破る勝ち越しのヒット。あれでカーツの勢いは増したよ。大したもんだ!」
「…………」
「へへ。どうしたどうした。今日はやけに無口ちゃんじゃないの」
ファンは完全に酔っ払っていた。口から凄まじいアルコール臭が漂って店中に悪態を晒している。本人に悪気はないつもりでも、周りの人間の迷惑になっていることもあるのだから酒飲みはつらい。その点、だぶさんは比較的若い世代でありながらも、酒を飲んでも飲まれるなの言葉をひたすら突き進んでいるようだ。
「俺は言葉を選ぶ主義だ」
「そうかいそうかい。俺とは真反対の性格みてーだな。俺なんざ頭の中に浮かんだ言葉をダダダダと脳内パソコンにに打ち込んでるんだぜ。どうだまいったか?」
「…………」
無言で酒を飲むだぶさん。
「まあいいさ。今日はあんたのヒットで旨い酒が飲めたし、これからも頑張ってくれよ!」
「当たり前だ。野球選手は誰もが頑張っている」
「くうううう。でたでた! 頑張れって声をかけたら頑張ってますとか空気の読めない返しをしてくる奴がよ。そういう返事の仕方は誤解を呼ぶから気を付けな!」
「…………」
「それじゃあだぶさん。元気でな!」
ファンはそう言うと、ご機嫌な様子で店から出た。だぶさんもまた、彼と同じく上機嫌だった。口ではなんやかんや否定的な発言をしつつも、心の中ではお互いの好感度は高かった。




