001 灰色の髪をなびかせて
今年、広島カーツにドラフト4位指名された選手が波乱を呼んでいた。なんと、高校を2年も留年した男を獲得したのだから前代未聞である。無論、留年すれば高校野球の出場権は剥奪されるので、少なくとも2年間は公式野球をしていない事になる。そんな男をドラフトで指名すれば話題になってもおかしくはない。しかもその男は20歳を超えているのに、まるで40代のような老け顔をしていて渋い声が特徴的だ。それに加えて田部永十郎の本名をもじり、愛称は全員一致で『だぶさん』に決定していた。本人もだぶさんと呼ばれるのは光栄のようで、鼻孔を膨らませて悦んでいた。だぶさんは決して感情を表に出さず、あまり言葉を口に出さない。だがそれがいいとして、一部のファンからは既に絶賛の嵐が吹きすさんでいる。
そんなだぶさんだったが、オープン戦を迎えると打撃成績がチーム内犠打王となっていた。記事には早速『いぶし銀のバットが光る!』とネタにされていたのだが、この記事にも鼻孔を膨らませて悦ぶのが彼である。そして犠打数が多いのと、そこその打率を残せているのを首脳陣は評価したのか、だぶさんは開幕1軍の切手を手にしたのだった。