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箱庭図書館の事件目録  作者: 雨夜 紅葉
『名も無き人喰い』編
30/30

名も無き人喰い

ぴったり30話で完結!!!!

なんという偶然……

「で、灰」

「ん?」

「結局、《人喰い》はどこ行ったんだよ」

「……教えても良いけれど、あんまり知り過ぎると彼に殺されるよ」

「やっぱり結構です」


ご要望通り自分と灰のカップに二杯目の紅茶を注いで、俺は背もたれに体を預ける。ここ二、三日はひどく疲れた。精神的にも、肉体的にも。

早く家に帰りたい気分だが、帰るまでの道のりがかったるいものだから、仕方ない。

もう少し休んでから帰ろうと、小さくため息を吐いた。


「っていうかさ」

「は?」

「僕らは一度、《人喰い》に会っているんだよ。君は気づかなかったかもしれないけれど」

「マジかよ……そんな子供(ガキ)記憶にねぇな」

「ーー待って。もしかして七夜、《人喰い》を男だと思ってる訳じゃないよね?」

「え、」

「《アリス》って言ったじゃん。主人公は女の子だよ。『名も無き人喰い』は、同性愛……所謂“百合”の話なんだから」


驚きの事実。

いや、まぁ、女の子だとしても、それっぽい人物はいなかったような。


「ヒント。『不思議の国のアリス』でトランプ達は、白い薔薇をペンキで塗っていたね。何色に塗っていた?

更に付け加えるなら、僕らが“彼女”に会ったのは屋敷に到着する少し前のことだよ」

「薔薇ぁ?少し前、って」


あ。



【21】


あれから、僕は彼女の後を追った。

どこで生まれ、どこで生きて、何を思って息をしていたのか。

そうして知ることが出来たのは、知りたくなかったことだけで。

僕も、彼女も、奇跡のようなこの世界でさえ、特別ではないという真実。

誰かの描いたシナリオを、僕らは今まで必死に演じていたのだ。

苦しさも悲しさも、痛みも辛さもフィクションだった。

僕らは、生きているようで、生きていなかった。


「あーあ、」


ぱしゃん。と水溜まりを跳ねあげれば、水面に映り込んだ青空が掻き消える。ただただ虚しかった。何の感慨も、湧かないほどに。

けれど、たった一つだけ。

もしも神様が実在するなら、聞いてみたかった。


「僕らは、」


一体、何だったんだろうと。


知りたくなかったことを知ってしまって、僕は初めて、ここで死ぬことを考える。

役者(キャラクター)として選ばれたのなら、僕の探し物はどこにも無い。

無いものを探し続ける人生なんて、無意味だとしか思えなかった。


『化物』


その言葉が示すものを、僕は今ようやく理解する。

どこかで見ているだろう作者とやらは、これから僕の選ぶ結末を、どんな風に隠喩したのかな。

彼女の迎える結末を、どんな風に描いたのかな。

わからない。

わからないけれど。


奇跡。

僕の唯一愛したもの。

きっと創作物でしかないこの世界に、それは存在する筈もない。

でも一度愛したものを、そう簡単に忘れられはしないのだ。

だから。


せめて僕の最期くらいには、一欠片でいいから、奇跡が宿っていればいいのにと。

祈って。

願った。

終わりだ。

終わりにしよう。


身を隠していた路地裏から街並みを見上げ、僕は笑った。

笑って、笑って。赤く染まった右腕に、もう一度牙を立てるのだ。



THE END.


これにて一応完結です。

一応第二章も半分くらいは準備できてるんですが、投稿するかはまだ未定です……

さて、いかがでしたでしょうか。

楽しんでいただけたなら幸いです。


ありがとうございました。

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