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箱庭図書館の事件目録  作者: 雨夜 紅葉
『名も無き人喰い』編
20/30

推理劇の序章

人が人を好きになるのに理由はなく

人が人を嫌う理由も、また明確には存在しないのだろうけれど

【15】


ぱたん。と音を立てて本を閉じ、膝の上にため息を落とす。急激に押し寄せてくる倦怠感はあまり気持ちの良いものではなくて、堪える気も無かった俺は、その欲望のままに体を後ろへと倒した。見るからに上流品っぽい羽布団が背中に伝えてくる柔らかい感覚に、自然と目を閉じ深く深く呼吸する。

疲れた。


「情け無いなぁ、たかが本一冊で」


真横から降らされたそんな言葉に突っ込む気も起きない。が、心外なのは確かなので、反論だけはしておこうと思う。


「しょうがねぇだろ、普段から読書する習慣ねぇんだから。っていうか、この本自体が読みにくいんだよ。展開急だし、話が前後するし」

「まぁ、それはね。最初も、夕食の時も言ったでしょ、未完だって」


完成してないっていうのは勿論完結してないっていう意味だけれど、つまりそれは推敲されてないって意味でもあるんだよ。直す前の作品にも価値がある場合はあるのさ、太宰治の『グットバイ』や、夏目漱石の『明暗』みたいにね。とはいえ、この本に前の二冊程の価値があるとは言わないけれど。


なんて続けて、灰は窓際の安楽椅子に腰を下ろした。俺はこのベッドの周囲に罠や仕掛け、またはそれ以上のものが無いかを約数十分間に渡り確認してようやっと座ったというのに、無警戒も良いところだ。普通の旅館とか屋敷なら兎も角泣く子も黙る『チノイロ屋敷』で、しかも先程、集団食中毒や変死体の話をしたばかりだというのに。

一歩間違えて別の意味の安楽にされたらどうするつもりなんだろうか。洒落にならないけれども。


「ん、何」

「……いや、なんでもない」


まぁ、それはそれとして。


「ただ、なんで事件解決したのに一泊コースなんだろうなって思っただけ」


肘をついて体を起こし、羽織ったままの白衣を乱雑に脱ぎ捨てる。そういえば俺替えの白衣とか持ってきてないんだけれど、明日もこの若干血の付いた白衣を着るんだろうか。前日診療所に泊まっていたから仕事鞄の中に着替えだけは入っていた気はするが、流石に白衣の予備までは持っていないと思う。

もっとも、明日朝イチで帰れるならば別段困らないけれど。

ーー正直な話、あまり期待通りに行く気はしない。


「さっき事件は解決したんだろ」

「解決はしてないよ、解説しただけで」

「はぁ?」


いやいや、と訝しく灰を見やりながら、先刻のーー夕食での会話を思い出す。否、会話と言っても話し手は灰だけだったが、なんにせよあれが推理劇であったことは確かだ。



回想開始。


人が人を殺す理由は、必ず有る。

そうそれは、この手の中に。

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