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箱庭図書館の事件目録  作者: 雨夜 紅葉
『名も無き人喰い』編
17/30

赤き女王の円卓❶

【14】


「本日はお疲れ様でした、不知火様。それで、父を殺した犯人はおわかりになられました?」


夕食。

正直食べる気にはならないがーーだから要りませんと断る訳にもいかず、俺は大人しく指定された席についた。入り口側から時計回りに空席、トーマさん、空席、アリスさん、空席、レイラインさん、空席、空席、灰、そして俺と、そんな順番で円卓を囲んでる。この屋敷には伯爵の意向で、住人全員で食事を取る習慣があるのだと、レイラインさんが言っていた。

それはいい。

それはいいんだけれど。


「一応収穫はあったよ、ご令嬢。まぁ詳しくは後ほど……しかし随分と空席が多いんだね。他にも使用人が?」


面倒臭そうに会話をしていた灰が、ふっと視線を左隣に移す。釣られて同じ方向に目を向けると、『ヤマネ・ペインキー』と書かれた紙がテーブルの上に置かれていた。そこに座る筈だった人物の名前なのだろうか。

ちなみに、俺の右隣の席には『スペード・ローズリリー』という名が、同じように記されている。

全員分の席指定。

何の意図が、意味があるのかは、見当もつかないけれど。

するとレイラインさんは、にっこりと微笑んで灰に答えた。


「死にました」

「……はい?」


思わず聞き返してしまってから、慌てて口を塞ぐ。

しまった。

さっきのことがあるから、念のため空気と化しておこうと決めたのに。

そう思って恐る恐るレイラインさんを伺うと、


「はい、死んじゃったんです」


ーー意外にも普通。

おそらくは彼女のデフォルトのテンションで返ってきた返事に、スピリチュアルな愛の告白の要素は一切無く。

なるほど、あれは初対面限定の発狂だった訳か。だとしたら、そんなに嬉しいことも無い。

いや本当に。

外見は綺麗な少女だ、普通は残念がるところなのだろうけれど、生憎俺にとっては恐怖の対象でしかなかったのだから。

っと。

それは置いておいて。


「『ヤマネ・ペインキー』に『スペード・ローズリリー』。加えて、トーマとアリスの間に『チェシャ・ルービック』。アリスと私の間には『エレディア・ハンプティ』が。で、私の反対隣がお父様ーー『トロエベット・ハート・オロイラ』、その更に隣が『メイベル・ローダーニーン』。彼ら計6人は、皆様がいらっしゃいます2、3日前に死亡しているのです。お父様は勿論、他の者も皆例外なく」

「死因は?」

「毒死です。こうやって皆で食事をしているときに、ぽろっと。集団食中毒だったら嫌ですから一応調査はしたのですけれど、うちのコックは優秀なので特に原因は見つからなくて。変だなぁと思っていたところです」


おいおいおい。

ってことは何の対策も改善もされてないんじゃないのか。うわぁますます食いたくねぇというかよくあんたらここで普通に食事出来るな、なんて若干感心まで覚えた、その瞬間。


ばたんと、音を立てて扉が開いた。


反射的に振り返る。


そうしてガラガラとカートを押しながら入ってきたのは、似ているけれど似ていない、双子らしき男女だった。


「当然だよお嬢様!俺の調理場で食中毒とか絶対絶命究極的にありえねぇよ。な、ダム」

「はい、ディー兄様」


ディー、と呼ばれたその少年はお世話にも大人っぽいとは言えず、外見も内面も、多く見積もって15歳くらいが限度だろう。真白いコック服に身を包んだその姿は、ごっこ遊びを敢行している子供のようで。

信用に値するかといえば。

……うん、まぁ、察して頂きたいところなんだけれど。

少女。

片割れのーー印象的に妹と思われる少女の方は、そんな比ではなかった。

端的に表現するなら、マイルドな包帯男といったところか。

頭に、首に、腕に、足に。服から覗く顔以外の肌の殆どを覆う、包帯。べったりと貼り付けられたガーゼには、生々しく血が滲み。大きな黒い瞳が、ゆらゆらと揺れて。

唖然として彼女を見つめる俺を他所に、続けて口を開いたのは、意外なことに灰の方だった。


「君たちが、この屋敷の料理人?」

「おう!俺の名前はディー・トゥイードル」

「私は、ダム・トゥイードル、妹です」

「この二人には、屋敷内で出る食事全ての調理をしています。見た目と裏腹に腕は確かですから、きっと貴方方にもご満足頂けると思いますよ」

「ああ、そう」


他愛ない話をするようなトーンで、しかし話題は物騒という謎な空間。

誰かちょっとは疑問に思えよと口に出来ない俺は、ただ黙って会話が終了するのは待った。

そして。

それから数分後、続き作ってくるから冷めないうちに前菜食べろよ、だとか言い残して出て行ったディーさんと後を追ったダムさんの代わりに、アリスさんとトーマさんが二人と入れ違いで入ってきて。

俺の望み通りに、あえなく会話は終了したのだった。

結果夕食が始まってしまったのは、不本意以外の何物でもなかったけれども。

それはまた、別の話だ。


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