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prologue【開演宣言】
「さぁ、始めよう。」
【1】
「 」
不意に名前を呼ばれて、振り返る。
ぐしゃ、と人の肉を踏みつけて。
視界に入ったのは、空に浮かんだ観覧車。
テトリスのブロックみたいなビルの群れ。
黄金に輝くケルト十字と、隣接する赤銅色の千本鳥居。
血にも紅葉にも似た赤い空。
それらを背景に据え置いて、微笑う彼女の姿。
叩けば折れてしまいそうな、弱々しい笑顔だった。
だからぼくは手を伸ばす。
けれど。
粘度の高い赤色の液体が絡みついたぼくの指先は、虚しく空を切って。
その瞬間。
彼女の白い頬を、通り雨が僅かに濡らした。