プロローグ『二種類の人間』
「ねえ、知ってる?」
昼休みのできごと。
とある高校の教室で机を並べてお弁当を食べていた女子グループのなかから、そんな言葉が発せられた。
「この学校に伝わる『白衣の天使と黒衣の悪魔の伝説』っていう話」
「なあに、それ?知らない。どこからの情報?」
一旦は懐疑の目を向けるも、その場にいる女子が、そんな話に興味を惹かれないはずはなかった。話を振った女の子は、まるで、門外不出の話をするかのようにみんなの顔を寄せて、小さな声で話し出す。
「ここだけの話なんだけどね、」
その話はよくある切り出し文句から始まった。
「内田が部室で、張り紙のある木箱を見つけたんだって。で、その張り紙にさっきの文章が書いてあった、と」
内田とは、今この場にはいない女の子の名前だった。けれども、この女子グループのメンバーである。彼女は嘘をつくような人間ではないことをみんなが知っていた。だから、その話を信じて、みんな思い思いの感想を述べ始める。
「白衣の天使って、看護師によく使われる言葉だよね?学校で当てはめるなら、保健室の先生……かな?だとしたら、黒衣の悪魔ってなんだろう?」
「さあ?」
待ちきれないように、一人の横から友達が口をはさんできた。
「それで、木箱の中身はなんなのさ?中に何か入ってたんだろ?」
話を振った本人は首を横に振る。
「それが、鍵がかかってて開かないんだってさ。木箱自体も八年前ぐらい前のものらしいし、部員の中にも詳細を知っている人もいなかったんだって。結局、謎の木箱ってわけ」
「うわー、気になる」
「何か他に手掛かりとかないの?」
そう聞かれて彼女は、何かを思い出した表情で話を続けた。
「あ、そうだ!手掛かりって言うほどじゃないかもしれないけど、張り紙に書いてある続きの文章がちょっと意味深かな」
そして、その子は最後に言った。
「張り紙には『白衣の天使と黒衣の悪魔は伝説を作ってこの学校を去った。その伝説はきっと後世に語り継がれるだろう。だって世の中には二種類の人間がいるのだから』って書いてあったんだって」