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学園都市にて。四日目。

 起きたら既に朝食が用意されていた。セバスさんも中々頑固だ。

 ありがたく朝食を食べると直にエルザがやって来た。昨日とは違い荷物を抱えている。

 「泊めてくれ。」

 朝一で男の家に来て言う事じゃないと思う。

 とりあえず自分の部屋に戻って話しを聞く。二人共床に座ってだ。セバスさんの入れてくれたお茶を一口飲んでエルザが話し始めた。

 「昨日はマーサにも言われて家に帰ったの。近頃はマーサの所が多かったし、言われるままに家に帰ったのね。そこまでは良かったのだけど・・。お風呂に入ったあと、珍しくお婆様と食事をご一緒したので、トラの家の事を話したの。そのときお婆様が・・。」

 残っていたお茶をあおるエルザ。

 「お婆様は何気なくこう言われた。「うちにもあるわよ。」と。確かにうちにもあったわ。あの椅子が。なんでも中期以降らしいけど、その時座っていた椅子も、お婆様の部屋だけでなく、自分の部屋の椅子と机もそうらしくて・・・。」

 さも恐ろしい事が有ったようにエルザが両肩を抱える。

 「リエールさんの所はお金持ちなのだし不思議じゃないと思うけど?」

 むしろエルザがそこまで驚いている事が不思議だ。

 「馬鹿言わないで。確かにうちは古いしお金もあるかもしれないけど、あんな所で心穏やかに住んでいられる?安い椅子でも一脚金貨二枚とか昨日のお昼ご飯が二百食よ。数うちの剣なら数本買える。それも、お婆様が怒られた時なんて椅子や机を投げて来るのよ。今までは避けたり迎撃したりしていたけど、今後は出来ないわ。」

 確かに金貨何枚もする椅子を投げられたら、僕もなんとか受け取ろうとするだろう。

 「ここの家具については昨日マーサに頼んでおいたわ。使用人の使う物をわけてくれるらしいし。ずっととは言わないから。少しの間泊めて頂戴。」

 座ったまま拳を床に当てて頭を下げるエルザ。お嬢様と言うよりは傭兵の様な頼み方だ。

 「今までお世話になったし良いけど、うちは狭いよ?」

 「なんの問題も無いわ。隣の空き部屋を借ります。」

 嬉しそうな顔をして荷物を持って部屋を出て行った。

 マーサさんの所に泊めれば良いと二人で気付いたのは、マーサさん達が家具を持って来てくれてからだった。

 それまで在った家具を端によせて貰った家具を各部屋に置く。少し狭く感じるけれどもしょうがないと諦めた。

 そうこうしているうちにエミリアからカーテンが届いた。カーテンの設置もマーサさん達がやってくれると言うのでエルザと街へ出ることにした。

 まずは冒険者ギルドへ。仕事を受けるのではなく、師匠への手紙を出しにだ。正確には師匠の知り合いにだけど。なんでも居場所を知らせたくない人が居るから、その人に送って欲しいと。それにその人の所から直に師匠の元へ届く様になっているとか。

 後はどんな仕事が在るのかを覗く。迷い猫探しや薬草の買い取り、商隊の護衛、モンスターの討伐など他の街とあまりかわらない。違うのはその隣の掲示板。学生用となっていて、何処何処の先生の手伝いや、他校への協力要請、下宿の募集など、学生向けか学生が発注したものが掲示されている。

 「所属校を問わないものはこうして張り出されているわね。内部で処理したい物は各校舎に張り出されているわ。」

 物珍しさから見ていたらエルザが教えてくれた。

 「そういえば所属校はどうやって見分けるの?」

 制服は着ても着なくても良いらしく、ごまかそうと思えばごまかせる様な気がする。ちなみにエルザとエミリアは着用。僕は金銭的な問題からも不着用となっている。

 「大体は制服着ていたらわかるけど、だいたいの授業を受けるのに校舎ごとのカード、私達は学生証と読んでいるけど、この学生証が居るからそれを見ればわかるわ。」

 エルザが出したカードを見せてもらう。金属製の黒いタグに竜の紋章とエルザの名前が彫られている。

 「校舎の出入りもこれでチェックしたりするわ。あとは取っている授業なんかもわかるけど・・。行ってみましょう。」

 冒険者ギルドを出て大通りを北に向かった先は、この街に着て一番大きな建物と敷地を持つブレンス校だった。

 「うちは紋章を見てわかる通り、竜族が多いわ。竜人も含めてね。誰にでも門戸は開かれているから他の人も結構居るけど。こっちよ。」

 エルザが校門横の事務室に声をかけると、エルザの持っていたタグと似た様な物を渡された。

 「来校者用の仮パスよ。」

 エルザの真似をして渡されたパスを入り口の機械に通す。

 「パスを通さないとどうなる?」

 「ランプと音が鳴って警備員が来るわね。まぁ入り口から入らなかったらばれないかもしれないけど、見付かった時に面倒だからお勧めしないわ。」

 確かにパスを出してもらえるのならば、無理に隠れて入る必要は無いだろう。他の校舎も同じ様ならば、ここに来た日に無理に入って野宿しなくて良かった。エルザに感謝だ。

 「ここにセットすると色々とわかるわ。」

 入り口から直ぐの所に並べられた端末にエルザの学生証をセットすると直に文字の羅列が浮かんできた。

 「名前、年齢、入学してからの年数、取った授業と評価、現在取っている授業、賞罰。といったところよ。わかる?」

 「うん。エルザは百二十一才なのだね。」

 エルザ・ブレンス、百二十一才、二年度目。

 「そこ!?しょうがないじゃない私は竜だし・・。」

 近接格闘術B,護身術B,近接武器術(剣)A,近接武器術(盾)B,近接武器術(斧)A,竜族魔法学(火)S,威嚇術S,探索術B,竜族歴史学C,人類史D,帝王学C,料理 ,

 見事に戦闘方面に偏っている気がする。

 「料理に評価が無いのは?」

 「単位の取れなかった授業はブランクよ。」

 横を向いて小声で答えてくれる。恥ずかしいらしい。

 「基本的には何年居ても良いし、合計五十単位以上取れば卒業できるわ。どこの校舎の授業も一単位になるけど、同じ内容の物は認められないから気をつけて。私のを例に挙げると、この近接武器術(剣)は色々な所であるけど、もうブレンスで取っちゃったからガーツ校で受けても単位としては貰えないわ。まぁ受ける事は出来るけどね。近接格闘術なんかは種族によって大分違うから色々受けるのは面白そうだけど・・・。」

 そりゃ竜と人の戦い方は違うだろうし、海に住む者はもっと違うだろうけど、

 「やっぱり戦闘方面なのね・・。」

 以前思ったバトルジャンキーはあながち外れていなさそうだ。

 「別に良いじゃない。楽しいのよ。」

 帰り際、パスを返すと事務室で授業の小冊子をくれた。今年ブレンス校で受けられる授業の一覧だそうだ。他の校舎の授業はそれぞれの事務室で受け取るしか無く、大体一校か二校の授業を取る人しかいないのでそれで間に合っているらしい。

 日も傾いてきていたのでエミリアの所によってカーテンのお礼を言うと、話しの流れから、ゲンロ校の授業冊子を貰った。エミリアは今年受ける授業を大体決めたらしく、あとは入学後、最初の一週間の授業を経て決めるとのことだった。エミリアの受ける予定の授業には印が有り、一つくらい同じ授業を受けても良いかななんて思ったりした。 

 家に帰るとマーサさん達の姿は無く、カーテンや家具が設置してあった。お礼は明日しにいくとして早速夕食の支度にとりかかる。

 「トラが作るの?」

 一緒に貰ったブレンス校の冊子を見ているエルザは手伝う気がないらしく、テーブルで待っている。何故エルザが帰っていないかというと、「折角来たから一日くらい泊まって行く。」とのこと。一応、男である僕の所に止まる不安は全くないらしい。

 夕食のメニューはエルザの持って来た肉(朝持って来た荷物の半分が肉だった。)を焼き、マーサさんの差し入れてくれた野菜でスープとサラダを作る。後は米が炊きあがるのを待てば完成だ。

 「お米か。」

 食事を並べるとエルザが呟いた。

 「パンが良かった?」

 なんとなく米が食べたかったので米にしたけど、明日用にパンもある。

 「いや、好きだけど・・。」

 「なに?」

 言いよどみ方が気になる。

 「私が炊いた時は真っ黒になったのよ・・。」

 料理の評価が空欄である原因の一端を知った気がした。

 「明日の朝はおにぎりが良いな。うん。漬け物と卵焼きと味噌汁と唐揚げと。」

 どんどん食べながらそんな事を言っているけど、多分明日の朝起きたらセバスさんが用意している気がする。

 食事の後はエルザに先に風呂を使ってもらい、その後に自分も入った。着替えて戻ると部屋にエルザが待っていて、ブレンス校の授業について遅くまで話した。エルザから良い臭いがして少しドキドキしたのは内緒。

 あと、他の家具とは異なり、ベッドだけはふかふかの物だったのは素直に嬉しかった。


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