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学園都市にて。三日目。

 窓から射し込む光で目を覚ますと、見慣れない天井と部屋に一瞬どこに居るのだろうと思った。

 「おはようございます。」

 一歩部屋から出ると既にセバスさんが待機していた。

 「お、おはようございます。」

 慣れない感覚に戸惑いながらも挨拶を返す。

 「朝食の準備が出来ております。」

 昨日食料は無いと言っていたから、何処かで買うつもりだったけれど、少しは有ったのだろうか。

 「私の一存で用意させていただきました。」

 よく考えればわかる事で、何年も使っていなかった家に食料がある訳も無い。

 「ありがとうございます。今日こそ食べ物買って来るから・・。」

 「いえ、お食事が終わりましたら改めて当屋敷を案内させていただきたいと思います。」

 (当屋敷って、なんか執事さんみたいだな。)

 一通りの案内が終わり、必要な物を考えているとエルザがやってきたので思った事を口に出してみたらあっさりと認められた。

 「執事でしょう?」

 「そうなの?執事さんってもっと大きなお屋敷とか偉い人の所に居るものじゃ無いの。エルザやエミリアの所みたいな・・。」

 「偉い人って・・。まぁ余裕のある人じゃないと雇えないだろうし、広い家じゃないと雇う必要も無いからそうなるのかしらね。」

 偉いかと聞かれたら偉くないし、お金もない。広さもそこまで広いわけでもなく、一般家庭に毛が生えた程度だ。

 「そんな顔をするのもわかるけど、ここの家はともかく敷地広いじゃない。この街でこの広さがあるのは幾つかの学校くらいよ。」

 敷地だけ見れば確かに広い。家の中を見て回った時にベランダから眺めたけれど、庭から少し離れた所に生えている樹々は、徐々に森の様になり反対側が見えない程だ。

 「お試し期間なのだし、そんなに考えないで居て便利くらいに思っておけば良いのよ。気に食わなかったら二ヶ月後に断れば良いだけ。それよりもリストが出来たなら買い物に行きましょう。」

 どうやらエルザお嬢様は今日も付いて来るらしい。暇なのだろうか。

 食料と下着を含めた何枚かの服とタオル、それに歯ブラシなどの生活必需品。途中エルザの買い食いと一通り見終わった頃には昼頃で、そのままエルザと昼食になった。

 「レディにおごらせないわよね?」

 その一言で僕のお支払いが決定。三人前締めて銅貨3枚。3千セン。(ちなみにエルザが二人前。)

 少し軽くなった財布と共に家具屋に行く。

 ベッドと机や椅子を見る為だ。備え付きの食器棚や本棚、クローゼットは劣化防止の魔法が効いており大丈夫だったけれど、そう出ない家具は要修理となっていたためだ。

 使っていないのに劣化しているってどれだけ前に住んでいたのだろうとか思った。

 まずはマーサさんの所でお世話になったベッドと同じ物を見に行ったが、金貨五枚。勿論買えない。エルザには「なんで買えないの?」的な顔をされたが、貧乏人に手が出る値段ではない。というか、そんな貧乏人に飯をおごらせるのはいかがな物でしょうか。

 餅は餅屋と銅銭や鉄銭を除いた残金、銀貨三枚で一揃い買える家具を店の人に聞いてみたけれど、帰るのは中古しか無いでしょうとのこと。それならば家の物を修理するのと変わらない気がする。

 お得意様であるエルザに気を使ったのか、店出入りの職人を派遣して修理代金を見積もってもらう約束をしてくれたので家路に付く。

 「エミリア様がお待ちでございます。」

 玄関にてセバスさんから声をかけられる。ちなみに門は一々の開閉が面倒臭いので昼間は開けっ放しだ。

 「留守にしていてごめん。」

 「いえ、突然のお訪問お許し下さい。」

 玄関右の応接室で、マリアさんと待っていたエミリアが丁寧に挨拶してくれた。

 お茶が出されている所を見ると買った物は無事に届いたらしい。

 「昼間に出て来るなんて珍しいわね。」

 家まで付いて来たエルザが聞く。夜の住人の一日は夕方からとか誰かが言っていたはずだ。

 「昨日お話をして気になってしまったもので。」

 「えぇ、昨夜から楽しみにしておられました。まるで初めて血を吸う子供のように。」

 「ま、私はもうちょっと落ち着いていましたわよ・・。」

 途中で顔を赤くしたと言う事は思い当たるふしがあったのだろう。まぁ初めて血を吸う子供と言われてもわからないけれど、遠足前の子供といったところかな。

 「お嬢様はお友達がおられずに、他人の家を訪ねたことが何回ある事か・・。」

 片手を頬に当てて溜息を付くマリアさん。

 「んもう、からかわないでちょうだい。私だって何回かは行った事があるわ。ダニエルのところとか・・・。あとはマリアのお家にも・・。」

 「ダニエル様は親戚ですし、私の家はお嬢様のお家の敷地内だと思いますけど。」

 友達が居なかったのは本当の様だけど、いつものマリアさんと違う気がする。

 「ウェルキンさんが居なくてお嬢様と二人だとこんなものです。」

 お気になさらずにと言う表情は相変わらず変わらないけど、こちらの口調の方が幾分か付合いやすい。

 「贈り物に我が国の魔導ランプを考えていましたけど。」

 エミリアがそこまで言って天井に目をやる。

 「必要なさそうですね。代わりと言ってはなんですが、カーテンなんていかがでしょう?今使われている物は少々遮光性が低いようですから。」

 多少古くなってはいるけれど、個人的にはそれほど気にならなかった。それでも日の光を気にするエミリアには気になるらしい。

 話しをしているとセバスさんが入って来た。

 さっそく職人が来てくれたらしい。エミリアに断って席を立つと、エルザだけでなくエミリアとマリアさんも付いて来た。

 「家具のお手入れですか?」

 興味津々といったところだ。セバスさんと僕を含めた五人を引き連れて現れた僕たちを見て、やりにくそうに職人さんが各部屋を回って行く。

 黙々と各部屋を回り紙に書き込んでいく。一通り回ると紙を渡してくれる。

 「まぁ大体ですがこんな物になると思います。」

 受け取った紙を見て動きが止まる。

 そんな様子を見てエルザとエミリアが覗くこんで来て、エルザは同じく動きを止め、エミリアはそんな様子を見てきょとんとしている。

 「これ、からかってないわよね?」

 エルザがひねり出した大一声がそれだ。

 「はい。テーブルが大小合わせて五つ、革張りの椅子が十脚、木の椅子が四つ、ソファーが三つ、ベッドが二つと棚が幾つかですよね。」

 「そうじゃなくて値段よ。」

 僕は嘘だと思いたい。合計金額600万セン。金貨60枚。閃貨でも6枚。フカフカのベッド十二個分。

 「それでも安いと思いますが・・。」

 職人さんの困りようを見て嘘ではなさそうだ。

 「もしかしてお二人とも知りませんでしたの?」

 動きを止めた僕たちに説明してくれたのはエミリア。

 「こちらで使われている家具はほとんどがキョクドー初期の作品で、実用レベルまで直すのならば、これでも安いと思いますわ。」

 職人さんの補足説明によると、キョクドーは約二百年前の家具職人で、作品には高値が付き、特に初期の作品で使用に耐えられる状態の物は少なく更に高くなるそうだ。

 話しを聞いてようやく納得できた。家具と言うよりは美術品の修理と言える。

 それだけの金額が払える訳は無く、職人さんにはお礼を言って帰ってもらった。

 「話しを聞いた今、座るのも恐いよ。」

 「そうね。私も壊さないか心配よ。」

 戦々恐々としているのは二人だけで、エミリアは慣れた感じで、マリアさんとセバスさんはどこ吹く風といったところだ。

 「もしかしてエミリアの所でも使っていたりする?」

 どこか慣れた様子に聞いてみた。

 「いえ、初期の作品はほとんどありませんけど、後期の物を父がよく好んで使っていました。」

 どうせ後期も高いのだろう。

 「後期のものは初期の作品と比べて数も多いのでそれほど高くはないのですよ。」

 なんでも中期頃に認め始められ、最後は弟子を抱えて大量に作ったらしい。

 「それでもお高いのでしょ?」

 「私はわからないのですけど、」

 エミリアがマリアさんを見る。

 「物にもよりますが、一脚当り金貨二枚から十枚と言ったところでしょうか。」

 もうこの椅子に座りたくない。壊れたベッドのことなんて考えたくもない。

 「よ、よし、私の所から家具をプレゼントしよう。」

 エルザも同じ意見の要で腰を浮かせてそんな事を言ってきた。家具一式は高そうだけれどもありがたく受け取っておく。

 「ありがとう。余っている安物で良いからお願いします。」

 「気にするな。こんなんじゃ私もくつろげないからな。」

 二人で思わず握手をした。

 なんだか仲良くなれそうな気がする。

 エルザがそくささと帰り、エミリアも夕食前には帰っていった。

 「そろそろ御夕飯の支度をさせていただきます。風呂は沸いておりますので何時でも使えます。」

 「ご飯くらい自分で作るよ。」

 「しかし、」

 「ご飯作るのは執事の仕事じゃないでしょ?それに僕も料理は少し出来るからさ。」

 渋々と言ったとこところだけれども言う事を聞いてくれた。料理が出来るのは嘘ではない。師匠はほとんど作らずに食べる専門だったので、いつの間にか作るのが上達していた。

 「それでは失礼させていただきます。」

 食事に誘ったけれども断られた。主人と一緒に食事を取る物ではないとこだわりがあるらしい。

 「そういえば部屋も開いているしセバスさんはここに住まないの?」

 その提案も断られた。住まいについても譲れない物がある様なので無理強いはしない。一人きりになった家で、料理をし、軽く体を動かすと風呂に入る。師匠の家であっただけ有って、台所も外に設けられた風呂も魔導式で便利なのだけれども、一人で食事は寂しかった・・・。

 一応、家具の事を聞こうと師匠に手紙を書いたあと、ベッドは使わずにマットを床に引いて寝た。


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