竜王国『攻略♪攻略?』
やっぱり一日ではクリアされなかった。
そして一週間経った今もクリアされていない。どうやら敵が強いみたいで、トゥアル君が僕に文句を言いに来た。
僕の所為ではないと思う・・・。
二週間が経つと精鋭と呼ばれる人しかダンジョンに入らなくなった。勿論トゥアル君は入れない。それが決まってからは悔しそうに顔を出し、デン爺に稽古を付けてもらっている。最近は慢心してさぼりがちだった様なので、良い薬だとデン爺が言っていた。良かったのかも?
三週間経って、僕の完治が認められてもダンジョン制覇の連絡は無い。
夕食時にデン爺から聞いたけれど、まだ三層なのだとか・・・。
四週目からはドウとダンジョンに潜って見ている。旅の途中でも思っていたけれど、ドウの腕悪く無い。単純な前衛としての能力ならセシリアさんよりは下、エミリアよりは上と言ったところだろう。
僕の体の調子を見ながらなので、いくつかのダンジョンの浅い階層を潜ってみているだけだけど、今の所脅威にはなっていない。もう少し深く潜っても大丈夫かな?
ダンジョンが攻略されたと言う話が出ないまま時は流れ、二か月程立ったある日ホーンさんが二人の知らない人を連れてやって来た。
丁度、休みとしている日(ドウと相談して一回ダンジョンに潜ったら二・三日は休みにしている。)だったので、イリアが知らせてくれたその話しを聞いて案内されている部屋へと顔を出す。
「お待たせしました。」
部屋にはデン爺もいた。
「いやいや、こちらこそ時間を取らせてしまって悪かったね。」
「いえ・・。」
「この二人はアーティファクトの研究をしているアイリスと、攻略隊のツクリネ。」
二人が頭を下げたのに合わせてこちらも会釈を返す。
「ダンジョンの事でしたらお任せしますけど・・・。」
「うん。以前サインをしてもらった通りに管理はこちらがさせてもらっているし、得られた収入の一部はトラ君の口座に振り込ませてもらっているよ。」
「となると、イレギュラーな事があったと?」
主人がダンジョンに寄り付かないのが良く無かったとか?
「うーん。イレギュラーと言うか予想以上と言うか、まぁ想定外だったのだからイレギュラーかな。」
「だから儂はもっと気をつけろと言っていたのだ。」
そうやらデン爺も知っているらしい。
「僕もそう話したんですけど、実際にあの立ち会いを見ていない人からしたらいくら爺様の弟子とはいえ、トラ君に幼い人族というイメージを持っているのはしょうがないでしょう。」
「そんな狭い視界しか持たぬから若手が育たないのだ。」
「これは手厳しい。」
「えっと、もしかしてダンジョンに潜る事に文句がつきましたか?」
「いや、それは問題ないよ。実力が無ければその人が傷つくだけで文句を言うのは居ない。そもそも幼子の穴も実力を過信して死ぬ若者が出ない様にと設定した物だしね。ただでさえ少ない竜族の若者を失いたく無いという意味もあるけど・・。」
だったらなんだろう?
「端的に言うとその逆。トラ君が強くて困っているんだ。」
「はぁ・・。」
「ダンジョンは、主人の強さによって難易度が変わると言う話しはしたよね?」
「はい。あとは魔力量と前回の難易度でしたっけ?」
「ここからはツクリネに話してもらおうかな。」
立ったままだったツクリネさんが一歩前に出た。
「はい。まず一階層の話からさせていただきます・・・・。」
そうして始まったのは僕が生み出したダンジョンの話し。
一階層で出て来たのはスケルトン。幼子の穴でも出て来た敵だし、その数も多くて5匹程。いずれも武器をもっているのが唯一幼子の穴で出て来たスケルトンとは違う特徴らしい。確かに幼子の穴では武器をもっていないスケルトンも居た。
造りはダンジョンらしく迷宮化していたけれど、そこはダンジョンに成れた竜族の皆さん適度に撃破して先に進んでいたらしい。そうして辿り着いた一階層の最奥、二階層へ続く階段の前に現れたのがジェネラルスケルトン。ボスが階層間を繋ぐ階段前に存在する事は侭あるので驚く事も無く戦闘へ移行し、撃破。
ジェネラルが付いても結局はスケルトンの延長。あっけなく撃破されたらしい。
そうして一階層は一日で踏破された。
二階層からもスケルトン。ただし、ほとんどがジェネラルスケルトンであり、武器も剣だけでなく、槍や斧、弓まで使って来たらしい。
さらに、前衛後衛等の役割が定まっているみたいで、ツクリネさん曰く、この二階層で難易度が上がったとのことだ。
それでも攻略は順調だった。
ボスに辿り着くまでは・・・。
ボスとしていたのは一際大きいジェネラルスケルトン。カイザースケルトンと名付けられたこのボスは、その実力もさることながら周りに従えた二十匹のジェネラルを指示して相対した。
この指示と言うやつが厄介で、今までも前衛後衛と別れていたジェネラルだけど、あくまでも個人の力だった。それが集団としての力を運用するとなると難易度は更に上がる。このボス戦で弱いものは戦線を離脱。もっとも部屋を出て追いかけて来る事も、死に体の武器を手放した者に追撃する事も無かったそうなので、怪我人は出たけれど死人はでなかったらしい。
よかった・・。
三階層。敵自体はそれほど強い者は出てこなかった。ジェネラルに追加してゴブリンが現れるくらい、ただし、罠が現れる様になりその歩は慎重に。これが三階総突破まで二週間かかった理由だ。ボスはオーガとカイザースケルトン。どうやらゴブリンの上位の存在としている様だけど、そのオーガもカイザーに指示されていたらしいので中隊長の様なものだろうか?
四階層はそのオーガが通常の敵として現れ、スケルトンの存在は無くなった。
罠こそあったけれど、気分的には楽だったらしい。
ボス戦で現れたのは虎人。虎の特徴こそ持っているけれど、獣人とは違い知性は無い。四つ足状態でも立ち上がった状態でも戦うが、今回現れたのは主に四つ足状態。ただし、その背にオーガとゴブリンを乗せて。
数こそ多く無かったのでそれほどの脅威にはならなかったとのこと。
そして五階層は今までのパターン通り、ワータイガーに乗ったオーガ達が主な敵でそこにゴブリンがたまに出るというくらい。
一回に出て来るのも多くて二・三組だった為、さくさくと先に進む事が出来たらしい。
それが良く無かった。
ある程度進むと広場へと出た。そこで三組のオーガ+ワータイガー(オーガライダーとツクリネさんが命名。)との戦闘中に異変が。
前方から十組程の集団が増援に。引こうとした後方からも同じくらいの増援が。
あっという間に囲まれてパーティーのうち一人が死亡。三人が重傷を負った。それもその一人が犠牲にならなければ逃げ出す事も出来なかったらしい。
初めての犠牲者が出た事で、難易度に対しての認識を改める事にした。
この十数年、大怪我こそあったけれど、死人が出た事は無かったらしい。竜族の精鋭パーティーが逃げる事も出来ない。これは上位の難易度のダンジョンでもあまりないことなんだとか。
そうして認識を改めると同時に、攻略の為にその主人となった僕の話しも聞こうと言う事になって今日尋ねてきたらしい。
そこでツクリネさんの話しは終わった。
「そうですか・・・。僕は何から話せば良いのですか?」
ダンジョン攻略は僕の望みでもあるし、協力する事は嫌ではない。そもそも犠牲者が出ている時点で協力しないと言う事は言えない。
「うん。それについてはアイリス。」
「はい。はーい。」
先程までの雰囲気を壊す返事をした女性はエルザ程の身長だけど、少し幼く感じる。
「こんなのだが、こう見えてもアーティファクトの知識は保障する。」
「こんなって、お父さんひどい!」
ホーンさんの娘らしい。つまりはお姫様と言う事になるのだろうけど、竜王は世襲と決まっている訳でもないみたいだし、軽そうな雰囲気だし気にせずに相手をする事にしよう。
「ああ。悪かったよ。それよりも今はトラ君に説明してあげてくれ。」
「まぁいいけど・・。」
別に起こっている訳でもなさそうだけど、ほっぺを膨らませてこちらを向いた。
「それで、創造迷宮のことなのだけど、結構色々な事がわかっているのね。」
改めてアイリスが創造迷宮について説明してくれた。
使用の条件等は同じだったから割愛するとして、知らなかったのは生み出されるダンジョンに付いて。
まず、総階層。これは主人となった人の魔力量で決まる。今回は十階層まで。これは格段ジョンの入り口に(1/10)、(2/10)等、何回であるか示す数字が出ているのでわかった。
次にダンジョンの造りについて。主人となった人の戦闘経験で変わるとされているらしい。簡単に言うと、前衛は曲がり道少なく、後衛は迷宮となる場合が多いらしい。もっとも完全にそれが当てはまるわけではなく、混ざっていたり、剣士でも迷宮が出来る事がある。戦闘時における思考の差異ではないかというのがアイリスさんの仮説らしい。
また、今回新たにわかった事もある。それは入り口の場所とその扉の造り。地に着ければ地下への穴と金属の扉。今回の様な木だと木材。ただし、取り外すと塵となってしまうので、宝石にくっつけて宝石の扉を得るなんて事は出来ないらしい。水につけた場合はどうなるのだろう?
ダンジョンに存在する罠については主人の知らない罠が存在した事は無いらしいので、主人の知識にある物だけだとされている。
そして、敵について。前ダンジョンに現れたモノと主人の戦った事あるモノがでてくるらしい。これは、今までの事からほぼ確定事項。
「ほぼ」と言うのは例外があるから。今回の場合だと、僕はオーガも虎人も戦った事はあるけれど、その二組の組み合わせは知らなかった。それと敵の使う魔法についても差異がある。主人となった人の持っている属性以外には使って来ないので、闇魔法しか使えない魔物の場合に主人が闇魔法を使えなければ魔法が発動される事は無い。
敵の総数は前ダンジョンの設置期間に比例する。これにも例外はあり、強い敵が多い場合は面積当りの総数は減る傾向があるのだとか。
最後にダンジョンの難易度。総合的な難易度でもあるし、一体一体の敵の強さでもある。これは主人の強さによる。
漠然とした答えだけど、そうであるとしか言いようが無いらしい。
以上の説明を受けて質問されたのは、僕の魔法属性と使用魔法、主な戦闘手段、今までであった魔物の種類、それに強かったと思う魔物と人物。
最後の強かった人物と言うのは、それに類似した敵が現れる事があるらしいので聞かれた。
魔法属性や戦闘手段に付いてはデン爺から既に聞いていたようだけど、強かった魔物に付いては知らないようだ。
もっとも強かった魔物と言うのは特にないけど・・・。
「ないのですか?」
「何て言うか、パーティーで潜っていたけど、勝てない様な敵とは会っていないとおもう・・・。」
「はぁ。オーガも虎人も充分に強いと思うのですけど・・。」
「まぁそうかな?」
「トーラが本気になったらどちらも瞬殺だろうな。群れでも静かに忍び寄って先手を取れば余裕のはずだ。いや、この間の様子だと正面切って戦っても大丈夫か・・?」
アイリスさんのツッコミを受けて修正しようと思ったのだけど、デン爺に戦力分析をされてしまった・・。
「ダンジョンの難易度が高いのもわかりましたが、せめて苦労した敵とかいませんか?」
「うーん・・・。あえて言うなら宝石巨人かな?」
「ほう、あれに遭遇したか。」
「一度だけど。攻撃強いけど遅いし、的も大きい。ただ宝石を傷つけない様に戦うのには骨が折れたよ。」
宝石巨人はゴーレムの変異体で、文字通り体の至る所に宝石や魔石がちりばめられている。それらを傷つけない様に倒せれば良い稼ぎになる反面、それら以外の場所は金属であるために有効打を当てるのが難しい。
僕達の場合は僕が核に当るまで突き刺しまくった。途中で諦めたくもなったけれど、女性陣、つまり僕以外のメンバーに却下されて結局一時間近く戦っていたと思う。
「強かった人か・・。戦った事がある人で良いのだよね?」
「はい。」
「まずは、ここに居るデン爺。それに師匠、チビ姉ちゃん、シス、サフさんが飛び抜けているかな。」
「チビ姉ちゃんは魔法を使わなかったら勝てるかな?」
「お姉様ですか?」
ついいつもの呼び方で言ってしまった。
「順に魔王、前魔王、武聖、弓導師だな。」
「弓導師ってサフさんのこと?」
「うむ。」
やっぱり有名な人だったのね・・。もう今更驚かない。
「もう何から驚いたら良いのでしょうか・・・。」
話しを聞いていた三人も驚いている様だけど、僕も通った道なので勘弁して欲しい。
「ちなみに戦ってなくても強そうだった人っているかい?」
ホーンさんがそんな事を言って来た。
「それは私も興味があります。」
黙っていたツクリネさんも興味があるみたい。
「ダンジョンには関係ありませんが私にも聞かせて下さい。」
アイリスさんにも言われた。隠す事じゃないので構わないけれど、どの範囲で言えば良いのだろう?
「戦いたく無い人でも挙げてみろ。」
デン爺が促して来る。
「戦いたく無い人ねぇ・・。」
心情的にということでは無いだろうな・・。
「まずはここに居るホーンさん、それにリエールさん。ウィゴード国のカイゼルさんとウェルキンさんにマリアさん。単純にミシィ共和国のムラマさんは力が凄そうだし、たぶん獣王のライラさんも戦ったら強と思う。」
「ムラマは冒険者をしていたときは盗賊団を一人で壊滅とかしていたし、獣王と森の中で戦うのは儂も遠慮したいな。」
「婆様と戦うのは今後も止めておくのをお勧めするよ。」
「うむ。」
リエールさんそんなにおっかないのか・・・。
最後こそ強者の戦いや伝説等の雑談になったけれど、僕の話しは参考になったらしいのでダンジョン攻略も進むだろう。




