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竜王国『創造迷宮(クリエイトダンジョン)』

次に見た景色は見慣れぬ天井とノサキの顔。

 「あ、気付かれましたか。」

 「水・・。」

 喉がカラカラだ。

 「はい。どうぞ。」

 水吸いを口元に当ててくれた。

 右手は固定されているけれど、左手は動くので自分で飲める。まぁ差し出してくれたのだからありがたく飲む。

 「今、皆さんを呼んできますのでちょっと待って下さいね。」

 パタパタとノサキが部屋から出て行く。

 どうやらダンジョンからは運び出されて治療も終わっているらしい。折れたと思われる左足と右手には固定具が、息をしても痛く無いということは、肋骨は治してくれたのかもしれない。

 自分と部屋の様子からそんな事を考えていると、ノサキに連れられて皆が部屋に入って来た。

 「気分が悪いとかは無いかな?」

 その中で唯一見慣れない女性に質問される。

 「はい。」

 「ふむ。」

 恐らく医者なのだろう。白衣を着ているし、聴診器も首から下げている。

 「動かないでくれたまえ。」

 目を覗き込まれたり、体を触られたりしたけれど手慣れている様で嫌な感じはしない。

 「『診察』。」

 最後に手を頭に当てて魔法が放たれた。

 チビ姉ちゃんにもかけられた事があるこの魔法は、文字通り体の診察を行う魔法。光魔法の適正と人体に対する知識が無ければ有効に使えなかったはず。

 「右手と左足以外には異常なし。肋骨は折れていたけれど治しておいた。手足を治さなかった理由はわかるかい?」

 「自然回復力でしょうか?」

 「うん。その通り。知っているなら説明はいらないね。」

 魔法による治癒は、主に治療する魔法行使者と患者の両方の魔力を使って傷等の異常を治す。特に傷や骨折等の場合で命に関わらない場合はこうして自然回復に任す事が多い。それは患者の魔力を使いすぎて、ただでさえ弱っている体に負担をかけないようにするのが一つ。もう一つは、本来体が持つ自然回復という力を無視して回復させる事を繰り返すと、やがて自然回復力が弱まり、病気にかかりやすくなったり怪我が治りにくくなったりする為だ。

 「血液の流れに異常もないし、内蔵に異常もない。激しい運動さえしなければ普段通りの生活をしてくれて構わないよ。あとは毎食後に薬を飲んでくれれば痛みも対してないだろう。」

 「ありがとうございます。」

 血の流れなんかも把握していると言う事は、このお医者さんは水魔法への適性もあるらしい。

 「私からはそれくらいだ。もし何かあったら声をかけてくれ。」

 最後の言葉は僕だけでなく診察が終わるのを待っていた皆にもかけた様で、ホーンさんが頷いたのを確認して部屋から出て行った。

 「心配しましたわ。」

 「どれくらい意識が無かったの?」

 まず声をかけてくれたイリアに聞く。

 「半日程でしたわ。」

 イリアがカーテンを開けてくれると外はもう暗い。

 「すまんかったな。」

 イリアと入れ替わる様にデン爺に謝られた。

 「修行で骨折くらいはありえるでしょう。」

 「修行と言うよりも立ち会いでしたが・・。」

 ホーンさんが声を挟む。何処かで見ていたのかな?

 「うむ。途中から楽しくなってしまったので、つい・・・。」

 「まぁ爺様とあそこまで組み合えるのは見事としか言いようが無いね。」

 「はぁ・・。」

 手も足も出なかったのだけど、思ったよりも好評価みたいだ。

 「凄かったです。」

 シオ達三人娘もドウも見ていたらしい。なんでも試練の最後に師匠と戦うのは恒例行事であり、興味がある人は見られる様に魔導具が設置してあるらしい。それとドウは百体を越えた辺りでやられ、デン爺と戦っても二手で沈められたらしい。

 「トラ君も体を休めた方がいい。」

 話しは次から次へと変わって行くけれど、ホーンさんのその言葉でその日はお開きと成った。

 


 ノサキだけは残って食事を運んで来てくれた。なんでも三人娘が交代で看病してくれるらしい。さすがに尿瓶を持って来られたときは遠慮したけど・・。

 杖をつけば移動する事も出来るのだから一人でも大丈夫なのだけど、ノサキも譲らない。無理に断る必要も無いので、昼間は彼女等の好きにさせて寝るときは帰ってもらう事にした。食事の運搬なんかは助かるし。


 翌朝は朝食と共にシオが現れた。明日はイリアと言う事になるけれど、昼過ぎに来た昨日のお医者さん曰く、今日にでも退院して良いと言う事なので世話をしてもらう事も無くなるだろう。

 その話しを聞いてシオがデン爺に知らせてくれて、夕方にはデン爺の家に僕は居た。

 元々の滞在予定もデン爺の家の予定だったし、ドウ達もお世話になっているのでちょうど良い。家の人達もデン爺が怪我をさせたと言う事で親切にしてくれる。まずますイリアの世話の必要性は無くなってしまったのだけど、一人だけ仲間はずれと言う形に成ってしまった事が不満らしく、ほおを膨らませてこちらを睨んでいる。

 「じゃあ明日はイリアに任せるよ。」

 「本当?」

 「うん。明日は家から出るつもりも無いし。」

 「なら良いのよ。」

 そっぽを向いているけれど、機嫌を直してくれた様だ。

 「それにしても何でその格好?」

 彼女が来ているのはメイド服。ベッドの横に居るシオもそうだし、先程顔を見せたノサキもそうだった。

 「似合わない?」

 「そんな事は無いけど・・・。」

 三人とも似合っている。本職のメイドさんにはない可愛らしさがある。

 「なら良いじゃない。」

 (本人達が気に入っているのなら良いか・・・。)

 三人娘とおしゃべりに興じていると来客が告げられた。ホーンさんらしい。

 三人娘が部屋から出て行き、代わりにホーンさんが入って来た。今日も共はいない。

 「調子はどうだい?」

 「痛みも無いですし、これさえ無かったら直にでも動けますよ。」

 固定具を持ち上げてみせる。

 薬はとても効いてくれて痛みは無い。

 「それは良かった。」

 「何か御用ですか?」

 昨日も来てくれたし、朝も病院に来てくれた。今更改めて来たと言う事は何か用事があるのだろう。

 「話しが早くて助かるよ。これが何かわかるかい?」

 ホーンさんが鞄から取り出したのは赤い石。台座に固定されてはいるけれど、台座がおまけに見える程に大きな石だ。

 「魔石でしょうか?」

 「間違っては無いのだけど、これは所謂いわゆるアーティファクトと言うやつだ。」

 アーティファクト。古代魔導具とも呼ばれるこれは、古くから存在するダンジョンから見付かる事がたまにある。その効果はピンキリだけど、どんなに安い物でもお屋敷が立つ金額で取引される。今存在する魔導具の回路はアーティファクトを参考にして作られたとも云われ、金額だけでなく、社会的にも価値のある物だ。

 「壊れているのですか?」

 今目の前にあるアーティファクトからは魔力は感じないし、赤い石にもひびが入ってしまっている。

 「壊れていると言うよりも休眠状態と言う方が正しいな。」

 「まさか・・。」

 頭によぎるのは意識がなくなる前に目の前に散らばった赤い石。

 「そう。昨日爺様が君を吹っ飛ばした先にこれはあった。」

 「やっぱり・・・。」

 弁償しろと言われたら全力でデン爺に責任を押し付けよう。

 「ちょっと持って見てくれるか。」

 差し出されたアーティファクトを受け取る。

 「ん?」

 魔力が吸われる。それと日々が少しずつ塞がって行く。

 「やはりな。」

 そう言うとホーンさんが取り上げた。

 「これは竜王国に代々伝わるアーティファクトの一つ。創造迷宮クリエイトダンジョンと呼ばれるものだ。今から話す事は出来れば内緒にしておいて欲しい。」

 「はい。」

 「この創造迷宮クリエイトダンジョンは全部で十有り、四つは下の街で残る六個はこの街で使われている。」

 下の街と言うのは冒険者達が集まる街のことだろう。

 「このアーティファクトは文字通りダンジョンを生み出す事が出来る。これは昨日トラ君が潜ったダンジョンを作っていた。そして核となる中心の石が壊されるとダンジョンは崩壊し、ダンジョン内の人、アイテム、魔物全てが外に溢れ出る。」

 「魔物もですか?」

 「ああ。こう成ったのが幼子の穴で良かったが、本来ならば精鋭でダンジョン内の敵を減らした後に皆で囲んでから壊す。昨日の場合は爺様一人で充分だったがな・・。」

 確かにスケルトンしか出て来なかったし、デン爺一人居れば対処は出来ただろう。

 「ここからがトラ君に聞いてもらいたい話しなのだが、このアーティファクトは壊した人を主人として次のダンジョンを創造する。今回の場合はトラ君だな。」

 「デン爺ではなくてですか?」

 「ああ。実際にに壊した時に触れている者が主人になる。」

 「さっきの魔力を吸われたのはそういうことですか。」

 おそらく主人の魔力を吸ってダンジョン形成の礎にするのだろう。

 「魔力を吸って完全な姿に戻った後、地面に置くとダンジョンと成る。そこでトラ君にはうちの国に置いて欲しいのだ。正確にはこれを譲って欲しい。」

 「竜王国の物ではないのですか?」

 「そうなのだが、結局主人となった者が使わなければ意味が無いし、何故か主人が移動するとダンジョンも移動する。」

 「ダンジョンがですか!?」

 そんな話しを聞いた事がない。

 「実際に移動した事があるんだ。どうやら竜脈に沿って移動する様で、持ち主が留まった場所から一番近い竜脈上に出来る。キクノ学園だと北の森の中だな。」

 「そこまでわかるんですか。」

 「以前移動したうちの一つにリエール婆さんのダンジョンがあったからな。検証がてらだったから今はもう無いが。」

 「リエールさんのダンジョンですか。」

 なんか凶悪そうなイメージが・・。

 「幼子の穴以外のダンジョンは最奥まで潜り、破壊の準備ができ次第破壊して良い事にしているからな。より強い者がダンジョンを作った方がより強いダンジョンが出来、より良い物を得る事が出来る。そしてそのダンジョンから得られた利益は潜った個人、竜王国、ダンジョンの持ち主に配分される。」

 「それが竜王国の外貨獲得手段ですか。」

 「そうだ。アーティファクトが得られなくても魔石の収入だけで充分な額になる。それに潜る皆の実力も上がるというメリットもある。」

 「わかりました。」

 「良いのか?」

 「はい。その為に竜王国の秘密まで教えてくれたのですよね?」

 「まぁその通りだし、助かるが・・・。色々と考えて来たのが無駄になったな。」

 「それで僕はどうしたら良いでしょうか?」

 結局どうして欲しいのかは聞いていない。

 おそらくは、ダンジョンを竜王国に作れば良いのだろうけど・・。 

 「明日にでもダンジョンを作って欲しい。そしたら次の日から集中して攻略に乗り出せる。」

 「わかりました。」

 明日の朝に迎えに来てくれた上に、ダンジョンを作ったら良い場所まで案内してくれるらしい。他にも通常のダンジョンの様に報酬もくれるとか。

 迷惑をかけたのだからと断ったのだけど、貰えないという前例を作りたく無いというのと、攻略が成せるまで僕の時間を拘束する保障として受け取って欲しいと言われた。こんな場合も貰えると皆が知れば、余計に頑張るだろうとも言っていたので受け取る事にしてホーンさんとの話しは終わり、帰って行った。

 「あ。」

 「どうかしましたか?」

 ホーンさんと入れ替わる様にして戻って来たシオに聞かれた。

 「イリアに謝らないとなと思って。明日出かける事になったからさ。」

 「それなら私から伝えておきます。」

 「そう?ごめんね。」

 「任せて下さい。」

 両手をお腹に当ててお辞儀するその姿は本当のメイドさんの様だ。

 そう思って見ていると、お茶を入れる作法一つとっても丁寧だ。聞けば三人娘は揃ってデン爺の家の人に作法に付いて教わっているらしい。

 ダンジョンが攻略されるまで彼女達の時間が無駄になるかと心配したけれど、どうやら無駄な心配になりそうだ。ドウはダンジョンにチャレンジできるらしいし、デン爺にも鍛えてもらうらしい。

 最後の心配であるイリアの機嫌は別に悪く無かった。普通に朝食も持って来てくれたし、ホーンさんが迎えに来た時も普通だった。仲間はずれでなければ良いのだろうか?


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