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竜王国『幼子の穴』

 宴の翌日。早速ダンジョン入場の許可を貰った。

 メンバーは僕とドウ。三人娘も行きたそうだったけどこのダンジョンは一人ずつ入らなければいけないそうなので、彼女達にはまだキツイだろうとのデン爺の判断だ。

 「ここじゃ。」

 デン爺が連れて来てくれたのは街中にある一軒の建物。入り口から入ると受付が有り、その奥には準備をする部屋。そこで食料や必要と成る道具を支給された。

 さらに奥へ進むと大きな扉とそれを守る二人の若者。

 「これはルーデン様。」

 「話しは聞いていると思うが、この二人が挑戦する。」

 「はっ。聞いております。どちらから入場されますか?」

 「俺から頼む。」

 このダンジョンは一人専用。ただし、その人が出て来るまで入れないと言う事は無く一人入って三十分経つともう一人入れる様になる。なんでも入り口が組変わる仕組みらしい。

 その話しを聞いて昨日のうちに順番を決めておいた。ドウが先で僕が後。どっちでも良かったので籤で決めた。

 「ではどうぞ。」

 彼等が扉を開いてくれてドウが入る。中は薄暗い程度で見えないと言う事もなさそうだ。

 「気を付けてね。」

 「トラもな。」

 ドウを見送って30分後、僕も中へ入る。

 「気をつけてな。」

 「行ってきます。」

 やはりドウと同じ様に入り口から視界が確保できる程度には明るい。

 もっとも準備されていたアイテムの中にライト等が無かったので半ば予想をしていたけど・・・。

 石造りの通路を進む。迷う事は無い。何故なら一本道だから。

 一応気を付けて入るけれど今の所罠なんかも無い。

 「っと。」

 ようやく前方に変化があった。

 「スケルトンかな?」

 言うなれば人の骨格標本である。

 それが一体。剣を持ちこちらに向かって来ていると言う事は敵なのだろう。

 実際剣を振り下ろして来たし。

 「魔石は無しか。」

 それどころか骨の欠片も残っていない。

 倒したと思ったら煙の様に骨も剣も消え去った。

 更に進むと今度は二体。

 その次は三体。

 「次は四体かな?」

 試練の一種だと聞いているし、徐々に数を増やして様子を探っているのだろう。

 予想は外れ五体でした。その後は八、十三、二十一と続いた。どうやら一つ前の数と足した数が出て来るらしい。また、敵の数が増えるに従って接敵する場所が広くなってもいく。

 「ふぅ。」

 さすがに数えては居ないけれど、法則に則れば三百七十七匹の敵を倒した時の部屋は既にそこいらの家よりも広い。

 「いい加減面倒だな・・・。」

 一体一体は強く無いし、大した連携もして来ないので余裕を持って立ち回れてはいるけれどこれだけの数を倒すのは面倒臭い。

 そんな僕の気持ちをあざ笑うかの様に更に倍近い敵が前方に広がっている。

 「六百十かな?」

 どうやら敵は部屋からは出て来ない様なので通路から眺めているのだけど、これだけの数のスケルトンが揃っているのは圧巻である。

 「一気にいこうかな。」

 使う魔法は身体強化、シスから教わった空間収納術、そして武器強化。

 一気に部屋へと飛び込み真ん中に着地すると刀の延長線上に空間収納術の黒い線を形成、そこまでを武器と見立てて武器強化。あとは力の限り薙ぐ。

 スケルトンは飛んだりする事が無いので一気にその数を減らす事が出来た。

 技名『線刃せんじん』。魔法の訓練の際に試して成功した技を広げてここまでの範囲にする事が出来たものだ。ちなみに名付け親はチビ姉ちゃん。

 残るのは刃圏に居なかった敵だけ。二十も居ないだろう・・・・。

 その二十体も塵と消え一本道の通路を行く。

 「ただ数が多いのはもう勘弁して欲しいな・・。」

 今度の僕の望みが届いたのか、次に現れたのは分かれ道。

 「迷路?」

 右の分かれ道の先にも分かれ道が見えるし、左も同様。

 「マッピングと左手で行くかな。」

 マッピングは授業で習ったし、実践もしている。いつもはエルザの嗅覚や他の人の勘で進むけれど今回は左手の法則を使う。

 迷路にはいってからはスケルトンの数が一〜三匹になり、代わりに落とし穴や落石等の罠が出て来た。けれども、注意して見ていればわかる程度の物ばかりだったので引っかかる事も無い。

 「随分と早く出られたかも?」

 三十分もかかっていないと思う。

 「そうだな。真っすぐだったぞ。」

 「デン爺!」

 迷路の出口に居たのはデン爺。何処からか見ていたらしい。

 「左手の法則を使えば出られるとはいえ早かったな。」

 「そうなの?」

 「始めに右に曲がっておきながら左手を使う者はそうおらん。」

 左に曲がって左手を使うか右に曲がって右を使う人が多いらしい。

 「それでデン爺が居ると言う事はここで終わり?」

 「いや、最後に一つある。こちらへ来なさい。」

 デン爺の後に付いて辿り着いたのは何も無い部屋。

 「さて、もうわかるな?」

 「はい。」

 「何でも有りでよい。」

 デン爺の顔はにこやかなままだけど、放つ雰囲気が先程までとは全く違う。

 稽古をつけてくれたときよりも更に強く威圧を感じる。それとデン爺の言葉で確信できた。ここでデン爺と立ち会うと言う事だ。

 「なに。おまけみたいな物よ。気楽にかかってきなさい。」

 この威圧に気楽にかかるなんて事は出来ないし、稽古ですら気を抜くと文字通り落とされた経験から手抜きなんてできない。

 手抜きしなくても勝てる気はしないしね・・・・。

 「行きます。」

 「来なさい。」

 刀を抜き身体強化も武器強化もかける。『線刃せんじん』はデン爺の防御力の前では意味をなさないだろうから使わない。あれは強度的には問題ないけれど、刃とするには相手の防御力と僕の腕の釣り合いが取れないと機能しない。今回は無理だ。

 一歩踏み出し、さらに進んでもデン爺は動かない。言葉通り来るのを待つらしい。間合いに入る一歩目で斬り下ろす。

 そこでようやくデン爺は半歩こちらに近寄り右腕をあげた。刀に触れる直前に腕がひねられて斜めに刃線がずらされる。これはデン爺がよく使う守りの一手。大抵の攻撃は受け流されるし、耐えても刃をずらされた状態で強化済みの竜の鱗を傷つける事は容易じゃない。

 流れには逆らわず振り下ろした所で切り返したいところだけれど、デン爺の右手が引かれ逆に左手が突き出される。丁寧に。素早く。ずれた体では対して引く事が出来ないのを見計らってか僕の体を突き抜くかの様な勢いで迫って来る拳。

 なので引かずに前へ。指先から回転を派生させて体全体を捻ると同時に前へ。これは『転脚てんきゃく』。デン爺に教わった歩法の一つ。脇をすり抜けて背中に回り、刀の柄で狙うのは首。刃で斬るには速度が足りないと判断して柄で殴り掛かったのだけど、意味が無かった。

 柄は何も無い空間を通り過ぎ、下から迫り来るのは右肘。

 腕こそ避けたけれど、柄を跳ね上げられた。動きが鈍った所にさらに踵が突き上げられる。デン爺は肘を突き出しながらその場で縦に半回転した形だ。

 「くっ。」

 柄を蹴られて刀は上空へ。

カツッ

 天井に突き刺さった。戦いながら取りに行くことはキツイだろう。

 突き上げられた踵が今度は落ちて来る。大きくステップを踏んで後方へ。踵落としが来たと言う事は逆立ちした状態で回転したのか・・・。

 既にデン爺は開始したときと同じ様にこちらを向き、軽く拳を握っている。

 「武器はあれだけじゃなかろう。」

 デン爺の言葉に乗る様にして再び前へ。

 腰は低く、上半身は前へ倒す。腕は交差させて左右の腰へ。

 「ほっ。」

 真っすぐに打ち下ろされた拳は顔ギリギリで避け更に一歩。突き出された拳が開かれ僕の襟元を掴もうとして来るが、無視。勢いそのままに左右の手を開く。

キャリンッ

 普通ではあり得ない音が出た。

 「シスの技か。」

 僕の両手には先程とは違う刀。間合いを取ったデン爺の頬には一本の切り傷。僕の足下には数本の髪の毛。

 「収納状態から強化までの速度は先程までと段違いだったな。」

 腰に手を当てていたのはそこの空間にに刀を仕舞っていたから。空間収納と強化の速度は自己鍛錬と魔法制御の修行の成果だ。

 「今度はこちらから行くぞ。」

 トンッと軽く地面を蹴って前進するデン爺。軽く蹴ったとは思えない速度だけれど、何度も味わっているので驚く事は無い。

 「ちょっ。」

 ただし驚かないということと対処が出来ると言う事は別問題である。

 上下左右、時には前後に現れては消えるデン爺の攻撃は途切れる事が無く、両手の刀だけでなく時に足や腕も使って受け流し、避けるので精一杯である。移動の技術や今までの経験からこれだけ防げているけど反撃の余裕が無い。

 もっとも、何手にも渡って防げているということが上達したということなのだけど・・。昔は一手目で吹き飛ばされ、最後に組み手をした時も十手くらいでついて行けなくなった。

 「ほほ、上達したな。」

 「ありがとうございます。」

 デン爺が一歩引いて声をかけてくれた。その間に息を整える。

 「まだ余裕がありそうだが・・・。」

 そういうデン爺の目は楽しそうである。

 (恐い・・。)

 そして再び始まる猛攻。

 先程と違うのは、ありとあらゆる方向からでは無いと言う事。精々上下左右であり、前後までは含まない。

 (千手・・・。)

 『無手千手』。デン爺に付けられた二つ名。大抵の人は最初にデン爺がしてきた攻撃を見て、「あらゆる所から様々な無手での攻撃が来る。」ものだと考えるけれど実際は違う。

 「くっ。」

 嫌な予感がして無理矢理刀を突き入れるけれど、無理矢理な攻撃がデン爺に通る訳も無く肩に弾かれる。そのまま半歩進み突き出される右手。避けようが無い。

 千手せんじゅ。それは千手せんて先までを考えて生み出される攻撃で受け様が無くなっていくことから付けられた名前。防ぐには強力な攻撃でデン爺の攻撃を断ち切るか逃げ切るか。僕が知っているのはこの二つだけ。前者はシスが後者はサフさん。逃げ切る事が出来ずに無理矢理攻撃したけれどやっぱり悪手だった。

 「『線格せんこう』。」

 受け流された右手は勿論左手も回避も間に合わない。だけど一言発するだけなら出来る。

 言葉と共に前面に生み出される格子模様。

 「ふんっ。」

 デン爺の最後の踏み込みと共に拳が格子模様に当り、格子共々吹き飛ばされる僕。

 後ろに飛んだつもりだけど、それだけでデン爺の拳の威力を押さえられる訳も無く壁にぶち当って砕けた。

 「シスも面倒な技を教えたものだな。」

 見ればデン爺の右手から血が出ている。普通の人なら斬れていても良さそうな物だけど、竜の鱗は傷つけるに留まったみたいだ。それにしても、一目でシスの空間収納と同じ物だとばれるとは・・・。

 「しかし、シスがそんな技を使った記憶は無いが・・・。」

 「一応僕のオリジナルかな?」

 覚えたての時にシスに使った防御の一線。それから発展させたのがこの『線格』。ただし、僕の前面に固定して出現させる為、そこの部分には空間収納の穴を生み出す事が出来ない。生み出したいなら『線格』を破棄するか『線格』を覆うだけの規模の穴を生み出さなければいけないだろう。

 「ならば、儂の技も覚えてもらおうか・・。」

 言うや否や、デン爺は両手を下ろし自然体になる。

 「『竜掌』・・・。」

 両手に集まる魔力・・

 本来見えない魔力が見えるのはそれだけの量の魔力が集まり、圧縮されているから。

 「やり過ぎでしょ!」

 一度見せてもらった事があるけれど、山にクレーターが出来た。

 「なに。その『線格』とやらを解かなければ大丈夫だろう。多分な・・。」

 「多分って・・・。」

 話すうちに準備はできたらしく、手を持ち上げてこちらに構える。

 「『線格』。」

 今度は前面でなく後方にも発生させる。

 「行くぞ。」

 来ないで欲しいけれど、迫り来るデン爺は本日催促。下手したら足にも『竜掌』を使っているのかもしれない。

 避けたいけれど、この速度の前に完全に避ける余裕は無い。横から食らうくらいなら、前面で受ける。そう決めて『線格』だけでなく両手の刀も前面で合わせ、そこに『線刃』も発生させる。

 この判断は正解だった。

ドンッ。

 最後の踏み込みは地面に亀裂を走らせ、文字通り竜の掌になったデン爺の掌手は『線格』に当りその厚で押し込み、わずかな時間を持って亀裂を走らせる。

 嫌な予感が当たった。空間に固定して生み出すと言う事は、その空間から移動させられると壊れる物らしい。

 「『線格』!」

 手は通り抜けられたけれどその腕はまだだ。叫ぶ様に再び生み出し、掌手を刀で受け止める。

 「ガァァ。」

 デン爺の気合いで足下の亀裂は広がり、掌手を受けた刀にも亀裂が広がる。幸いもう一度生み出した『線格』は残って居る様だけど・・・。

パキンッ。

 一本の刀が折れると共に背にした壁も崩れ、僕の足が地から離れた。

 壁の向こうには部屋が広がっていた様で、再び中を飛ぶ僕の体。もう一枚壁をぶち抜いてようやく止まった。

 『線格』のおかげで大分マシなのだろうけど、衝撃を全て殺せた訳でもなく右手指と左足、それとおそらく肋骨が折れたようだ。痛い・・。

 意識があるだけマシなのかな?

 「やりすぎたかのぅ・・・。」

 前面の穴からデン爺が顔を出す。

 「僕はただの人間ですから!」

 貴方達の様な強者ばけものと一緒にしないで欲しい。


ゴンッ。


 僕の叫び声の所為か天井から石が落ち頭に当たった。砕けた真っ赤な赤。それと驚き困った様なデン爺の顔。それが僕の見た最後の景色だった。


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