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竜王国「ダンジョン」

 竜王都までの道のりは約二週間。その間にある街は一つだけ。この広い国に対して街が少ないのには理由がある。

 まず人口が少ない事。これは街の主な住人となる竜人の数がまず少ない。移住者に対しては寛容な竜王国だけど、王都に近づけば近づく程に寒くなり農耕に適さない土地になるので移住者も少ない。

 それに追加して竜族の存在である。彼等は植物等も食べるけれど主な食事は狩った肉。その為、動植物の保護繁殖の観点からもあまり開発がされていない。

 それでもそれなりに街があるのは今回同行している様な商人達と冒険者達の存在が大きい。彼等が常に竜王都との間を行き来する為に、各国からの道沿いに彼等を相手にする人が店を構え街となっている。

 その商人や冒険者達が目的とするのが魔石や珍しいアイテム。そしてそれらを生むダンジョンの存在である。ちなみにダンジョンは僕の目的の一つでもある。


 ダンジョン。それ自体は各地に存在するけれど、竜王国のダンジョンは少し毛色が違う。

 なにが違うのか。

 まずは数。珍しい事に四つのダンジョンが街に隣接して存在している。

 そしてその四つはそれぞれ難易度が異なり、一般に初級、中級、上級、特級と言われている。ちなみに何処に入るのも自由だけど、不安があるなら冒険者ギルドで判断してくれるらしい。

 難易度が異なる各ダンジョンからは得られる魔石やアイテムの質が異なる。これは強い敵からは良いものが得られやすいという他のダンジョンの法則と変わることではないが、上級や特級のダンジョンではそれこそ一生遊んで暮らせる額になるアイテムを得られる事も有り、挑戦者は後を絶たない。同行する冒険者の中にもダンジョンに挑むつもりの人は多い様で、今まで手に入れたアイテムや一攫千金を成した冒険者の話しを聞かせてくれた。

 

 街自体はダンジョンの他にめぼしい特産品は無いが、それで充分。冒険者や商人が集まればそれを相手にする宿屋や道具屋、武器屋などの商売が必要となるし、それらを支える人が集まりやがて住人となる。

 そして何より重要なのが治安の良さ。お金が集まり、さらに荒れた人の多い冒険者が集まると治安が悪くなりやすいが、竜王都を預かる竜人は強い。さらにその後ろには竜族が控えているために逆らう人は少ないらしい。


 そんな話しを聞きながら十日。竜王都が大分近づいて来た。

 「そろそろ野営の準備をしようか。」

 何度も行き来をしているヒロルさんが提案してくれたので準備をする。このヒロルさんは今回の馬車のうち二台を所有している商人で、規模と経験からリーダー的役割をしてもらっている。


「ピーーー。」 

 馬車から荷物を降ろそうとしている時に笛が鳴った。

 これは護衛の冒険者からの警戒の合図。

 「三人は中に。ドウ。」

 「ああ。」

 二人で武器を抜いて馬車の前後を守る。

 他の冒険者も一様に武器を抜き、武芸の心得が無い人は馬車の中に引っ込む。

 さすがに旅慣れているだけあって皆の動きはスムーズだ。

 「上だ。」

 笛を吹いた冒険者に言われて皆で空を見るとそこには二つの大きな影。

 「竜族か。」

 「おどかすなよ。」

 「えっ?」

 笛を鳴らした冒険者は気付かなかった様だけどあれは竜族。魔物とされる竜とは違う。

 その違いはまず大きさ。子供の竜族でさえワイバーンなどの魔物に比べて倍の大きさがある。

 何よりも竜王国に魔物の竜は居ないとされている。

 「すまんな。」

 その冒険者のパーティーリーダーが皆に謝る。どうやら彼は知らなかった様で、皆に笑われながら謝っている。

 竜族と間違えたけれど気付けた注意力は褒めるべきだし、警戒しただけで実害があった訳ではないので誰も責める人はいない。多少の笑い話になるだけだ。

 何故竜王国に魔物の竜が居無いのか。

 それは竜族が嫌っているから。見付かり次第退治されてしまうし、そもそも狩られる立場の魔物達が近寄らない。一説にはその竜の魔物達が近寄らない範囲が竜王国なのだとする人も居るくらいだ。

 「ちょっと待て。近づいて来てないか?」

 「本当だ。」

 確かに影が先程よりも大きい。が、僕達に用があるとは限らない。

 ただの通り道の可能性もあるのだし・・・。

 「何かあっても失礼のないようにしてくれ。」

 ヒロルさんの言葉に皆頷く。

 あの大きさは一目見ただけで幼竜でないとわかるし、何より彼等の国で彼等を怒らす馬鹿な真似は避けるべきだ。

 「やはり俺たちの方へ来るぞ。」

 近づいて来た影は徐々に高度を落として来ている。

 そうして二頭の竜は僕達が見守る中、少し離れた場所に降り立った。

 一頭は紺色に近い青の鱗。大きさはエルザよりも大きい。特徴的なのは目についた傷。もう一頭は更に濃い青で略黒。大きさはエルザと紺色の竜の間くらい。

 「何か御用でしょうか?」

 ヒロルさんが代表して言葉をかける。緊張している様だけどさすがは商人。顔はにこやかで言葉も滑らかだ。

 「ああ、すまんのう脅かすつもりは無かったのだが。」

 その大きな体から響く声は優しい。

 「ちょっとそこに居るトーラに用事があってな。少し待ってくれ。」

 言うや否やその竜は人形へ姿を変える。

 僕はエルザのを何度か見た事があるけれど、他の人達は見た事が無かった様で驚いている。

 「デン爺?」

 「そうじゃ。トーラには竜の姿を見せた事が無かったかな?」

 人形になったその姿は先代竜王ルーデン・ブレンスその人。

 「うん。もしかしてそっちはトゥアル君?」

 「いや、トゥアルはこれほど大きくは無いがあながち無関係でもない。」

 「あった事ある人?」

 「恐らく無いだろうな。」

 「お初にお目にかかる。」

 黒竜も光を放ち人形へと姿を変えたけど見覚えが無い。

 「トラ君の話しは色々と聞いているよ。トゥアルの父親のオブホーンと言う。トゥアルが世話になったね。」

 手を差し出されて握手を交わす。

 「初めまして。トラ・イ・・・・。竜王様っ!?」

 トゥアル君のお父さんなら現竜王。名前も竜王の名前だ。

 「まぁ人はそうとも呼ぶが気にしなくていい。エルザや爺様の親戚さ。気安くホーンおじ様とでも呼んでくれたまえ。」

 「それはありがたいですけど・・。」

 随分と人当たりが優しい。

 「積もる話しはあるが、場所を変えよう。トーラの馬車はそれかな?」

 ただでさえ驚いていた所に竜王と聞いて周りの人達の動きが止まっている。

 「うん。ドウ君も馬車に乗りたまえ。」

 「はっはい。」

 さすがのドウも緊張を隠せない様だ。ぎこちない動きで馬車に乗り込む。

 「さて、トーラ達は私達が連れて行くが、抜けても大丈夫かな?」

 デン爺が一言も発さずに隣に居たヒロルさんに声をかける。

 「はい。」

 「街ももう近い。上から見た所周りにも魔物は居なかったようじゃが、気を抜かぬようにな。」

 「ありがとうございます。」

 そう言ってデン爺が馬車を少し離れた所まで引いてく。

 「トーラも馬車に乗りなさい。」

 「わかりました。」

 馬車の中からどうするのか見ているとデン爺が馬を小突いた。崩れ落ちた二頭をすかさず姿を竜に戻した竜王様がその手に握り、同じく竜の姿に戻ったデン爺が馬車を持つ。

 ドウ達が驚く間もなく馬車は中に浮き徐々にスピードを上げる。彼等としては色々と聞きたいことがあるみたいだけど、慣れない空の旅でそれどころではない様だ。特にノサキは僕にしがみついて振るえている。

 そんな空路は一時間程続き最後に山肌を嘗める様に上がると優しく地面に下ろされた。

 「着いたぞ。」

 その言葉で外に出る。ノサキはまだ引っ付いたまま。イリアとシオは馬車から飛び出して地面に座り込んでいる。

 「やはり地に足が付いていた方が良い。」

 ドウだけは話す余裕があったけれど、それでも地面の上が良いみたいだ。

 「ようこそ竜王国へ。」

 竜王様の言葉で辺りを見渡す。普通の街とそう変わらないが大きく違うのは、一軒一軒がリエールさんの家程の大きさである事と、庭と道が広い事。

 「ここは人形の者が過ごす区画だからそれほど違いは無いでしょ?」

 「そうですね。」

  教えてくれた竜王様もデン爺もすでに人形にその姿を変えている。

 「ここは儂の家じゃから馬車はここに置いておけば良い。馬も家人が面倒を見てくれるから安心しろ。」

 「お願いします。」

 宿をつるつもりだったけれどデン爺の家に世話になって良いなら甘えるつもりだ。

 「じゃあこっちに来て。」

 竜王様が先頭を切って先へ進んで行く。その後を僕、ノサキ、シオ、イリア、ドウ、デン爺の順に続く。

 道の突き当たりにあるのは一際大きな建物。周りの建物の数倍はあるし、奥行きは見えないのでちゃんとした大きさはわからない。

 「ここが僕の仕事場です。」

 竜王様の仕事場、つまりは王城なのだろうか?

 「わかりやすく言えば役場と言ったところじゃな。竜王になるとここに住むことになるから家と言っても良いがな。」

 デン爺の説明を受けながら役場の中に入り更に奥へと進んで行く。

 それにしても時間の所為か役所という割には人の姿が無い。

 「トラ君ここに立ってもらえるかな?君たちもね。」

 指定されたのは大きなドアの前。

 竜王様がそのドアの横に置かれた木槌でドアを叩き待つ事数秒。 

 向こう側からもドアが叩かれた。

 「では行くよ。」

 行くのはドアの先なのだろうけれど、何があるのかその顔は楽しそうだ。

 竜王様がドアの前に立ち手を添える。

 「開けたら直に入ってね。」

 「わかりました。」

 デン爺も居るのだし危険な事は無いと思う。

 「1・2の3!」

 ドアを開けたと同時に部屋へ一歩足を踏み入れる。


パッパラッパパー。

 ラッパの様な音が響き、その後に続いて太鼓、更に様々な音が重なる。それと同時に溢れる光。赤い光もあれば緑の光も黄色の光もある。

 「魔法・・・?」

 僕達が一歩踏み入れた状態で止まっている間にも音楽は進み歌も混じる。そして魔法で生み出された光は皆天上へと上り消える。代わりに降り注ぐのは花びらの雨。

 「皆!お客様のお越しだよ!」

 その声で拍手と様々な声が飛んでくる。

 「驚いたかい?」

 「言葉も無い程に。」

 ノサキはまた僕にしがみついているし、イリアは後ずさってドウに支えられている。

 未だ止まぬ音の中を導かれて奥へと進む。

 両サイドには人形をとっているヒトもいれば、竜の姿のヒトもいる。

 僕達が一番奥に要されたテープルの前に辿り着き竜王様が振り返ると声が止んだ。

 「彼がルーデン・ブレンスに認められた一番弟子でエルザの仲間。そして魔王と武聖の弟子でもあるトラ・イグ君。それと彼の仲間達。久方ぶりの客人だ。大いに楽しんでもらおうではないか!」

 「「「おぉぉお。」」」

 「無礼講なれど失礼のないように!」

 僕達にグラスが配られる。

 「宴の始まりだ!!乾杯!!」

 「「「乾杯!」」」

 皆の声に合わせて僕達も唱和してグラスをあおる。中身は以前リエールさんの所で飲んだ竜血酒のようだけど、炭酸で割られて度数は高く無い上に冷えているのでするりと喉を落ちていく。

 「一杯食べて飲んでね。」

 「ありがとうございます。」

 「久しぶりのお客さんだから皆気合いが入っているから負けない様にね。」

 食べる量も飲む量も竜族の皆には勝てる気はしないけれど、折角僕達を歓迎してくれているのだから楽しむ事だけは負けない様にしたい。

 未だに状況が良く飲み込めていない様子のノサキ達にも声をかけてテーブルに置かれた料理に手を出す。

 調理方法や味はリエールさんの会食で出た料理ににているけれど、その種類も量も桁違いに多い。

 「これが本場の竜王国料理か・・・。」

 ロクサーヌさんにも食べさせてあげたかった。

 料理に舌鼓を打つ間にも何人もの人が来て話して行く。多いのがこの国に来た目的を聞く人とデン爺の弟子としての実力を聞いて来る人。

 後者についてはよくわからないが、前者に付いてはダンジョンだと簡単に説明が出来る。


 その話しの中で出て来たのはここにもダンジョンが有るという事。そもそもこの国においてのダンジョンとは他の国とは少し違うみたいだけど、入場の許可は貰える様なので入ってみようと思う。

 いくつかあるダンジョンのうちチャレンジするのは『幼子の穴』と呼ばれている物で、なんでも人形に成れた子竜が、このダンジョンをクリアする事でようやく外の世界に出してもらえるという一種の試練につかわれるものらしく、このダンジョンをクリアしない限りは他のダンジョンへの挑戦もできないのだとか。

 また、他のダンジョンに入れると言う事は稼ぐ事が出来ると言う事でもある。彼等は基本的には自給自足を可能としているけど、外貨獲得の手段として主なのがこのダンジョンからの収入である。大人に成り実力を持つとより難しく深いダンジョンに入れる様になり、より価値のある物を得られる様になる。そして実力の彼等を満足させるだけのダンジョンが幾つもある。なのでこの国は結構豊からしい。


 以上、酔った竜族の皆さんからの情報でした。



ギリギリ金曜日に投稿できた。。


いつも読んでくれてありがとうございます。


今後の予定ですが、作者受験の為に一年次分が終わり次第投稿が止まります。

詳しい事はその最後にでも。

それではもう暫く御付合い下さい。

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