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獣王国『城下町』


 朝食も昨夜と同じ場所で取る。顔ぶれはチビ姉ちゃんが欠けただけ。

 そのチビ姉ちゃんはまだ僕のベッドで熟睡中である。

 今日の予定を聞かれたので街に出るつもりと答えておく。出たらジャニカさんの店にも行くつもりだ。

 部屋に戻ってもチビ姉ちゃんはまだ寝ていた。放っておこう。

 一人静かに体を動かしていると控えめにドアがノックされた。

 「はい。」

 チビ姉ちゃんを起こさない様に体を動かしていたので五月蝿いという事は無いはずだけど・・・・。

 「こちらをお渡しする様にとサツキ様より言われております。」

 「どうも。」

 メイドさんがくれたのは城の入城許可証。食事のときの会話がメイドさんを通してでも伝わったのだろうか。もしかしたら昨日の会話から必要だと判断してくれたのだろうか。

 どちらにしろありがたい。

 「ありがとうございます。」

 「いえ。」

 メイドさんは余計な言葉を発する事も無く去って行った。部屋を覗こうとする素振りが無いのは教育の賜物か、それとも何か匂いを嗅ぎ取ったのだろうか。

 許可証をもらったので早速街へ繰り出す事にする。一応、チビ姉ちゃんに声はかけて部屋を出る。

 向かう先はドウの部屋。

 ドウは城から出る許可を得ていないけれど、三人娘は、一緒に行きたいとも許可を得たとも言っていたので声をかける為だ。

 「と、言う訳なのだけどもう行ける?」

 シオはドウの部屋にいたが、残り二人の部屋は不明である。

 「はい。二人にも声をかけてあげますね。」

 シオが廊下を小走りに行く。

 向かった先は三個先のドア。そこに二人は居るらしい。

 女性の準備には時間がかかるとか言われるけれど、三人に限ってはそんな事は無く、十分後には城の外に僕達の姿があった。

 「まずはジャニカさんのお店で良い?」

 「はい。私達もお礼を言いたいですし。」

 別れ際に教えられていた場所へと向かう。城から大通りを下って広場で西に方今転換。四つ目の角を曲がればわかるとの事だったけど・・・。

 「特に看板とかはありませんね。」

 というかお店らしき建物そのものが少ない。

 「でも、あの馬車は見覚えがあります。」

 ノサキが指差す先には確かにジャニカさんの馬車。

 「あそこは倉庫なのかな?」

 他にも広場の様な場所に面して馬車が何台か止まっており、そのうちのいくつかは荷物を運び入れている。

 「行ってみましょう。」

 イリアを先頭に倉庫へと近づいて行くと、見覚えのある顔が倉庫内から顔を出した。

 「あぁ。トラ君。良く来てくれたね。」

 その顔とはビルさん。

 「ビルさんがいらっしゃるということは、ここで会っているのですよね?」

 「うん?ここは倉庫で店は別なのだけど、ジャニカは言っていなかった?」

 「聞いていませんでした・・。」

 「それは悪かったね。ジャニカ達は店の方で開店準備中だからそちらに回ってもらうのが良いけど・・。場所を知らないのだったよね。あと少し荷物があるからそれを待ってくれるなら一緒に行くかい?」

 「お願いします。」

 「じゃあちょっと待っていてね。」

 「良かったらお手伝いしますよ。」

 「助かるよ。」

 ビルさんの指示でいくつかの箱を馬車に積む。一つ一つは重い物ではなかったので、馬車の上では三人娘に整理を任せることが出来たし、荷物自体がそう多くは無かったので直に荷運び済んでビルさんと共にお店に向かう。

 今日は昨日持って帰って来た商品のうち幾つかをお店に出す為に倉庫に来ていたらしいけれど、普段は週に一・二回来るだけらしいので、無事に会えて良かった。

 「あらいらっしゃい。お兄ちゃんとは会えたの?」

 「はい。おかげさまで会う事が出来ました。それに犯罪とかは関係なくて呼ばれただけでした。」

 「それは良かったわね。」

 お礼を言って一応の経緯を話しておく。ライラさんも内緒にするつもりは無いようなのでかまわないだろう。

 「獣王様は良い方なのだけど、嫌な役人も多いものね。今回の事で少しは良くなると良いのだけど・・・。」

 「多いのですか?」

 「王都周辺は良いのだけど、地方に行くと結構多いわね。特に南東部は。」

 ハスキールの治めていた所は特に多いのか。上が腐って下も腐っているってもう駄目駄目だな。

 「改革が上手くいくと良いですね。」

 「本当にそうね。」

 僕達が話しをしている間にも開店準備は進み、空いていた棚に新しい商品が並べられて行く。

 「女性向けのお店なのでしたっけ?」

 並べられる商品は細々した小物から服や家具まで幅広い。

 「そうよ。今まで女性向けのお店は無かったからやってみた所大好評でね。ついでに元々作っていた服や下着も売れて万々歳よ。」

 この店舗も以前より広いらしい。以前のお店は大通りに面している事も無かったし、倉庫も無かったとのことだから大分大きくなったのだろう。

 「それにしては馬車の大きさはそれほどでもなかったですね。」

 「商品に因って仕入れ先が変わるからね。今回は小物が中心だし、アイリスの顔見せもかねていたから一台だけだったのさ。」

 家具などを仕入れるときはもっと馬車が増えるのだろう。

 「お母さん並べ終わったよ。」

 そのアイリスさんがこちらに近づいて来る。

 「じゃあ少し早いけど開店しちまいな。」

 「はーい。」

 アイリスさんがお店の外にかかった札をCLOSEDからOPENに変えてお店が開店した。

 お店の外に並んでいるお客さんは居なかったので、お客は僕達だけ。なのでジャニカさんやアイリスさんとそれぞれお喋りをしながらお店の中を見て回る。

 三人娘はアイリスさんとその姉妹とお喋りをして見て回っている。僕と一緒よりも女性と一緒の方が楽しいだろうし、下着とかを見るには僕が居ない方が良いだろう。ちなみにジャニカさん達へのお礼をかねて彼女達には欲しい物を選ぶ様に言ってある。予算は銀貨一枚ずつ。

 一方僕はジャニカさんに相談しながらチビ姉ちゃんに贈るプレゼントを探している。今回のお礼もあるし、今までこういう物を送った事が無かったので良い機会だ。僕が気になったのは金属で出来たブックマーカー。チビ姉ちゃんは本が好きだし、先に小さい魔石が付いているのが綺麗だしチビ姉ちゃんっぽい。

 ジャニカさんのオススメは下着。男女の関係なのかと聞かれて素直に答えたら進められた。変な意味は無く女性に下着を送るのはそれなりの関係がないとおかしいから。そのオススメの下着はデザイン云々よりも着心地が段違いらしい。とりあえず適当なサイズを一組買う事にした。使用前なら交換もしてくれるというのでサイズが違ったら本人に来てもらおう。

 三人娘が選んだのも同じく下着。ただし予算の都合上チビ姉ちゃんの物よりはランクが下。それとお揃いの髪飾り。

 ぴったし銀貨一枚分使い切ってくれました。

 もう一度お礼を言ってお店を出る。

 「何処か行きたい所ある?」

 「いえ。トラ様はございませんか?」

 「ここから南の事を少し調べておきたいけど、三人には退屈だろうし・・・。何なら先に帰っておく?」

 「お城に戻ってもする事はありませんし、良かったらご一緒させて下さい。」

 シオが代表して答えてくれるが他の二人も同じ意見の様だ。

 「じゃあまずは冒険者ギルドかな。」

 ギルドには魔物や盗賊の情報が出ていたりする。商人ギルドの方が詳しいらしいけれど、僕はギルド会員ではないし、商業ギルドの情報は正確な分お金がかかる。それに比べて冒険者ギルドは無料。ただし、真価に付いては自己責任である。

 「できれば竜王国の情報も知りたいのだけどねー。」

 「お手伝いしましょう。」

 イリアとシオは読み書きが出来るし、ノサキも少しなら読む事が出来るので助かる。

 人に聞きつつ辿り着いたギルドでわかったのは次のこと。

 ・東側に盗賊の情報有り。(ただし、捕まったとの報もあり。)

 ・魔物情報なし。

 ・開拓地へ向かう馬車が多く、また警備兵も多いため安全。

 ・森を抜けた先に左右に新しい分岐あり。いずれも開拓地へ続く。

 ・竜王国の異常報告なし。

 捕まったというのはハスキールの事だとは思うけど、どうも安全らしいので心配する必要はなさそうだ。

 ついでに護衛の仕事を見ると結構多い。竜王国に入ると街は少なくなり、その間隔は広くなる為に盗賊等の危険が増す為、そちらへ向かう商人の護衛依頼は多いそうだ。

 ギルドを出るとお昼も近い。三人を誘って屋台へと向かう。ギルドから広場に向かって屋台が多いのは各街共通みたいで、美味しそうな匂いが漂っている。

 三人とも遠慮していたけれど、彼女達はお金をほとんど持っていないのを知っているし、かといって僕一人で食べるのは寂しい。資料集めのお礼だと言って納得してもらう。実際、出現の可能性がある動物や魔物の情報も集めてもらったので助かったしね。

 同じ物を四つずつ買い皆で食べる。一度食べ始めてしまえばそれなりに打ち解けても居るので楽しく食べることができた。

 変な奴が絡んで来るまでは・・・。

 「坊主。俺等にもおごってくれよ。」

 「ついでにその娘達もな。」

 何処に言っても此の手の奴はいるようだ。

 「はぁ・・・。」

 子供の様な外見から嘗められる事は多いけれど慣れる物でもない。そもそも楽しく食事をしていた気分が台無しだ。

 「なんだ?」

 「いや、何処にでも居るなって・・。」

 「まるでゴ「待った。」」

 シオが不吉な名前を言おうとしたので止める。

 「その黒く光るあいつの名前を言うのは止めよう。嫌な予感がする。」

 「苦手でしたか?」

 「まぁ得意ではない。」

 「一匹見たら百匹は居るとか言いますし、お兄ちゃんも苦手でした。男の人は苦手な人が多いのですかね?」

 「おい。」

 シオと話しながらフェードアウト作戦は失敗の様だ。

 「俺等を嘗めているのか?」

 「嘗めては無いです。面倒なだけです。」

 「くそ餓鬼が!」

 いきなり腰の剣を抜く男。

 「短気ですねぇ・・。」

 切り下ろして来た剣の側面を手の甲で叩き弾くと、逆の手で顎を打ち抜く。

 「この人連れて引いて下さいませんか?兵隊さんを呼ぶのも面倒なので・・・。」

 訴えたりしないからさっさと帰って欲しいと言う僕の希望は直に打ち砕かれた。

 「野郎共!やっちまえ。」

 囲む様に見ていた人の間からぞろぞろ出て来る仲間達。

 「まさしくGですね。」

 「まぁ百は居ないと思うよ。」

 十数人と言ったところだろう。何人かは武器を抜いているのでもう正当防衛成立という事でいいだろう。

 「後ろで固まっていてね。」

 「私達は大丈夫です。」

 言うや否やシオが飛び出して行き、その後にノサキとイリアも続いて行く。

 「えっ?」

 僕が驚いている間に一番近くにいた斧を持った男に飛び込みシオが斧を、ノサキが足を、そしてイリアが下がった喉を拳で突く。

 いつの間にそんな連携ジェットストリームアタックを覚えたのだろうか?

 三人で一人を相手にする戦法らしいし、無理はしてなさそうだけど僕もさっさと終わらせてしまおう。

 そう思って刀を抜きがてら一人目を斬る。二人目を斬った時には三人娘も二人目を地に眠らせた。しかし、その快進撃も三人目まで。

 別に苦戦した訳ではない。見ていた街の人が後ろから男を殴ると、どんどん参戦する人が増えてあっという間に男達は取り押さえられただけだ。誰かが報告に行ってくれたらしく警備兵も既に来ていたので意識のある男達も逃げようが無い。

 身分の証明としてカードを差し出すと宿泊している所を聞かれたのでお城と答える。それだけで解放だ。なんでも門番から僕達の話しを聞いていたらしい。それで名前と一致したので疑い無しと。拍子抜けしたけれど、下手に拘束されずに済んだのは良かった。

 僕が兵隊と話している間に三人娘は街の人達にお礼を言っていたみたいだけど、逆に「凄い連携ジェットストリームアタックだな」とか「良い度胸だ」とか褒められていたようだ。

 さらに三人娘の身柄がライラさん預かりとしれると「さすが獣王様のメイド」や「あの馬鹿共をとっちめてくれてありがとうよ」なんて言葉も増えて、三人娘は恐縮しっぱなしだった。


 さっさと解放されたので、さっさと城に帰ることにした。

 ちなみにチビ姉ちゃんはどちらのプレゼントも喜んでくれた。ただし、サイズは合わなかったので明日一緒に行く約束になったが・・。


 Aカップでも大きかったか・・・・・・。


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