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獣王国『王城』

 そんなわけで、王城が目の前にある。

 正確には王城を守る門番が目の前に居るわけだけど・・・


 王都に着くとジャニカさん達にお礼を言って別れると真っすぐに王城へ来た。

 門番に名前を告げると待たされる事しばし、チビ姉ちゃんと女性が一人、門までやってくる。

 「ん。確かにトラ。」

 「そうですか。この度はご迷惑をおかけしました。他の街でも同じ様な事が有り、また、これから起こる可能性もあったので正直助かりました。」

 女性が頭を下げ、門番達が驚く。

 偉い人なのだろうか。

 「この方達は私が引き取ります。」

 「「はっ!」」

 兵士達が揃って敬礼で答える。

 偉い人だろうな。

 「まずはお兄さんに会いに行きましょう。」

 「お願いします。」

 緊張からかシオの表情は硬いが、耳が動き尻尾は揺れている。嬉しいのだろうな。

 ドウは牢屋に連れて行かれる事も無く、城の一部屋を与えられていた。話しを聞いていなかったのかシオが現れて不思議そうな顔をし、僕の姿を見て更に驚いていた。

 (「心配して出て行かれても困るので話しは伏せておりました。」)

 そう言う事らしい。

 それでも嬉しそうなシオを抱き上げて何か話している。邪魔をしても何なので皆で部屋を出る。ドウは基本的に城から出られないが、それ以外は自由で、聞き取りが終わった今はドウの証言を嬉しく思わない者達から守る為にも城に居てもらっているらしく、他にも同じ様な境遇の人がいるとのことだ。

 「ここが私の部屋。」

 チビ姉ちゃんの部屋はドウの部屋の三倍程あり明らかに扱いが違う。ただし、地面の面積はあまり変わらない。なぜなら本と紙に書かれた魔法陣で埋まっているから。

 「はぁ。メイド達からも苦情が出ていますので多少は片付けられないでしょうか?」

 「無理。これが一番良い形。」

 「諦めるか勝手に片付けるかしか無いと思いますよ。」

 「はぁ・・・・。」

 僕は諦めた口だけどロクサーヌさんはいちいち片付けるので、チビ姉ちゃんもわからなくならない様にロクサーヌさんが居ると少しは広げるのを遠慮する。ちなみにエルザは気にせずに踏み越え、エミリアとセシリアさんは唖然。マリアさんは無表情だった。

 「魔王様の新しい魔法と聞かされては邪魔も出来ませんので諦めます。」

 「「「魔王!?」」」

 見事に声がはもった。

 「嘘でしょ!」

 「凄いです!」

 「以前違うと言ったじゃん!」

 僕だけ驚きの方向が少し違ったけれど、大した違いではない。

 それよりも今問題なのは、チビ姉ちゃんが魔王を呼ばれた事についてだ。

 「内緒にしていたのに・・・。」

 「すみません。」

 「何で内緒にしていたの?」

 隠さなくても良いと思う。

 「知っている人は知っている。それに面倒。あと違うと言ったのは師匠について。私は二代目。」

 「一代目が師匠?」

 「Yes。ちなみにトラが三代目(予定)。」

 「「「えっ!」」」

 皆の視線が集まる。

 「ないない。僕魔法まともに使えないから。」

 「そうですか・・。」

 何故残念そうなのだろう?

 「ちなみに名前が違うのは何故?」

 「魔王はデイジー・レイズの名前を代々継ぐだけ。気にしない。」

 チビ姉ちゃんが指差した先にはノサキ。

 へたり込んでいる。

 「あっ。スイマセン。ごめんなさい。」

 「何を怖がっているのかはわからないけどチビ姉ちゃんは基本的に優しいよ?」

 訓練の時と読書の邪魔した時はその限りではないけど・・。

 「私はいつも優しい。」

 「そうですよね。気に入らない街を焼き払ったとか。竜王様を撃ち落としたとか。若い娘の生き血を数とか嘘ですよね・・・。」

 「少なくとも私はない。師匠は知らない。」

 師匠なら街を焼き払うや竜を撃ち落とすくらいは可能性がある。

 「ごめんなさい。もう大丈夫です。」

 イリアが心配してノサキに手を差し出す。

 「ほら。」

 「ありがとう。」

 仲良い事は何よりだ。

 「まぁ言いたい事も聞きたいこともあるけど、今はいいや。シオを無事届けることができたし、二人共ここでお別れかな?」

 他にも冤罪とやらがあったのなら、二人共自由になるかもしれないからここに居た方が良いだろう。

 「こちらで面倒見る事は構いませんが・・・。」

 女の人を見ると何故か目をそらされた。

 そう言えばこの人は結局誰なのだろう?

 「何故私を見る。」

 チビ姉ちゃんが何か言ったのだろうか?

 「獣王がお話ししたい事があると申されております。」

 「僕にですか?」

 前にも会っているのだしそんな言いよどむ事ではないと思うけど・・。

 「トラ様にも勿論ですが、お二人にも・・。」

 「僕は構いませんよ。」

 一応僕が雇い主になっているけれど二人の自由を阻害するつもりは無い。

 「助かります。では二人ともこちらに来て下さい。」

 そう言って三人は部屋から出て行った。

 「それであの人は誰だったの?」

 「サツキは確か内政官だったはず。ライラの幼なじみ?」

 「ライラさんに信頼されているなら変な事もしないでしょ。それでエルザ達は何か言っていた?」

 「追っかけるとエルザとセシリアは言っていたけれど止めといた。ロクサーヌは特に何も。エミリアからは「体に気を付けて」と伝言。」

 「ありがとう。気を付けますと伝えといて欲しいな。それと皆は何時頃こっちに来る?皆が来る前には出ようと思うのだけど。」

 「獣王国が今改革中なのは知っている?」

 「街で噂話は聞いたよ。ハスキールの件と合わせて領地変更なんかがあるのでしょ?」

 「そう。詳しくはわからないけれど、それが多少落ち着いたら。まぁ短くても二週間はかかる。」

 「そうなると学校は間に合わないか・・。」

 いくらエルザの背に乗せてもらうと言っても時間を遡れる訳ではないし、新学期には間に合わないだろう。

 「それは皆納得済み。ただし竜王国には行かないと。」

 「じゃあ僕一人で行っちゃおうかな。」

 「トラなら大丈夫と思うけれど気をつける。」

 「うん。」

 「それとデン爺も向こうにいるだろうから声かけるといい。」

 「覚えておきます。なんか色々とありがとう。」

 今回の事もチビ姉ちゃんが動いてくれたからこうもスマートに事が済んだ。

 僕一人だったらライラさんに会うまでに何日もかかっていただろう。

 「気にしない。お礼はもらう。」

 「えっ。」

 「覚悟しておくように。」

 魔法の実験とかだろうか。

 「手加減をお願いします。」

 「フフッフ・・。」

 怖いです・・。


 魔王についての話しとかを聞いているとサツキさんが戻って来た。

 「よろしいでしょうか?」

 「はい。」

 「獣王がお呼びでございます。」

 「わかりました。」

 そのまま二人してサツキさんの後ろに付いて行く。

 案内された先にはライラさんとイリアとノサキ。それにドウとシオもいる。

 促されるままにソファーに座る。 

 「まずはお礼を言わせて下さいね。今回も助かったわ。ありがとう。」

 向いに座ったライラさんが頭をさげると、その後ろに立っていたサツキさんも頭を下げた。

 「いえ。サツキさんにも既にお礼を言われましたし、気にしないで下さい。」

 「そう言うわけにはいかないわ。前回も大変だったけれど、今回の事が表立てば内部からの突き上げも激しくなるでしょうし・・・。被害が少ないうちに対処できたのはとても助かったわ。」

 「内部からの突き上げですか・・。」

 「ええ。だけど今回の改革に反対する者は今回の件を利用して大人しくさせられそうだから悪い事だけではないのかしら?」

 「そうですね。ここでちゃんと処分をしておけば同じ様な馬鹿を企てるのは居なくなるでしょう。」

 サツキさんもライラさんと同じ意見らしい。

 「そんなわけで、私としてはトラ君にお礼をしたいのだけど何か無いかしら?」

 「そう言われても・・・。あの時の約束がちゃんと守られるなら気にしませんよ。」

 学園での約束はドウやその仲間をハスキールの一味と一緒にしない事。

 「それは申し訳なかったわ。」

 ライラさんが謝るのはシオの事だろう。

 「それは本人に言ってあげて下さい。」

 「もう言ったわ。その上でトラ君にもお礼をしたいと考えているの。どう?領地は無理だけど騎士の爵位くらいならあげられるわよ?」

 「いえ、結構です。」

 面倒臭そうだし・・・。

 「イグ殿と同じで同じ場所に留まるつもりはないのかしら。」

 チビ姉ちゃんか師匠かどちらを指しているのかはわからないけれど答えは変わらない。

 「暫くは色々と見聞を広げる様にとの師匠からのお達しなので。」

 「そう・・・。もし留まる事に気が向いたら連絡を頂戴ね。」

 「はい。」

 国王のお墨付きをもらえたのは良い事かもしれないけれど、当分の間は国に仕えるなんて事をするつもりは無い。

 冒険者が性に合っていそうだというのもあるけど・・・。

 「となるとお礼はどうしようかしら。」

 「別に何も無くても良いのですけど。」

 「二度もそれが続くと国の代表としてのメンツがねぇ。」

 「ここに居る皆が黙っていればそれで良いのでは?」

 「内密に処理するといっても限度があります。特に今回は国内に知らしめる必要がありますので。」

 「そうですか・・・・。」

 「お金というのも味気ないし・・。」

 僕としてはお金で充分ありがたいのだけど、ライラさん的にはよろしく無いらしい。

 「少し考える時間をいただいたらよろしいのではないですか?」

 「そうね。トラ君それで良い?」

 「問題ありません。」

 別にもらわなくても良いのだから何時でも構わない。

 「じゃあお礼については一旦置いといて他の話しをしようかしら。」

 「どうぞ。」

 「まずは彼女達の事なのだけど。」

 そう言ってライラさんが三人娘に視線を向ける。

 「はい。これが契約書です。僕はよくわからないのでそちらで解除してもらえますか?」

 「そう。やっぱりトラ君は彼女達を手放すつもりなのね。」

 「元々そのつもりでしたから。場合に因っては連れて行くつもりでしたけど・・。」

 ドウの身元が僕の手におえない様だったら、彼女達に身の危険が迫る様なら連れて国をでるつもりだったけど、今となっては王城で過ごした方が彼女達んも良いと思う。

 「なら、こちらで手続きをしましょう。サツキお願いね。」

 「はい。」

 サツキさんの手元に契約書が渡る。

 「お金は後でお届けに上がります。」

 「用事は後二つなのだけど・・・。」

 「なんでしょう?」

 「まず聞きたいのが、トラ君はこの後どうするつもり?」

 「僕の予定ですか?」

 「そう。ここに留まってくれても嬉しいのだけど、そのつもりは無いのでしょう?」

 「はい。二・三日中には竜王国へ向かって旅立とうと思っています。その後は学園に戻る予定です。」

 それはさっきチビ姉ちゃんとも話した事。エルザ達が直に追いつかないと入ってもこの国がごたつくのなら早めに出ておいた方が良い。

 「三日か。思ったよりも早いわね。」

 「僕としては明日でも良かったのですけど、チビ姉ちゃんに引き止められまして。それに街の様子も見てみたいなと。」

 さすがに王都だけあって他の街と比べて規模も活気も良い。こちらには真っすぐ来てしまったけれど、時間があればジャニカさんのお店も覗いてみるつもりだ。

 「サツキ。」

 「はい。明日の夜でしたら。ゲルド達にはこちらから連絡しておきます。」

 「では、明日の夜に食事をしましょう。それまでにお礼についても考えておきますから。」

 「それは構いませんけど・・・。」

 二つの用事とやらは良かったのだろうか?

 「その時に改めてお願いごとをさせてもらうわ。」

 何やら僕に頼む事があるらしい。

 何だろう?

 「さて、それまでにやる事をやりますか。」

 そう言ってライラさんが席を立つ。話しは終わりの様だ。

 それにサツキさんの言う所では政務が押しているらしいので、無駄な問答は避けて部屋を後にする。僕が案内されたのはチビ姉ちゃんの隣の部屋。チビ姉ちゃんの部屋と同じ大きさだと思う。

 シオはドウの所に。イリアとノサキはサツキさんに連れられて行ってしまった。おそらく今後の相談だろう。

 いきなり暇になってしまった。出かけようにも夕食の準備ができたら呼んでくれるらしいので、時間が足りないし・・・。

 結局、刀の手入れをしておく事にした。あまりこまめにする必要はない。それは武器強化をした場合、その術を解いた時に同時に血や脂が落ちるからあまり必要ない為だけど、それでも強化に耐えられず武器が破損したりした場合はその限りではないので時折手入れえおする事は重要である。

 そうシスに教わったので一日一回はチェックすることにしている。

 「問題なさそうだな。」

 今、腰に佩いているのは水無月。タタラが六月に打った刀で、長さも僕好みだし斬れ味も悪く無い。鍔や鞘は凝った造りではないけれどその分普段使いにするにはちょうど良い。

 「タタラは元気かな?」

 ふとそんな事を思った。彼女は何処にも出かけずに鍛冶をしたいというので倉庫の素材は自由に使って良いと言っておいた。ルガードさんも出かける予定は無いと言っていたし帰った頃には新たな刀が出来上がっていることだろう。

 そう考えると学園に帰るのも楽しみだ。


コンコン

 学園の事を考えているとドアがノックされた。

 「はい。」

 「トラ。お風呂使えるって。」

 ドアの隙間から姿を見せたのはチビ姉ちゃん。

 「チビ姉ちゃんが案内してくれるの?」

 他に人の姿は無い。

 「もう慣れたもの。」

 数日前から居る様だし、そもそも転移でこちらに来ていたという事は以前にも来たことがあったはずなので驚きはしない。着替えについても用意してくれているという事なので、チビ姉ちゃんに案内されるがままに付いて行く。

 「ここ。」

 この城のお風呂は地下らしい。

 「ここは貸し切り。」

 なんでも王家用の風呂の一つであり、住み込みのメイドさんや兵士は別の大浴場。大臣達は城下町からの通いなのであとは来客用しか無いらしい。そちらのお風呂はドウ達が交代でしよう中とのこと。

 「ありがとう。」

 案内してくれたチビ姉ちゃんにお礼を言って中に入ると、早速服を脱いで風呂場へ。

 風呂は石造り。大きさは一人が大の字になると一杯になる程。洗い場も同じくらい。王族専用にしては小さいし地味な気がするけど、僕にとっては充分だ。

 宿には風呂が無い所も多いし、個人風呂だと五右衛門風呂の所もある。それに比べたら充分豪華で入りやすい。

 血や埃が気になるので洗ってから湯船に入る。

 「ふぅ〜。」

 温度は家の風呂よりは少しぬるい。長く入るには良いのだろう。それに緑色の袋が幾つも浮いている。

 「これはハーブかな?」

 ハーブ風呂は家で女性陣に人気だった。その為のお風呂だとしたら浴槽が小さめなのも納得である。

 「それは特別なブレンド。ハーブだけでなく各種薬草やちょっと毒草も入っている。」

 「毒草!?」

 「大量に食べなければ大丈夫。」

 「エバステル先生も毒草も使い方で薬になると言って致しなぁ・・・・。」

 「そういうこと。ちょっと詰めて。」

 「あぁ。ごめん。てか一緒に入るのね・・・。」

 普通に会話しながらチビ姉ちゃんが入って来た。勿論すっぽんぽんである。

 「いいでしょ?」

 「まぁいいけどさ。」

 露天風呂で何度か入っているし、話しによると僕が小さい頃に風呂に入れてくれた事もあるらしい。

 「今更恥ずかしくない。」

 マリアさんとの一件がバレて以来、たまにチビ姉ちゃんは僕の部屋に来て色々と恥ずかしい姿を見せてくれているので確かに今更なのだけど。

 「あの、チビ姉ちゃん?」

 「今はクーラでしょ。」

 確かに夜事の時はそう呼ぶ約束だけど、今は家ではないし他の人のお風呂だし・・・。

 僕の息子をいじるのを止めていただきたい。

 「お礼をもらうと言った。」

 「お礼ってそう言う事なの?」

 「いや?」

 そんな上目遣いで見ないで欲しい。

 「嫌じゃないけど・・・。」

 僕の言葉でクーラの目が閉じられ、その小さな唇が突き出される。

 彼女はいつもキスから始まる。

 今日もその決まりは守られるらしい。


 お風呂で三回戦を済ませ、(薬草の中には元気になる物がふんだんに含まれていたらしく、中々僕のが落ち着いてくれなかった為。)部屋に戻るとそう待たずに夕食の案内が来た。

 夕食にはドウやシオ達三人娘も居て、改めてお礼を言われたあとは旅の話しや学園での話しで盛り上がった。特に学園で話しに三人娘は興味津々で、僕だけでなくチビ姉ちゃんにも良く質問をしていたのが印象的だ。授業云々よりおいしい食べ物と色恋話なのが女の子らしいけど・・・。


 夕食後は各自部屋に戻り、僕は四回戦目。

 五回戦目で勘弁してもらったけれど、王城を発つまでは毎晩同じベッドで寝る約束をしたので、明日も下手したら明後日も搾り取られるのだろう。


 嫌じゃないけどね・・・・・・。





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