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ウィゴード国『北の町』

 まず目指すは通称「北の街」。


 ウィゴード国はお城のある通称「中央の街」の他に「北の町」「東の町」「南の街」の三都市があり、そのうち「北の町」と「南の街」の二都市から森を抜けた所に国境の街がある。唯一「東の町」は森を抜けた所にあるのはウィゴード国が縦長なせいだろう。ちなみに「西の街」がないのは、西には湖と山が広がっている為である。


 その「北の街」へは馬車で一日程の距離だ。本来徒歩である僕はそれ以上の日数がかかる予定だけれど、身体強化を施した体で走り続けた為、暗くなる前には着いた。強化を全力でする場合これほど持続する事はできないけれど、七割程であれば一日以上の強化には耐えられる。修行をした成果か、八割でもいけるかもしれない。


 辿り着いた北の町は南の街と同じ様な造りで、東の町の様な堅牢な城壁等は無く、中央の街の様に結界が張られているだけだ。おそらくこの先の国境の街は色々と備えられているのだと思う。

 まずは宿屋を捜す。大体の旅人や商人は国境の街で用事を済ませるため旅人向けの宿は少ないけれど数軒はある。大通りを通って最初に、目についた「霧避亭」宿屋に入ってみた。

 「いらっしゃい。飯かい?泊まりかい?」

 「はい。お風呂はありますか?」

 汗もかいたのでお風呂は入りたい。

 「あるよ。ただ個人風呂が欲しかったら中央にある「満下亭」ってところか娼館に行くしか無いね。どっちに行くにしてもうちよりは高いよ。」

 「問題ありません。一泊おいくらですか?」

 「一人なら個室と大部屋があるが今日は客も少ないし、銅貨一枚でいいよ。」

 随分と安いと思う。

 「わかりました。一泊お願いします。」

 銅貨を一枚カウンターに置く。

 「毎度。部屋は二階の端だ。」

 銅貨の代わりに置かれた鍵を受け取る。

 「出かける際は鍵を預けてくれ。荷物を置いて行くのは構わないが貴重品は自己管理だ。なるべく見張っておくが、責任は持てん。風呂はそこの扉から行ける。一晩中湧いているから何時でも入ってくれて構わないが、店が閉まった後は俺らも入るから一緒が嫌だったらその前に入りな。飯は店が閉まる前なら出せる。朝も夜もな。何か質問は?」

 おっちゃんが一気に説明して聞いてくる。

 「今はお客さんが少ない時期なのですか?」

 宿泊料金は安いし、宿も綺麗なのに客が少ないのは何故なのか気になったので聞いてみた。

 「この暑い中旅するのはそう多くはない。まぁこの国は夏でも比較的涼しいから避暑に来るのは居るが、そういうのは中央のもっと高い宿に行くからな。秋口には祭りがあるから人も増えるが、そもそも旅行客は南や東の街の方が多い。そんな訳で今の時期この街に旅人は少ない。それに、商人は国境の街で用事が終わるし、森の中まで来る人は多くない。」

 「やっぱりそうなのですか。」

 商人云々の話しは聞いていた通りだ。

 「あとは外からやって来る旅人はもっと北よりの宿に入る事が多いな。たまにこちらまで流れて来ても娼館に行きたがる連中はうちには泊まらんし・・・。坊主は南から来たみたいだから知っているだろ?」

 ウィゴード国では娼婦や娼館は認められているけれど、一定の場所で行う事が決めてられており、流しの人を宿に連れ込む様な事はできない。これはマリアさんが教えてくれた。

 「はい。東から入ってお城を見て次は獣王国に行くつもりです。夏休みを利用して色々見てみたくて。」

 「いいねぇ。俺も若い頃は旅をしたものだ。他の街を見てきたのならここ独特な物を見た方がいいな。といってもそんな物は一つしか無い。大聖堂だ。一見の価値があるから見てみな。」

 荷物を部屋に置いて鍵を返すと、おっちゃんの進めにしたがって大聖堂とやらに行ってみる。


 「聖堂と言うよりも墓地?」

 街の北東に作られた大聖堂は中央に聖堂が有り、その周りをお墓が囲っている。一応観光スポットらしく入り口横の小屋に説明書きがあった。

 『この聖堂と墓地は獣王国との戦争において時の王クログ・ウィゴードと共に戦った者達が眠る場所である。また、クログ王は彼等と共に眠る事を望み、王族として唯一この場所に眠っている。』

 聖堂にクログ王が眠り、仲間はその周りで眠っているらしい。小屋の横に居る少女から花を買い聖堂に供える。エミリアやマリアさんも時にこうして花を供えているのだろうか。そんな事を思いながら宿に戻った。


 他に客が少ないのは本当だったらしい。宿に併設されたお店には地元の人と思われる人達がテーブルに座っているだけで他に誰も居ない。

 「おう。おかえり。」

 どうやら厨房で腕を振るうのはおっちゃんらしく顔をのぞかせてくれた。

 「エールと何か二・三品お願いします。」

 「あいよ。」

 直にエールと煮豆が出て来た。

 「これでも摘んで待っていてくんな。」

 運んで来てくれたのは奥さんらしいが、おっちゃんと喋り方が似ている。似た物夫婦だ。

 他に出て来たのは鳥もも肉の鉄板焼き、野菜炒め、魚の揚げ物の三種類。それにエールを2杯で銅貨二枚。安すぎてこの宿の経営が不安になる程だ。

 料理の味はロクサーヌさんには劣るけど程々に美味しかった。それでも話し相手も喧噪も無い食事は久々で少し寂しかった。

 食事の後はお風呂へ。客が少ない為に大浴場は貸し切り状態。今日は一つしか湧かしていないけど、客が多い時は二つ湧かして男女分けるらしい。今日は男性客しかいないので一つで充分だ。

 ちなみに奥さんは一緒でも気にしないらしい・・・・。


 朝ご飯の注文と共に弁当を頼めないか聞いてみると、おっちゃんは快く承諾してくれた。

 食べ終わるまでに用意してくれた弁当の分もお金を払って宿を出る。

 安いので滞在するのには良いのだけど、いかんせん観光する場所が無い。それにウィゴード国には長く居たので獣王国に向かう事にしよう。


 


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