ウィゴード城『脱出?』
城に帰って来て三日目。まだ月も残り朝というには早い時間。部屋のベランダに出ると湖から出た霧が城を取り囲んでいた。今までこの時間に起きていた事は無かったので、今日たまたまなのか朝だからなのかはわからない。
「これで良いかな。」
鞄を一つ肩にかけ、机の上を確認する。
「まぁ大丈夫だよね。」
静かに扉を閉じるとベランダから飛ぶ。目標は庭に生えた木のうちの一本。
なるべく音を立てない様に着地して木を降りる。
「じゃあ行きますか。」
脱出である。
正直言うと城での暮らしとかにも飽きたし、好きに行動したいと思ったので一人旅をする事にした。他の皆には悪い気もしたけれど、皆それなりに楽しそうだったのでそれほど罪悪感は無い。城に帰る前に決めていた事だけど、昨夜はマリアさんが尋ねて来ていたので今日になった。
置き手紙には二週間後くらいに竜王国のキティーで待ち合わせようとかいてある。キティーは元々行く予定の街だったので迷う事も無いはずだ。
また、夏休み中に学園に帰る事は既に諦めているので問題ない。そもそも僕達が立てた予定ではミスティ共和国による予定も無かったし、ウィゴード国での滞在がこれほどの時間になるとは思っていなかったので、後期授業には間に合わない旨チビ姉ちゃんを通して知らせて了解を得ている。単位が貰えるかは先生次第になるけど・・・。
気配を探りながら門まで辿り着いた。さすがに門番を倒して出る気は起きないので堂々と出て行くつもりだ。
「おはようございます。」
「おはよう。今日は随分と早いな。」
城にいる時は時折朝の鍛錬がてら走っていたのでそれほど不信に思われていないと思う。
「ええ。いつもとは違う事をしようかと思いまして。」
鞄を揺すってみせる。
「そうか。気を付けてな。」
門番と軽く会釈をして城を出る。まずは北に向かう予定だ。そのまま北上し続ければ獣王国を抜けて竜王国に辿り着く。
徒歩で二週間というのは厳しいかもしれないけれど、何とかなるだろうとも思っている。最悪二週間後に着かなかったら皆には先に帰っておく様にも手紙に書いておいたので問題ないだろう。
「おはー。」
街を抜ける前に声をかけられた。霧と魔導ランプの明かりに気を取られて気付かなかった。
「おはよう・・。」
その声は聞き間違えようも無く、チビ姉ちゃんだ。
「別に止めない。ただこれだけ預けておく。」
渡されたのは二通の手紙と宝石。
「止めないの?」
素直に受け取りながらチビ姉ちゃんに尋ねる。
「こっそり抜け出すなんて師匠っぽいし問題ない。この手紙はもし獣王国で助けが必要なら使う事。こっちは竜王国で必要なとき。」
「これは?」
「それは新しい研究成果。まだ実験段階だけどこれと少し会話ができる。」
チビ姉ちゃんが懐から出したのは同じ様な宝石。
「一日一回寝る前に連絡する。」
「忘れないように気をつけます。」
「よろしい。トラの実力なら問題ないとは思うけれど気をつけて。」
「ありがとう。」
「いってらっしゃい。」
霧の中チビ姉ちゃんに見送られて街を出る。
「いってきます。」
しばらくすると霧に覆われチビ姉ちゃんの姿は見えなくなった・・・。




