ウィゴード国一日目。
街道を行く馬車は一台。
チビ姉ちゃん、ヴィーダさんとその彼氏が居なくなったため、エミリアの馬車一台に皆乗って居る。
ヴィーダさんは無事結婚の許しを得る事ができ、暫くこの街で過ごした後、ヴィーダさんの実家に結婚の報告をするようなのでここで一旦お別れとなった為だ。サキュバスの一族は特に親の許しを受ける様な事はしないそうだけど、彼氏さんがヴィーダさんのご両親にちゃんと挨拶をしたいらしい。
チビ姉ちゃんはリエールさんに手紙を届けた後、直接ウィゴード国に向かうことになっている。ウィゴート国には行った事があるそうなので、転移を使えるチビ姉ちゃんの方が先についているだろう。
ウィゴード国までは馬車で十数日の予定だけど、二日に一度程は村が在るので毎日野宿という事態は避けられる。もっとも野宿と言ってもテントを張る訳ではなく、馬車の中で寝泊まりができ、その上クッションや布団が幾つもあるので下手な村の宿よりも快適だ。
そう幾つものクッションや布団を持ち込めたのには訳がある。
その訳とはチビ姉ちゃん作成の新型マジックバッグだ。バッグと言っても名前だけで実際は馬車に備え付けられた蓋付きの箱で、馬車の内装に会う様に多少装飾が施されている。この箱はエミリアの所で使っていた魔法陣を応用した物で、空気中に薄く漂う魔力や個人が漏らしている魔力を馬車内限定で吸い込み利用する為、通常のマジックバッグよりも容量が大きい。もっとも魔法陣の縮小が追いついていないため、持ち歩く事はできずに馬車に据え置きとなったのだけど、大活躍している。
勿論、皆の認識をさせてある。皆とは僕、チビ姉ちゃん、エルザ、エミリア、マリアさん、ロクサーヌさん、セシリアだ。6人を超えて契約ができる事にも驚いたけれど、そもそもマジックバッグの制作をチビ姉ちゃんができる事に驚いた。
6人以上の契約は初期設定で指定できるそうで、そう難しい事ではないらしい。今の所最大人数は13人らしい。またマジックバッグの制作はチビ姉ちゃんの収入源、しいては師匠の収入源らしく、ジャミン先生はクーラ・イグの名前を聞いてうちの門前まで弟子入りしに来ていた。すげなく断られていたけど・・・・。
5日目にウィゴード国へ足を踏み入れた。
国境の町は他の街道からの人も多く賑わっており、その賑わいと共に混んでいた入国審査がエミリアのおかげでパスできたのは喜ばしい。
街道を逸れる事で審査を逃れる事ができそうな気がしたけれど、次の町を越えると獣や魔獣が済む森ばかりで馬車が越えられる道は他になく、結局次の町で審査を受ける事になるらしい。
国境の町で二日ばかり過ごす。いくら快適な馬車といえども何日もお風呂に入れなかったのは特に女性陣にはストレスになっていたので休憩を取る事にした為だ。特に宿を取る必要も無く町にある執政官の館に逗留を進められ、暇な時間は色々と町を見て過ごすことにした。
ちなみにエミリアとマリアさんは色々と歓待や面会があって忙しそうである。
そんな二人とは別行動で僕達は今街を散策している。
「以外と獣族もいるのね。」
エルザの言う通りに獣耳や尻尾がある人も多い。
「確かに。それに獣族だけでなく色々な種族の人が居るみたいだ。」
さすがに竜族は居ないようだけど竜人は数人見かけたし、エルフやドワーフ、小人族と言った人も居る。一番多いのは人族の様だけど、鱗を持った人や羽を持った人、髪の毛の代わりに葉が生えている人など様々な人が居る。
「学園と同じかそれ以上に交流があるのね。」
「食材の種類も豊富です。」
ロクサーヌさんには食材の補充をお願いしているので、色々とお店を覗いてそう思ったらしい。
(色々と買い込んでいるようだけど、食べきれるのかな?マジックバッグのおかげで腐らないからいいのだけどさ・・。)
現在、元々持っていたマジックバッグの中身はほとんどが食材と思われる。何処かへ行く度に補充しているし、狩りで得た肉や野草のたぐいも全て入れてあるからだ。さすがに水を入れると容量を超えてしまうので、水は馬車の方にいくらか入れてあるのと、普段はエミリアの魔法で出してもらっている。
「街道だけでなく街の横には川も流れているので、海から船が上がって来ているようです。ただ国を守ると言う観点からすると弱そうですが・・。」
「国の防御という観点からすると次の街が鍵なのかもね。この街は交易の街として発展していそうだし。」
セシリアは街の防衛に興味がある様だ。
「帰ったらエミリアに聞いてみようか。」
夜エミリアに聞いたところ、やはり防御の要は次の街であり、この街は交易に特化した街なのでいざというときは街を放棄するらしい。
そもそもカイゼルさんの時代になってから作られた街でもあるので街としては新しい方なのだそうだ。カイゼルさんは各国との交流と貿易を押し進めて来た為に、このような街が国の森を出た場所、三カ所にあり、交易に関して税をかける事もしていないと言うからその本気度がうかがわれる。
「次の街ではこことの違いに驚くと思いますよ。」




