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学園都市にて。「反省?」7月9日。

 今日から授業がまた始まる。まずは歴史学だ。

 といっても今までと変わる事は特にない。あえていうならライラさん達との会食において、教わった事が役に立ったと言った所、妙に校長先生が喜んだくらいだ。

 帰っても珍しく誰も居ないし街をブラブラ巡って時間を潰す事にした。

 広場の屋台群の臭いにはついつい引き寄せられそうになるけど一・二品くらいで止めておく。あまり食べ過ぎて夜の会食が食べられない事かないようにしないといけない。ネカ校の方へ行くと小店舗群が増える。学生がやっている店も多いので小さいのだろう。値段も手頃だし色々なお店があるので見ていて楽しい。

 「あれ?」

 以前見た店が無くなっている。

 「というか空き店舗が増えている?」

 歩いていると虫食いの様に空き店舗が現れる。覚えている限りでは商売の種類に偏りもなさそうだ。

 そんな事を考えていると道の終着点であるネカ校まで来てしまった。

 「なんでだろう。生徒だからうまく商売ができないとか?」

 少し高くなった校門から街を見下ろす。

 「そうですね。特に実家がお金を出して始める生徒に多いのは、やはり商売に対して甘い気持ちがあるのでしょう。」

 「えっ?」

 返事があるとは思わなかったので驚いて振り向くと一人の男性が立っていた。

 「本日はコーザ先生に御用でしょうか?」

 いつぞやの事務員さんだ。

 「良く僕を覚えていますね。」

 来たのは二・三回だけなのに。

 「商人は相手の顔を覚えておくものです。」

 前に店員の様だと思ったのは、あながち間違いじゃないのかもしれない。

 「そうですか。今日は特に先生に用事という訳じゃありません。校門に立っていたから誤解させてしまった様ですいません。ただ、散歩がてら歩いていたら空き店舗が増えていたので気になりましてついついここで考えてしまいました。」

 「いえいえ。謝られる様な事ではありません。私こそ早とちりをしてしまった様で。」

 お互いに謝っているのもおかしな光景だ。話しを戻す事にする。

 「それで、実家がお金を出してということはそうでない生徒も?」

 「えぇ。あまり多くはないですが。多かれ少なかれ実家から持ち出す方が多いですね。」

 「商人の子ならある程度できそうなものですけど・・。」

 「ふむ。少しお時間はおありですかな?」

 「はい。」

 約束の時間までまだ大分ある。

 「ではこちらにどうぞ。」

 そう言って案内されたのは校門横にある事務所の奥、ソファーと机があるだけの簡素な部屋だった。

 「改めまして、ネカ校の事務を勤めさせてもらっているサスバと申します。」

 「キクノ校一回生のトラ・イグです。よろしくお願いします。」

 ソファーに座って軽く頭を下げる。

 「こちらこそよろしくお願いします。トラさんとお呼びしても?」

 「はい。」

 「トラさん。先程のお話の続きですが、そもそも当校には商人の子だけが来ている訳ではないのですよ。知りませんでしたか?」

 言われて見れば以前護身術の授業に行った時にも色々といた気がする。

 「貴族の子とかでしたっけ?」

 「えぇ。それに少し裕福な家庭や豪農、少数ですが一般試験をクリアして入学して来た子も居ます。」

 「少数なのですか?」 

 「はい。一般試験を受けて入る子は武を志すならガーツ校、魔法を使えるならテレス校、キクノ校を覗いた他の校舎は各種族が多いですね。商人でもないのに当校に来る子はそう多くはありません。」

 「お金が無いから?」

 「そうでしょうね。お金が無い為に少しでも良い所へ就職したいとなると騎士や魔法師になるのが良いですから。」

 それでも稼げる様になったらお金についても学んだ方が良いとは思うけど・・。

 そんな思いはお見通しらしい。

 「なかなか稼げる様になった後については考えない物です。それに当校は色々と面倒な事もありますし・・・。」

 サスバさんの話しでは、有力商人の子や貴族の子が作った派閥などがあって中々に面倒そうだ。それでもそこでの経験が大人になった時にも使えないという事は無いので学校としては基本的に不干渉らしい。

 ネカ校では二回生から実習として自分で店舗を持つ事ができ、その売り上げ等によって単位がもらえるため自信のある生徒は店を構えるのだけれども、早々にダメになってしまう生徒も多いのだとか。特に夏休み前にダメだと思う生徒は諦めるために歯抜けのようにちょこちょこ空き店舗ができているらしい。

 「それでも今の時期に諦めて損を最小限に収めている生徒はまだ見込みがあるのですよ。」

 戦略を練り直して再びチャレンジする生徒も侭居るらしい。逆に一番いけないのは諦めきれず実家からの仕送りだけで店舗を継続して行く生徒で、勿論そのような場合には単位を貰えない。

 「よくわかりました。ついでと言っては何ですがもう一つお尋ねしてもよろしいですか?」

 「どうぞ。なんでしょう?」

 「その授業以外で生徒が店舗を持つ事はできないのですか?」

 「いえ、申請して許可を得れば可能ですよ。トラさんはお店をやってみたいのですか?」

 「そういうわけではないのですが、例えば冒険者を目指す生徒が自ら得た物を売る店とか、それこそ個人ではなくグループ単位で店舗を構えるのもありなのかなと。」

 「あぁ。うちの授業でも個人単位でなくても大丈夫ですよ。しかし冒険者が得た物を売るとなると常時開けておける訳でもないのでなかなか厳しいのでは無いでしょうかね。」

 確かに開けてないときの家賃とかももったいない。

 「露天と言った形はダメですか?屋台とかもあるようですし・・。」

 「今の所、屋台は飲食店のみですね。ああ見えて場所ごとに許可がいるのですよ。それに露天をやるにはスペースが足りていません。面白いとは思うのですけどね・・。」

 「そうですか。」

 所詮素人の浅知恵だったらしい。

 「色々とお話をして下さりありがとうございました。」

 「いえいえ。昔取った杵柄というか、たまに学生の方に色々と教えたくなるのですよ。こうみえてもネカ校で授業をしていた事もあったので。」

 今は引退して授業はせずに門番の様な事をしているらしい。

 「また何かあったら尋ねて来て下さい。」

 優しい言葉に見送られてネカ校を後にした。

 


 カイゼルさんに指定されたお店はエミリアの寮からそう遠くない場所にあった。表通りには入り口は無く一本裏手から入る為少し迷ったけれど、時間には余裕を持って付けたので良かった。

 「いらっしゃいませ。お待ち合わせでしょうか?」

 店舗には受付が有り、店員の服装といい高級店なのだと思う。普通の輻輳できてしまって大丈夫だろうか・・。

 「はい。ウィゴード様と約束をしています。トラ・イグです。」

 「はい。お話はうかがっております。こちらへどうぞ。」

 二階の部屋へと案内された。

 「どうぞ。」

 引いてくれた椅子に座る。

 「ウィゴード様も間もなくいらっしゃると思います。お飲物は何に致しましょうか?」

 「来てからでもいいですか?」

 先に一人で飲んでいる気になれない。

 「承りました。」

 「あの。」

 部屋を出て行く店員さんを引き止める。

 「はい。如何致しましたか?」

 「この服装でも大丈夫ですか?」 

 一番気になっていた事を聞く。こんな高級店だとは思わず半袖シャツにズボンという至って普通の夏の服装だ。

 「本日は身内だけのお食事とうかがっておりますので問題ないかと存じます。」

 「そうですか・・・。」

 店員さんが去った後も慣れない雰囲気に耐えて待っているとカイゼルさんがやって来た。

 「待たせてしまった様ですまないね。」

 「いえ。僕こそ空気を読まなかった様で・・。」 

 「いや、今日は他に客が来る訳でもないので楽な格好が一番だ。」

 そう言うカイゼルさんはバッチシきめているけど・・・・・。

 「これはちょっと前に人と会っていたのでね。」

 僕の目が物を言っていたらしくカイゼルさんが説明してくれた。

 その後カイゼルさんが頼んでくれていたワインで乾杯する。一口飲んで少し落ち着いた時に再びカイゼルさんが口を開いた。

 「さて、早速だけど話しをしようか。エミリア達が来る前にね。」

 そう言ってカイゼルさんはもう一口ワインを口に含む。

 「今日トラ君に来てもらったのはお願いがあってのことだ。」

 「お願いですか?」

 「ああ。勿論断ってもらっても構わない。」

 「何でしょう?」

 エミリアとは仲間だし、カイゼルさんにも良くしてもらっているのでできる事ならやるつもりではある。マリアさんとの関係もあるし・・・。

 「トラ君の庭の片隅にでもエミリアの住まいを造らせて欲しい。」

 「もしかして小屋の代わりですか?」

 チビ姉ちゃんの手紙が僕次第と言っていたのはこういうことか。

 「それもあるが、今回の事件があった事により寮に居る他の生徒が不安がっている様なのでな。もう無いとは思うが生徒達の不安ももっともなので無下に扱う訳にもいかんだろう。」

 「一応空き部屋もありますけど・・。」

 「ふむ。それも良いか・・。」

 でも一国のお姫様が小部屋というわけにはいかないのかな? 

 「トラ君の所の魔力タンクに余裕はどれくらいある?」

 「あー。わかりません。」

 考えても無かったけど、魔力タンクと接続するなら容量に余裕が必要か。そうなると,

どちらにしろ新しく作るなら家ごと立てた方が早いか・・。

 「まぁあまり大きな物でなければ作ってもらってもかまいません。」

 「おお。それはありがたい。勿論賃料は支払うし、邪魔にならぬ様にする。その他の条項についても今ある程度あげたいのだ。こう見えても中々忙しく、三日後にはここを離れねばならないのでな。」

 と言っても細かい賃料などは相場からわからないし、チビ姉ちゃんの設計もあるのでセバスさんに丸投げだ。カイゼルさんの方もマリアさんに全権を移譲して決めることになった。

 なので決まったのはたった四点だけ。

 ・大家といえどもエミリアの部屋に入り込まない事。

 ・男性はカイゼルさんが決めた男(今の所カイゼルさん・僕)しか家に入れない事。

 ・家を立てる費用はカイゼルさんもちだということ。

 ・エミリア卒業後、家は僕の物となる代わりに解体等はしないこと。

 特に最初に二点は絶対に譲らないらしく、「破った場合は我が国を敵に回すと思え」とまでいわれた。男親の心情なのだろうか・・?

 会食はエミリア・マリアさん・エルザ・ロクサーヌさん・チビ姉ちゃん・セシリアさん。それにタタラとオルカも呼ばれており、僕とカイゼルさん以外は皆女性だった。そもそも僕の周りに男は少ない事に気付いた。ただそちらの方がカイゼルさんとしては安心らしい。

 料理はウィゴード国の伝統料理らしい。といっても一々料理の説明があるわけでもなく、大体は楽しく食べることができたと思う。最後に酔ったカイゼルさんが僕とマリアさんの関係を突っ込まなければ最後まで楽しかったと言えるのに・・。



 そんなわけで何故か今、僕は家の居間に正座しています。

 椅子の上にはセシリアさんを覗く女性陣。カイゼルさんはエミリアに怒られた後、逃げる様に帰った。

 「エミリアは知っていたのよね?」

 口火を切ったのはエルザ。

 「えぇ。同意の上のようですし、問題ないと思います。」

 「トラが無理矢理という訳ではないと。」

 「はい。私からお願いしました。」

 マリアさん本人も椅子に座っている。

 「私としては何故私も相手にしてくれないのかが不満だな。」

 「同意。」

 オルカとチビ姉ちゃんの意見は意味不明だ。

 「本人同士が良いのなら周りがとやかく言う事無いのでは?」

 エミリアとロクサーヌさんは特に口出ししない立場のようだ。

 僕もそう思います。

 エルザによって正座させられているのも納得はいってない。ただ恐いので逆らう気もしていないけど。

 「でも学生の身で子供でもできちゃったら・・。」

 そう言うエルザの顔は赤い。お酒の所為ではなく恥ずかしがっている為だけど、恥ずかしいのならわざわざ話題にしなくても良いのに・・・。

 「問題ありません。」

 「結婚するつもり?」

 マリアさんの即答にエルザが聞いて来た。

 「いえ、するつもりはありません。」

 エルザに答えたのは僕ではなくまたもマリアさん。

 「無責任よ!」

 まぁそうだろう。でも結婚かぁ・・。

 「あの。」

 「トラは黙っていて。」

 「トラ様は黙っていて下さい。」

 「トラ。黙る。」

 エルザ・マリアさん・チビ姉ちゃんに最後まで喋らせてもらえなかった。僕に発言権は無いらしい。その様子をオルカはニヤニヤと楽しそうにお酒片手に眺めており、エミリアはあきれ顔だ。ロクサーヌさんはオルカ程ではないけれど楽しそうである。

 その後も話し合いはオルカの酒が一本空き、ロクサーヌさんのツマミと共にエミリアも酒を口にし始め、最後に皆で酒盛りになるまで終わらなかった。


 僕?

 勿論、最後まで正座である。



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