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夜行にて。

 音といえば、時折獣の鳴き声や前方の三人の声が聞こえるくらいでいたって静かに森を抜け、道と小川が近づいた所で馬車が止まった。

 馬車から降りて周りを眺める。月は雲に隠れているけれども見晴らしも良いし襲撃は防げるだろう。

 「軽く食って交代で休憩な。日が昇る前に出て一気にキクノまで行くってさ。」

 前に居た三人で話して決めたらしい。問題は無いので反対はしない。馬に水を飲ませている間に火や食事、テントの準備ができていた。テントは一つだけある所をみるとお嬢様用か。火があれば寒い事も無いので野宿でも問題は無い。

 「先に休んでも良いか?」

 火の側に座ると早速冒険者のゴルラのおっさんに聞かれた。その顔はニヤついている。

 「かまいません。」

 「へへっ、悪いな。」

 食事もそこそこに席を立つと、ヴィーダさんを引き寄せる。立ち上がってこちらを見るヴィーダさん。雰囲気は先程と変わり随分と色っぽい。

 「順番にな。」

 ゴルラのおっさんはそう言うとヴィーダさんの肩を抱いて二人でテントへと歩いていく。

 本人は嬉しそうなので放っておくべきかとも思ったけれども一言釘を刺しておく。

 「明日に響かない様にお願いします。」

 ヴィーダさんの片眉があがり。妖艶に微笑む。

 「お前の分も取っといてやるよ。」

 何も分ってないのは下品に笑うゴルラのおっさんだけだった。


 二人がテントに消え食事に戻る。炙った干し肉と少し古くなった野菜のスープだけれども。

 「美味しい。」

 商人の所で食べていたのとメニューは違わないのに味は段違いだ。

 「ありがとうございます。」

 メイドさんが開いた器にスープをよそってくれる。どうやらメイドさんが作ったらしい。

 「さて。」

 僕の食事が終わるのを見計らって初老の男がこちらに向き合う。

 「トラ様には我らを救っていただいて感謝しております。」

 男が頭を下げるのにあわせて他の二人の頭を下げる。

 「いえ、おいしい食事をいただけて僕も良かったです。」

 「少々年寄りのおしゃべりに付合ってもらってもかまいませんか?」

 「どうぞ。僕も少し話したかったので。」

 夜はまだ長く、疲れもそんなに無い。聞きたい事は聞いてもらった方が良いだろう。

 「まず幾つか確認したい事があるのですが、」

 「ウェルキン!恩人を信じないのですか。」

 エミリアの声が質問を封じる。

 「いえ、僕も聞きたい事がありますし一つ聞かれたら一つ聞き返すと言うのはどうですか?」

 「しかし・・。」

 「もちろん答えたくない事は答えないと言う事で。」

 「トラ様がそうおっしゃるのでしたら。」

 エミリアが渋々と納得する。

 「申し訳ございません。」

 「当然の事だと思います。」

 主が何を言おうとも、その身を守る為に情報を集めておくのは悪い事じゃないし、一本筋が通っているプロフェッショナルは信じられる。

 「じゃあまずは僕から聞きますね。」

 「どうぞ。」

 気にしてない事をアピールする為にも自分から話す。

 「お嬢様はエミリア様。女騎士さんはヴィーダさん。御者さんはウェルキンさん。さて侍女さんのお名前は?」

 「マリアでございます。ちなみにウェルキンは当家で執事を努めております。」

 間髪入れずにメイドさんが答える。

 「執事さんでしたか。さて、次はそちらの番です。」

 少し考える様にしてウェルキンさんが口を開く。

 「我らの事を何時から知っておられましたか。」

 ウィルキンさんの頭の中では大きな誤解がある様だ。

 「まぁヴィーダさんは魅了チャーム使って来ましたし、おっさんがああなったら大体想像付きます。それに獣族の襲撃ですから。」

 「チャームを防いだのは知っていたからと。」

 「まぁそんなものです。あとはマリアさんの治療術やウィルキンさんの結界術にも特色がありますから。」

 「なんと、我らが自らばらしていたと言う事ですか。」

 大きくため息を吐くウィルキンさん。だけどそれほど隠す意図は無い様に見受けられた。

 「えぇ、なのでそろそろ警戒を解いてくれませんか?」

 マリアさんに言葉をかける。

 「ばれておりましたか。」

 それでようやく服の下に隠したナイフから手を離してくれる。エミリア孃は気付いていなかったようでマリアさんと僕の顔を見て目を丸くしていた。

 「私達の敵う相手ではない様です。」

 マリアさんの評価に更に驚きを露にする。

 「そんなことはないと思いますけどね・・。」

 術を知っていたからと言って破れるとは限らないし、武器を持っていたのがわかっても防げるとは限らない。まぁ警戒を解いて来るなら黙っておくけれど。

 「トラ様からございませんか?」

 律儀に順番を待ってくれたらしい。

 「そうですね。質問というかお願いですけど、おっさんはキクノに付いたら解放してあげられませんか?家族も居るみたいだし。」

 このまま腎虚で死亡とか不憫だ。主に残される家族が。

 「えぇ、そのつもりです。」

 ならばおっさんに取っては良い思い出になるだろう。

 「そろそろ最後にしますか。」

 枝を追加しない焚火が小さくなってきた。

 「トラ様はキクノに行く所だったとうかがいましたが、やはり学園に?。」

 冒険者のおっさんから聞いていたのだろう。

 「はい。エミリア様もそうお見かけしますが、」

 「我らもお嬢様の入学を予定しておりますが、トラ様は何処に在籍のご予定でしょうか。」

 「いえ、特には。」

 三人に不思議な顔をされた。

 「一般入学希望でしょうか?その方達は入ってから選ぶと聞きましたけれど。」

 「しかし、その場合入学金や時期が・・。それにある程度希望を持っているものですし。」

 エミリア様の質問にマリアさんが答えているけれど、暗に金を持ってないと言われている気がするのは気のせいだろうか。

 まぁ金はあんまりないけど全くない訳でもない。確かにちょっとだけど・・。

 「よかったら色々教えてくれませんか。師匠にいきなり行って来いと言われただけでよくわかっていないので。」

 あの日いきなり学園都市に行けと師匠に言われた。一つの修行だそうだ。蹴り出される様に出発し、旅費を稼ぐ為に少しだけ冒険者家業をして来たけれども肝心の学園都市に付いてあまり知らないことに今更気付かされた。行ってしまえばば何とかなると思っていたけれど、今の口調からするとそんなに甘いものではないのかもしれない。

 「そうですね。向こうも済んだ様ですし、進みながらお話ししましょう。」

 テントからふらふらとおっさんが出て来て馬車に乗り込むと直に寝てしまった。捕まえた男の横で・・。

 ツヤツヤとしたヴィーダさんが手綱を取り一行は夜道を行く。


 夜の闇を恐れる必要は無い。


 月と星の家紋を抱く彼等は夜の一族。


 夜の魔王ヴァンパイアロードの系譜。


 夜こそが彼等のフィールドなのだから。


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