表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/64

学園都市にて。「大会五日目、Action<エルザ、ロクサーヌ、エミリア、クーラ>」。7月5日。

<エルザ>


 今回は特別だ。

 あまりお婆様に町中で飛ぶなと言われているけれども、今回ばかりは許してくれるでしょう。

 本当はトラと行きたかったけど、そのトラの頼みなのだからしょうがない。

 それにブレンス校からでも空を飛べば直にエミリアの寮へ行ける。

 私には距離が近すぎるからあまり速度は出せないけれど、それでもすぐだ。

 ただエミリアの寮には何度か行ったけど、私が元の姿になる程の大きさは無かったから、帰りは歩きになるだろう。決勝には間に合うだろうか。

 そんな事を考えている間にもエミリアの寮が大きくなってきた。

 「見えたわ。」

 クーラさんに合図すると直に彼女は飛び降りた。

 トラの姉弟子だと言う彼女はおそらく魔族なのだと思う。風貌とあの魔力量からして間違いないだろう。魔族であるクーラさんは本来空は飛べないはずだ。でも心配はしていない。

 彼女はトラの姉弟子。

 どうせ心配するだけ無駄なほどの規格外なのだろうから。

 ほら、ゆっくりと屋根へと降り立った。

 打ち合わせ通り私も屋根へと降りる。なるべく音を立てない様に気を付けなければ・・。


 あとは敵が来るのを待つだけ。

 後ろでぶつぶつとクーラさんが何かを呟いているのは呪文だろうか。いや、何か文句を言っている様だ。恐いので、話しかけられない。


 あぁもう早く敵が来て欲しいわね・・・・・。

 



<ロクサーヌ>


 小走りに、けれど人の注目を浴びない様に。

 そのような訓練をしているのか、セリシアさんは急いだ様子を見せずに人の間をすいすいと抜けて行きます。それなのに結構早くて私は小走りになってしまいます。それとセリシアさんの後を付いているはずなのに人に当るのは何故でしょう。

 段々と人通りは少なくなり、辿り着いたのは護衛が立ち並ぶ廊下。先に着いたセリシアさんが一番手前に立つ男の人と話しをしています。

 「彼女です。」

 「タグを。」

 追いついた所でこちらを見てタグを求められました。タグとは学生証のことでしょう。

 急いで胸元からタグを出し渡します。

 「どうぞ。」

 そう言って差し出すと、男性はタグを受け取り廊下の奥へと行ってしまいました。

 「運が良かった。あの人はガーツ校で細剣を教えている。」

 セリシアさんが腰に佩いた細見を軽く叩きます。たぶんあの先生に教わっているのでしょう。

 待たされる事数分。

 廊下の奥からリエール様がいらっしゃいました。ジーノ先生も一緒です。

 「ロクサーヌ何がありましたか?」

 私の名前が出たのでリエール様が先生を連れて来てくれたようです。

 リエール様とお話しするのは少し緊張しますけど、簡潔にトラ君が聞き出した事をお話しします。勿論大きな声で話す事は出来ません。

 「わかった。少し待て。」

 リエール様が戻って行きます。お話を信じていただけたのでしょうか。

 信用していただけたのでしょう。少ししてリエールさんが獣族の女性と肌が白い男性を連れて戻って来てくださいました。おそらく獣王のライラ・グエンコフ様とエミリアさんのお父様であるカイゼル・ウィゴード様でしょう。さらにお二人程後ろにいらっしゃいますけど誰かはわかりません。

 「こちらへ。」

 リエール様の案内で移動します。移動した先は、廊下を少し戻った所にある小部屋で、中には椅子やソファーと小机があります。

 「見張りを。誰も近づかせない様に。」

 後ろから来ていたお二人は指示を受けて廊下に留まり部屋には入って来ませんでした。あとから聞いた所お二人はグエンコフ様とウィゴート様の部下だそうです。

 リエール様が最奥の椅子に座り、その前に置かれた小机の両隣にお二人が座りました。

 「三人も座ってくれ。」

 リエール様にそう言われましたけど、セリシアさんも私も立ったままで話すつもりです。

 「二人共、座りましょう。」

 さらにジーノ先生にも進められて私が椅子に座わっても、セリシアさんは座らないようです。

 「問答する時間が惜しい座れ。」

 リエール様の命を受けてようやくセリシアさんも座りましす。

 「さてもう一度になるが一から二人にも話してやってくれ。」

 そう言われて、オレイさんから聞いた話し、トラさん達がしている行動を、途中、質問される事も無く最後まで一気に話しました。

 「最後にトラ君は捕まえるつもりだそうですが、その後はどうしたらいいかリエール様の指示が欲しいと言っていました。」

 「捕まえる。そう言ったのだな?」

 リエール様が確認をしてきます。

 「はい。クーラさんはご不満の様でしたけど、なんでも殺しても負けだとか。」

 「わかった。話しを聞いて二人はどう考える?」

 「その話しが本当なら私が動くのはまずいでしょうな。それにトラ殿達が動いているのなら、娘の安全は守られると信じています。」

 ウィゴート様とトラ君は面識があるようです。

 「そのオレイと言う獣人は、確かに白虎の特徴を持っていたのですね?」

 「はい。」

 「知っておるのか?」

 「名前だけは。ティックス家の名前も出て来るのなら本物でしょう。少しお待ち下さい。」

 そう言ってグエンコフ様が部屋を出て行き、直に戻って来ました。

 「ティックス家の三男がハスキールという名で、この学園に来ているそうです。」

 「儂が動こう。ロクサーヌは控え室で連絡を待て。トラから連絡があった場合は直に知らせてくれ。」

 「わかりました。」

 直に動いてもらえないのは悔しいですけど、国の代表たる御三方は一つの情報で直には動けないのでしょう。リエールさんに言われた通りにセシリアさんと控え室に戻ります。

 戻っても特に出来る事はありません。

 せめて皆の無事を祈ります。


 皆が怪我をしません様に・・・・。



 

<エミリア>


 時計を見ると三時五十分。

 「そろそろ決勝戦でしょうか。」

 「そうかも知れません。」

 マリアも壁にかかった時計を見て同意してくれます。

 「マリアは見に行っても良いのですよ。」

 マリアも試合を・・。いえ、試合というよりはトラ様に会いたいでしょうに。

 「いえ、ヴィーダも居ない事ですし、お嬢様を一人にする訳には行きませんから。」

 「もう、子供じゃないのに。」

  そうは言っても、自分の能力を制御できないのは子供なのかもしれませんね。

  新月から二日。大丈夫だとは思うけど、万が一大会の様な大人数の所でエナジードレインを解放してしまった場合余計な軋轢が生じるでしょう。ただ得さえ私達は誤解を受けやすいのだから、リスクは少なくしないと。

 特にトラ様のアイディアだというこの魔法陣と、マリアの様に魔力が多い人が居てくれるだけで、万が一ここでエナジードレインを解放してしまっても被害は軽微でしょうから私も動く訳にはいけません。そう考えると益々マリアには感謝しないといけないですね。

 「完全に押さえられる様になるのかしら・・。」

 ヴァンパイアに生まれた事は嫌ではないけれど、こうして月に何日も閉じこもっているとこの能力だけは嫌になります。

 「クログ様はあえて押さえておかなかった様ですが、制御自体はできたようですし、トラ様の仮説が実証されれば更に早く可能になるかと思います。」

 「そうしたら色々な所へと行ってみたいですね。」

 今まではお城くらいしか知りませんでしたけど、この学園に来てからは知らない事や楽しい事が沢山ありました。もし心配が無くなるのでしたら、さらに色々なものを見てみたいものです。

 「その時は皆さんをお誘いしましょう。」

 「そうですね。」

 会話が切れると私は読書、マリアは縫い物に戻ります。こうしてぽつぽつと話すのも悪くはないのですけどね・・・。

 「ッ。」

 「お嬢様は動きません様に。」

 マリアにも聞こえたようです。確かに何かが倒れる音がしました。それに足音が近寄って来る気がします。それも複数。

 「獣族です。それもかなり多い。」

 何時まで彼等は戦いをするのでしょうか。

 「結界を起動します。」

 このような場合に備えて、この小屋にも小型ですけど結界を備え付けてあります。一度起動したら再起動は出来ない使い捨てですけど時間稼ぎにはなるでしょう。

 「エミリア・ウィゴード!。我らが必要なのはお前の命一つ。十数えるうちに出て来い。そうすれば中に居るメイドには手を出さないと約束しよう。」

 出て来いと言われて出て行く馬鹿はいません。それにこうやって命を狙ってくる相手の何を信用しろというのでしょう。

 「お嬢様出ません様に。」

 「えぇ。勿論です。」

 マリアが起動した結界は早々破れるものではありませんし、町中での騒ぎ、時間がかかると判断したら出て行くでしょう。

 「エミリア出んじゃないわよ!」

 「エルザさん?」

 エルザさんの声の後に光が窓から射し込み、悲鳴が聞こえました。その悲鳴は数秒続くと、やがて倒れる音がして光も消えました。

 「終わったようです。」

 マリアが窓から外を覗き、結界を解除して出て行きます。ドアの間から見る限り、動く敵は居ないようで、ひとまず安心です。


 それにしてもこう早く終わるなら、結界もったいなかったですね・・・。




<クーラ>


 面倒臭い。

 放っておけばいいのに。

 そもそもあの獣人の話しをトラは簡単に信用し過ぎだと思うし、助ける義理はないでしょうに。

 まぁそこが我が可愛い弟弟子の甘い所でもあり良い所でもあるのだけど。

 もし決勝に間に合わなかったら得られる単位が減ってしまう。そうしたら師匠の元に帰るのが遅くなってしまうではないですか。

 さらに敵が来ても捕まえろと言うし、そもそもこの程度で戦争になるのなら勝手にすればいいのです。

 いえいえ、いけません。不安定な世界では色々と良くない影響を受ける可能性もあります。

 いっそこの手で両国とも滅ぼしてしまえば清々するのではないでしょうか。

 その場合、多少の時間はかかるかもしれませんが、頭から・・・・。

 「あのクーラさん?」

 顔を上げるとエルザの顔が引きつっています。

 「なんでしょう?敵はまだですよ。」

 感知の範囲にいくつかの怪しい集団はいるけれど、どうせここで集合するのだろうから待って一網打尽が効率的だろう。

 「いえ、さっきの話しは冗談ですよね?」

 良くない癖だ。考え事を口に出していたらしい。

 「勿論。冗談です。」

 もし敵を捕えずに殺したり、国に攻撃を仕掛ければトラは悲しむだろう。下手したら嫌われるかもしれない。

 とっとと敵を倒して戻るのが一番だ。最悪私一人が戻ればいいのだし・・・。


 ようやく敵も集まり始めたようだ。

 「全員が敷地に入ったら合図を出すから、エルザは小屋から出て来ない様に声をかけて。範囲魔法を使う。」

 「わかりました。」

 路地を伝って集合した敵は一斉に走り出すと、勢いそのままに一人しか居ない門番を倒し、こちらに向かって来る。門番が倒れる音も足音や武器がすれる音を隠そうともしていない。敵は馬鹿なのだろうか。

 「エミリア・ウィゴード!。我らが必要なのはお前の命一つ・・。」

 馬鹿なのだろう。大声をあげて何か話している。奇襲の意味がまったくない。

 「あれが終わったら小屋に声かけて。」

 小声に対してエルザは頷いただけ。あの馬鹿の様に声を上げないのは偉い。

 「十数えるうちに出て来い。そうすれば中に居るメイドには手を出さないと約束しよう。」

 言っている事も愚かしい。勿論私が十秒待つ云われも無い。

 「エミリア出んじゃないわよ!」

 エルザの声で素直に数を数えていた皆がこちらを向く。

 使う魔法は複合魔法『氷竹林』。シーネル校の魔法師は適当に生やしていたけれども、別の使い方もある。

 「足が動かねぇ。」

 氷の竹は地面から生える。その為、その竹を敵の足の下から生やすようにコントロールすれば相手の動きを止める事が出来る。私なら全身凍らせてしまえるけど、今回は殺しちゃダメなので足だけだ。

 動けない彼等の上空に現れるのは、風と地の複合魔法『雷竜槍』。その本気の一撃は街を半壊できるけど、今回はその大半を光と空気中の放電に変えて地面へと突き刺す。悲鳴と光が溢れるけど、水に使っている訳でもないし死なないはずだ。多分・・・・。

 悲鳴が止んだら『風矢』を一本放つ。その名の通り風の矢が通った後には、砕けた氷と獣人達が倒れている。うめいているのも居るけれど、直には動けないだろう。

 「終わり。」

 私も手加減が上手くなったものだ。

 「後は任せた。」

 縛るのや説明はエルザに任せて空間移動で控え室へと戻ることにする。


 決勝戦には間に合うだろう。


一年分書けたら口調と魔法の書き方を統一します。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ