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学園都市にて。「大会五日目、控え室への訪問者」。7月5日。

 大会最終日は一試合目に三位決定戦。二試合目に決勝戦が行われる。その後表彰と祝勝会が開かれる予定だ。

 昨日よりも少し遅いくらいの時間にガーツ校へと行き、これまで通りセシリアさんの案内で控え室へ入る。

 昨日もおしゃべりをしていた為か、特にエルザやロクサーヌさんはセシリアさんと仲が良い。

 「何者です。」

 ドアが不意に開けられ、一人の男が入って来た瞬間にセシリアさんは腰に下げたレイピアを抜き、誰何する。

 「話しがしたいだけだ。話したら出て行く。」

 何処かで聞いた様な声だ。セシリアさんの影から覗くと、白虎の獣人が両手を上げて立っている。確か彼に最後にあったのはマーサさんの家でだ。

 「あら、何か用?ちなみにエミリアは居ないわよ。」

 エルザも気付いたらしく、彼に声をかける。

 「忠告と頼みがある。」

 「ずいぶんと図々しいけれど、聞くだけ聞いて上げるわ。あとその格好に付いても説明してくれるとありがたいわね。」

 別れたときよりもずいぶんと汚れているだけでなく、腹には包帯が巻かれ、脇腹から血がにじんでいる。

 「まず忠告だが、あのヴァンパイアの姫がこれから襲われる。そして頼みだが、貴賓席に居る我らの王にその事を伝えて欲しい。」

 「ヴァンパイアの姫はエミリアの事かな?」

 「そうだ。今は新月が過ぎたばかりで更に彼女は今、寮の離れに居るらしい。そこを襲撃する計画がある。予定時刻は決勝戦が始まり、まだ日の出ている午後四時。」

 「貴方がそれを私達に教える事に違和感があるのだけど。」

 彼は一度エミリアを襲っており、また、今回の襲撃を僕達に知らせる理由が無い。

 「信じられないかもしれないが頼む。俺では王に近づく事も出来ない。」

 貴賓席にはリエールさんやデン爺がいるだろうから、僕達なら理由をつけて伝える事は出来るだろう。

 「貴方が襲撃を阻止する理由を教えてもらってもいいかしら?」

 「戦争は望まない。それではダメか?」

 この言い方だと他にも理由はありそうだ。

 「それでその傷はどうしたの?」

 「少し仲間と揉めただけだ。」

 揉めたにしては傷が深すぎる。

 「ふぅ。頼むだけ頼んで、具合の悪い所は話さない。それで信用しろと?」

 「頼む。礼は必ずする。」

 男はその場で膝をついて頭を下げた。

 「まぁいいわ。お婆様に話しだけはしておいてあげる。」

 「すまない。」

 エルザとの会話が終わり、男は控え室を出て行こうとする。

 「待ってください。貴方はどうするつもりですか。」

 「少しでも時間を稼ぐ。」

 「せめて血を止めましょう。それに四時ならまだ時間はあるし、もう少し詳しく話して下さい。」

 壁の時計を見ると三時前。

 移動を考えてもまだ時間はあると言えるだろう。

 「チビ姉。」

 「しょうがない。」

 獣人を椅子に座らせて、チビ姉ちゃんに治療魔法を頼む。

 「まず貴方の名前を教えて下さい。」

 そうして話しを更に聞く。



 白虎の獣人の名前はドウ・オレイ。彼は妹以外に家族はいないらしい。その妹が人質として捕えられている為に、今まで指示を受けていたらしいけれど、数日前に妹にあった際にお互いに命をかける覚悟を決めたとのことだ。

 彼に指示をしていたのは虎の獣人であるハスキール・ティックス。ドウの情報だとオブリ校で首位を争う実力の持ち主で、獣族でも古くからある一族の息子らしい。そのハスキールが狙っているのはエミリアの命というよりも、それを奪う事によってヴィゴード国と獣族の国、両国の間に更なる亀裂を作り戦争に発展させる事らしい。さらにその戦争を利用して一族の力を増し、獣王の座を狙っているとのことだ。

 僕達は彼の話しを聞いて三つに分かれることにした。

 ロクサーヌさんとセリシアさんは貴賓席へ。

 僕とドウは妹が捕えられているというオブリ校の寮へ。

 そしてエミリアの所へはエルザとチビ姉ちゃんにお願いした。


 決勝までに戻って来られるかは怪しく、チビ姉ちゃんは少し嫌がっていたけれど、決勝は帰って来られた人が出るしか無い。


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