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学園都市にて。「大会二日目」。7月2日。

大会二日目。

 確かにチビ姉ちゃんの言う通り、ロクサーヌさんの心配は杞憂に終わった。

 開始と同時にエルザが走る。昨日と同じ様に風の結界が重ねて張られ、火の雨は防がれた。しかし、四本の石柱が地面から生え結界に穴を開けている。

 エルザが勢いそのまま開いた穴から突入する。その間も火の雨は降り続き、相手は結界を解くに解けない。結界を維持していた一人がエルザに倒されると、結界は火の雨に蹂躙され姿を消し、複合魔法を準備中の四人と剣を手にした一人は昨日のシーネス校の六人と同じ目にあった。

 「勝者キクノ校トラチーム。」

 僕達の勝ちが告げられた時には、チビ姉ちゃんは僕の横に立っていた。

 「複合魔法は強力。だけど時間がかかってしまうなら自衛の手段も必要。」

 自衛の手段が風の結界だと思うのだけど・・・。

 僕の考えがわかったらしくチビ姉ちゃんの言葉が続いた。

 「結界が破られた際の自衛手段が必要ということ。結界は万能ではない。」

 そうは言っても選抜されたメンバーなのだからこれが学生のレベルなのだと思う。ただチビ姉ちゃんの言うことも間違ってはいないので反論はしないけど。

 「一旦出る?次の試合まで時間あるけど。」

 控え室に戻って皆に尋ねる。

 今日の予定は二試合な上に時間も一日あるので、午前中に僕達の試合。午後にブレンス校のチームキーツとゲンロ校のチームジョウが戦う。

 「私は本を読んでいる。お昼買って来てくれると嬉しい。」

 チビ姉ちゃんは自分のマジックバックから本を取り出すと読み始めた。こうなると邪魔しないのが無難である。以前邪魔したシスが怒られていたし・・・。

 「僕はエミリアに報告して来るよ。」

 「じゃあ私達は屋台で何か買って来るわ。お昼にここで良いわよね?」

 三人揃ってブレンス校を出て広場に行き、そこで分かれることになる。

 「トラさんの分も買っておきますね。」

 ロクサーヌさんにお願いしてエミリアの寮に向かう。

 門番は丁度ヴィーダさんで、ヴィーダさんの案内で奥へと向かう。向かった先はいつももロビー横の応接間ではなく、建物の裏に立つ離れだ。

 「ここに?」

 離れといっても以前セバスさんが住んでいた小屋より少し大きいくらいで、作りも簡素で一国の姫が居る場所とは思えない。

 「この時期だけはここで我慢していただいています。」

 普段は寮内の部屋があるらしい。

 「トラ様がお見えです。」

 「どうぞ。」

 ヴィーダさんのノックでマリアさんが扉を開けてくれた。

 中は一部屋で中心に魔法陣が有りその上にベッド、更に上にエミリアガ座っている。

 「なんか恥ずかしいですね。」

 そうは言っても寝間着でもないし、寝姿も何度か見ている。

 「以前トラ様のお話を聞いて試しに魔法陣を設置してみました。こちらに私が立つと、魔力の受け渡しができるようになっています。」

 ベッドの下に描かれた魔法陣に重なる様に小さな魔法陣が設置されている。その上に置かれた椅子にマリアさんが座ると魔法陣が淡く光り、マリアさんからエミリアへと魔力が受け渡される。

 「先月から試し始めたばかりですけど、トラ様の仮説は当っていそうです。」

 「充分魔力を分けてもらうと制御を外してもいつも通りなのです。」

 エミリアは嬉しそうだ。

 「しかし、お嬢様の魔力量が多いので充分に供給するのが難しいことと、どれほどの量で吸収が起きなくなるのかはまだわかりません・・・。」

 「でも、魔力を分けてもらうと制御も楽になるのですよ。」

 魔力量の落差が小さくなればその分制御が楽になるなら、やっぱり魔力の減退に対してエミリアの体が外部から魔力を補充しようとしているのかもしれない。

 「わざわざマリアさんからでなくても魔力タンクを用意すれば?」

 「いずれそうしたいのですけど、この寮の物を使う訳にもいきませんし、魔力タンクと魔法陣の接続方法はわからないので・・・・。」

 今の魔法陣は小さい魔法陣の上で発した魔力を大きい魔法陣に届ける形だけど、魔力タンクと接続できたら不特定多数の人から魔力を分けてもらうことも出来るし、自分で貯めておくことも出来るようになる。なにより充分に魔力を得られれば、何日も小屋に閉じこもっていなくてすむ。

 「チビ姉ちゃんにも相談してみるよ。ああ見えて魔法に結構詳しいから。」

 「よろしくお願いします。」

 その後は昨日今日の試合の報告や、ロクサーヌさんがエミリアの所へ食事を差し入れに来てくれたことなどを話した。

 「思ったよりも話しちゃったかな。」

 エミリアも暇だったのかいつもよりよく喋った。そのせいで約束した昼を大きく過ぎて居る。

 「これはトラの分よ。」

 「すいません。先に食べさせてもらいました。」

 控え室に戻るとエルザに紙袋を渡され、ロクサーヌさんに謝られた。

 「いえいえ、遅れた僕が悪いのですし、取っといてくれてありがとう。」

 「見ながら食べる?」

 そろそろ第二試合が始まる時間だ。

 「うん。チビ姉ちゃんは?」

 「横に食べ物を置いとくと勝手に食べていたわよ。」

 「昔から本を読むとそうなるのだけど、邪魔すると恐いんだよね・・。」

 かといって放っておいたら試合に遅れる。

 「そんなことは無い。昔は食事もとらなかった。その為二日食べないで倒れ師匠に怒られてからは食事も取る様にしただけ。あと本なら何でも良い訳じゃない。気になった本だけ。」

 「それは気に入ったと?」

 チビ姉ちゃんが手にしているのは以前エルザに貸したジャミン先生の教科書。「歪曲魔法に対する基本的考察とその有用性に付いて」だ。

 「荒削りだけどまぁまぁ読める。」

 本をマジックバックに仕舞うと席を立つ。

 「じゃあ見に行きましょう。」

 エルザを先頭に控え室を出る。

 着いて十分程すると両チームも出て来た。

 「第二回戦ブレンス校第二試合。ブレンス校チームキーツ対ゲンロ校チームジョウ。両チームは試合場に上がり開始線より後ろで待機して下さい。」

 そのアナウンスで両チームリングに上がる。ブレンス校が試合会場の為かチームキーツの方にかけられる声援が多い。

 「始めます。」

 光が地面に落ちる。

 一回戦と同じ様にチームジョウは闇を生み出すが、チームキースは後退することはなくそのまま突撃をして行く。一見一回戦と同じ戦法に見えるけどカリノ以外は皆盾も持っている。チームキースがリングの中央を越えた辺りで闇に包まれた。唯一後方に残った魔法師からは一筋の光が真っすぐに伸びる。

 「がぁっ」

 鈍い音がしてチームジョウの魔法師が一人リング外へと飛ばされた。打撃の跡を見るに盾で殴られたのだと思う。飛ばされた男は気絶したけど、それでも闇が消えることはなく、リング全てが闇に埋まった。

 キースの指示する声と時折する金属音。彼の声からするに闇の中での行動はこうだろう。

 闇の中でも固まりになり直進。一人を盾で弾くと光の筋を辿って後退。魔法師を真ん中にして警戒体型。どうやら彼等の周りは魔法師のおかげで完全に闇に飲まれていない様で、攻撃をして来た時に反撃しているらしい。

 チームジョウは闇にまぎれての短剣使いの攻撃が主であり、魔法師の一人が散発的に『石弾』を撃っている。闇を維持するだけなら二人で充分の様で闇が薄まる気配は無い。

 「このままじり貧かしらね。」

 エルザが呟いたのと同時にキースの声が止み、リングからまとまって下りて来る一団があった。キースとカリノを除いたブレンス校の面々だ。

 そこからは気合いとも怒鳴り声とも言える声と物と物がぶつかる音しか聞こえなくなった。

 「一体何が?」

 「多分直にわかるよ。ほら。」

 闇からはじき出されたのはゲンロ校の魔法師。僕達の方へ落ちて来たその顔には何かがぶつかった跡がある。

 「盾で殴られた様には見えないけど・・。」

 「多分大盾を横にして振り回しているのだと思うよ。」

 顔に付いた跡は横長でわずかに曲線を描いている。大盾を横にして薙いだのだとしたら説明はつく。

 「そうなのかしら・・・。」

 エルザが見ている間にも倒れた男は担架に乗せられて運ばれて行く。

 そのうちにもう一人弾かれてリング外に落ちると徐々に闇が晴れていった。

 「もう一人も倒れていたようね。」

 リングには魔法師が一人倒れ、キーツが盾と膝をついていた。

 「キーツも攻撃を受けたのかしら?」

 その割に傷は無い。膝をついたキーツに短剣使いが二人で迫り、カリノが迎え撃つ形で戦い は進む。

 「違う・・。」

 「何よ?」

 チビ姉ちゃんにエルザが尋ねる間にもカリノの突きを手と肩に受け一人が短剣を落とす。キーツは大盾の影に隠れる様にしてその身を守る。

 「おそらく・・・。」

 キーツに辿り着いていたもう一人の短剣使いの腹にもカリノの突きが決まり、短剣使いは腹を押さえて膝をついた。

 「酔っただけ。」

 「はぁ?」

 「勝者ブレンス校チームキーツ。」

 アナウンスが勝利者を告げる中、キーツは仲間に支えられ試合場を後にした。

 「見えないなら当るまで振り回す。味方が掃けたのは巻き込まないため。闇が解けるのが先か、目を回すのが先か、彼は賭けに勝った。もし先に目を回してカリノに策がなければ格好悪く負けていたけど面白かった。」

 チビ姉ちゃん的には気に入ったらしい。

 「広域魔法を使えば良かったのでは?」

 「使えなかったのじゃない?」

 ロクサーヌさんの疑問にはエルザが答える。

 「竜人でも魔法を使わない人は多いわ。そもそも竜族が固有魔法以外あまり使わないしね。」

 竜人は竜族と他の種族の血が混ざった人を指し、特徴として生まれながらに体の一部に鱗を持ち、時に角や鬣、尻尾、羽なども持つ。またその血の元になった竜族と同じ固有魔法を発動することも多い。

 祖先を崇拝することも多い事もあって、固有魔法に固執する竜人も多いのだとか。

 「他の魔法が使えるのに使わないなんて私にはよくわからないけどね。」

 エルザはそう言って締めくくったけど、ロクサーヌさん曰く、時に竜族を生神の様にあつかう竜人もいてその所為もあってでエルザが今までパーティーを組まなかったという噂もあるそうだ。

 その所為もあってか特に寄り道もなく、家に帰り、チビ姉ちゃんは書庫に。エルザは家の裏で剣を振り、僕とロクサーヌさんは夕食の準備に取りかかる。

 料理は仕上げだけ残してお風呂へ。チビ姉ちゃんは来なかった様だけど、エルザは一汗かいて気分がまぎれたらしく、鼻歌が聞こえる。

 風呂上がりに何の曲か尋ねたら叩かれた。


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