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湖畔にて。

 湖畔に馬車が一台。周りには3人倒れている。馬車を守るのは二人。それだけ確認すると森の中から弓を撃っていた二人の背中を立て続けに斬る。

 「ぎゃあ。」

 叫び声が響き反応した一人に剣を投げつける。

 剣が弾かれたことまでは確認せずに突っ込み、相手の剣ごと手首を斬り落とす。これで先に倒れている二人も除いて残り三人。

 「冒険者か。引くぞ。」

 三人目が倒れたのを確認して、奥に居た九人目の男が声をかける。その声で賊は一斉に飛び退き、こちらをうかがう。こちらがそれ以上手を出さないのを確認して傷ついた5人を引きずりながら森へと下がって行った。

 全員が引き切るまで待ち、指示を出した獣人が森へと下がって行く。

 「ふぅ。」

 相手の気配が無くなったのを確認して息を吐く。

 「冒険者様助かりました。」

 戦っていたうち初老の男が声をかけて来る。

 「こちらも襲われましたので。それより・・。」

 もう一人の方に目をやると剣を地面に刺し座り込んでいる。切り傷は多く今にも倒れそうだ。

 「ヴィーダ!」

 馬車の扉が開き女性が二人飛び出して来る。声をかけた一人は黒いドレスを纏った少女。もう一人はメイドと思われる妙齢の女性。

 「今治療を。」

 メイドが剣士に手をかざすと大きな傷から塞がっていく。

 「血は止めました。あとは安静にして薬を。」

 淡々と鞄からポーションを出し剣士の口に含ませる。

 「治療魔法か。」

 ゴルラが手首を止血した男を連れてやって来た。

 「こいつにもかけてやってくれ。死なれても訳がわかんねぇからな。」

 メイドが初老の男を見て男が頷くと、近づいて来て手をかざす。

 「とりあえず血を止めておきました。」

 その言葉通り、血を止めただけで、肉の盛り上がりも皮の再生も無い。

 「こいつは預けていいな?」

 ゴルラが初老の男に盗賊を引き渡す。

 「ありがとうございます。」

 「俺は何もしてねぇよ。向こうのやつらはどうするかね?一応止血して縛っておいたが。」

 僕に聞いて来る。

 「任せます。」

 「では一緒によろしいですか?」

 「俺はほとんど何もしてないから疲れても無いし、道案内くらいはするさ。」

 「では。」

 二人連れ立って森の中に入って行く。

 (休んでいていいってことかな。)

 盗賊はメイドに預け、湖に行き返り血で汚れた手と顔を洗う。服も変えたい所だけれど荷物は逃げた商人の馬車の中だ。

 「どうぞ。」

 声に振り返ると、後ろにはメイドさんがタオルを持って立っていた。

 「ありがとうございます。」

 言葉に甘えて顔と手を拭く。ついでに頭も軽く拭ってしまう。

 「あっ。」

 タオルが血で汚れてしまった。頭にも返り血が付いていたらしい。

 「お気になさらないで下さい。」

 弁償しろと言われても金は持っていないし、ありがたく従っておく。

 「あちらで火に当たって下さい。」

 馬車の横で焚火が焚かれている。座ると直にお茶が出される。

 「どうも。」

 隙が無い人だ。

 「私達は座って休んでいてくれとのことです。」

 声をかけて来たのは血だらけだった剣士だ。

 「もう良いのですか?」

 「おかげさまで助かりました。戦うのは厳しいですけど話すくらいならもう問題ありません。」

 そういって横へ座る。

 「改めてありがとうございました。おかげで我々の命が助かりました。」

 「いえ。」

 見ればメイドさんが倒れた一人を担いで馬車へと運んでいる。

 「力不足でした。」

 もっと早く気付いていればあの人も救えたかもしれない。

 「そんな事はありません。自分たちはお嬢様を守るべく付き従い。これも我らの力不足が招いた結果ですから。冒険者様達がいらっしゃってくれなかったら奴らも引いてはくれなかったでしょうし。」

 メイドさんは馬車に運び込むと、ドランのおっさんが連れてきた獣人へと歩いて行く。

 「僕も行って来ます。」

 「なら私も。」

 立ち上がろうとするのを制していう。

 「ヴィーダさんは、火の番をしていて下さい。」

 「あれ。私の名前を?」

 「先程呼ばれているのをお聞きしました。」

 「そうでしたか。冒険者様のお名前をお聞きしても?」

 そう言われて名乗っていなかったのを思い出す。

 「トラです。」

 「トラ様よろしくおねがいします。」

 「様なんて。トラと呼んで下さい。」

 そう言って苦笑しながらメイドさんに近づく。

 「お手伝いします。」

 「放っておく事も考えましたが・・。」

 「色々聞いてみますか?その前に傷口の消毒と血を拭ってあげましょう。」

 その言葉に不思議な顔をして来た。

 「敵などどうなろうとかまいませんが、病気や獣は面倒ですものね。」

 考え方の違いだろうけど、彼女なりに納得してくれた様だ。

 捕まえた男の血を拭ってやると、森に入っていた二人が戻って来た。

 「見事に獣族ばかりだな。」

 一人の例外も無く獣人。それも犬の獣人ばかりだ。

 「おそらく並べておけば後で引き取りに来るでしょう。」

 「おいおい、引き返して来るってことかよ。」

 ゴルラのおっさんが驚いた様に言う。もし来るなら急いで移動しないと行けない。

 「私達が居る間は大丈夫でしょう。しかし移動した方が良いのは確かですね。一人だけ馬車に乗せて行きましょう。」

 事情聴取の為だろうか、初老の男の言葉を受けてメイドが捕えた男を一人担いでは馬車へと戻る。

 「ご一緒して下さいますか?」

 初老の男にそう聞かれてゴルラと顔を合わせる。

 「俺等は飯も荷物も無い。置いてかれちまったからな。」

 「おかげさまで私達は助かりましたが。」

 その言葉には苦笑いで返すしかない。

 「夜行になりますがよろしいでしょうか?」

 「よろしくお願いします。」

 出発の準備をしている間にメイドさんに先程のタオルを譲ってもらう。

 「すいません。いずれお支払いします。」

 今は文無しだから勘弁してもらう。

 「いえ、お気になさらずに。」

 手際よく準備するのを邪魔しない様にタオルを濡らし、敵であった獣人達の顔を拭いていく。

 「敵だろう。」

 「敵だったからです。」

 「そうか。」

 それだけ言うとゴルラは自分のタオルを取り出すと手伝ってくれた。

 並べた彼らの顔を拭き、傷口をきつく縛ると、出発の準備が整った馬車へと近づく。

 「おまたせしました。」

 ヴィーダさんやメイドさんは何か言いたそうだけれども何も言わないでくれる。

 「では参りましょう。」

 御者の席に三人。馬車に三人。

 お嬢様とメイドさんは馬車の中で決定。いくら大きめの馬車といえども捕えた男とゴルラは体付きも大きい。なので一番体の小さい僕が馬車の中。外の御者席が残った男三人となった。

 馬車の中に入ると縛られて転がされている男に目を向けていたお嬢様がこちらを向いた。

 「トラ様助けていただいてありがとうございました。私エミリアと申します。故あって今は姓を名乗るのをお許し下さい。」

 お嬢様が馬車の中頭を下げると、静かに馬車が出発した。

 「こちらへどうぞ。」

 メイドさんが前へと進めてくれる。どうやら馬車の前半部がお嬢様用に作られているらしい。それを断って一番後ろに腰掛ける。無いとは思うけれども一応襲撃に警戒しておく為だ。

 「森を抜けたら休憩するそうです。それまでよろしくお願いします。」

 メイドさんがそう言ってお嬢様と前方に入っていく。


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