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学園都市にて。「酔っぱらいの贈り物」。5月最終週。

 翌々日にキクノ校の掲示板で見たのは次の通り。


『キクノ学園大会のお知らせ。


 今大会のルールは以下の通りとする。


 開催期間:七ノ月一〜五日

 参加資格:キクノ学園生徒及び教職員

 参加単位:所属パーティー(六人+予備員一人)

 参加申し込み:各所属学校(6ノ月二十三日締め切り)


 対戦相手の武器防具鹵獲可。(使用武器防具は当日までに登録すること。)

 アイテム使用不可。

 故意に相手を死に至らしめる攻撃不可。


 優勝:千万セン・二十単位・来年度大会の主催権

 準優勝:三百万セン・十単位

 三位:百万セン・五単位

 四位以下十位まで:十万セン・二単位


 なお、イオシス・グノーシスへの弟子入りを希望する場合、優勝若しくはそれに準ずる成果を残すこと。


                      ガーツ校校長マゼンダ・ログ』

 

 「この来年度大会の主催権ってなんですか?」

 職員室にも同じ物があったので指差して授業終わりのエバステル先生に聞いてみた。

 「そのまんまの意味だよ。翌年の七ノ月に行われる大会のルール決めやその収益なんかを得られる。」

 だから三日前にリエールさんの口からガーツ校の名前が出ていたのか。

 「はい。これが参加同意書。締め切りまでに出してね。」

 七枚のプリントを渡される。

 「今年は教職員も参加可能だからうちの先生達でも一チーム作るらしいよ。」

 「先生達は単位貰ってもしょうがないですし、賞金目当てですか?」

 賞品に単位があるのは学園都市ならではだと思った。

 「まぁね。それにもし優勝できたら来年の主催権で稼ぐことも出来るしね。」

 「そんなに儲かるのですか?」

 賞金の額や、参加費を取らない所から赤字だろうと踏んでいた。

 「ルールによっては試合場の作成や選定、露天商の許可、使用武器の提供なんかも業者を挟んで儲かるけど、毎年確実なのは賭けの胴元になれることだね。色々な国の人が来るから大分大口になるらしいよ。うちは主催したことないから聞いた話しだけどね。だいたいガーツかオブリが勝って稀にテレスやシーネスが勝つね。」

 「ゲンロ校もうちと同じですか?」

 昼間開催なら参加自体少なそうだ。

 「いや、過去に何回かは勝っているはずだけど・・・・。確か八十年くらい前が最後かな。」

 「夜に開催すれば大分続けられそうですが?」

 「一度や二度なら良いかもしれないけれど。何度も続けると他から文句も出るだろうし、参加者が減っては意味が無いからね。」

 そうなると赤字が続き、やってられないってことかな。

 先生にお礼を言って学校を出る。ケバン先生の授業はもう無い。冒険者中級に合格したことにより、暫くは自分たちで任務を受注して行かなければいけなくなった為だ。途中で助言を求めることも出来るけど、ある程度受けるまでは指示はしないとのこと。

 皆と話して、今度長めの日程が必要な依頼をしてみるつもりだ。今は各自できそうな物を見つけたらやっている。

 「ガァ!」

 家の裏手から女性らしくない声が聞こえた。最初こそタタラやロクサーヌさんが心配していたけれど、もう慣れた物で誰も気にしない。たまにオルカやマリアさんを連れたエミリアが見ている程度だ。 

 声のする方へ近づくとエルザがこちらん飛んで来た。

 「よう。」

 「おかえり。」

 吹き飛ばしたシスは木剣を片手に上げて、吹き飛ばされたエルザは足下から挨拶を交わす。

 「ただいま。相変わらずだね。」

 こうして時間を見つけてエルザはシスに剣を習っている。だいたいはエルザが攻撃して吹き飛ばされている形だけど・・・。

 シスは昔から手を取って教える人ではなかった。最初は相手と同じ武器を使い、そこから体捌きや構えを学び自分の物にする。人によっては諦めそうなものだけどエルザには合っていた様だ。また意外なことにエミリアも時間を見つけては稽古している。

 「これ参加同意書だって。」

 起き上がったエルザに荷物ごとプリントを渡して木刀を取る。

 「交代か。トラからなんて珍しいな。」

 「ま、たまにはね。」

 シスは他で授業の無いときは大体家に居る。住まいはリエールさんの家だけど、リエールさんの家や学校、町中だと弟子入り志願や、立ち会い希望が多く家を避難所扱いしている。

 そんなわけで家での滞在時間は長いのだけど僕からあまり稽古をつけてもらうことは無かった。授業があったのもあったけれど、エルザやエミリアが立ち会っていることが多かったのであまり参加しなかった。

 「こっちから行くぞ。」

 僕が構えて動かないのでシスが上段から切り掛かって来た。

 余計なことはせず、真っすぐに踏み込み真っすぐに木剣を下ろす。その分早く力強い。

 シスが間合いに踏み込まれても、中段から剣先を動かさない僕に対して怪訝な顔をした。それでも僕は動かないで、頭上に木剣が迫ってようやく動く。左手の柄頭を前に、右手を軽く引き、そのまま体を前にずらす。迫り来るシスの胴を狙う。

 「俺の方が早え。」

 そんなことはわかっている。

 手の内を多少変化した所で、このままではシスの木剣の方が先に僕を打つだろう。

 それでも体の勢いは止めない。

 刹那の交差の後、

 シスと体の位置が入れ替わり再び中段に構える。

 「ちっ。もう使える様になったのか。」

 「えっなに?」

 シスの木剣が折れ、地面に中程から先が落ちている。エルザはわからなかった様だ。

 これは免許皆伝の記念に教えてもらった。

 「こんなに早く使える様になるとは誰にやった物よりも高く付いたかな。」

 「まだシス程の数も本来の使い方も無理だけど・・・。」

 「お前ならいずれ出来る様になるさ。それにしても面白い使い方をしたな。」

 「何したのよ。」

 エルザが近づいて来た。

 「これだ。」

 右脇の空間からシスが刀を一振り取り出す。

 「この刀?」

 「違う。こっちだ。」

 そう言って元の位置に刀を仕舞った。

 僕が教えてもらったのはこの空間収納術だ。



 三日前、家に帰りタタラとオルカの二人と、刀の鞘に付いて話していた所にリエールさんとシスが帰って来た。

 「ここでトラの刀は打たれているのか。」

 タタラの鍛冶場をシスが面白そうに見渡す。

 「はい。一生懸命打たせてもらっています。」

 タタラはシスが武聖と知って緊張気味だ。

 「俺にも一振り頼めるか?」

 タタラがこちらを向く。

 「タタラさえ良かったらやってみたら?」

 「やります!」

 現在タタラは一月に一振り僕に刀を打ってくれている。ルガードさんと他の武器を打つこともあるけど、時間はあるだろう。

 「できれば大会までに、長さは・・・。」

 早速二人で話しをしている。

 「この様子だと他の学校も了承してくれたようですね。」

 「うむ。折角だから儂も頼むか。」

 リエールさんは刀を使わないだろうに。

 僕の視線に気付きボショボショと言い訳をする。

 「珍しいからのぅ・・。」

 「まぁタタラが良いって言えば良いのじゃないですか。ただし無理はさせないで下さいね。」

 色々な物を打つのも一つの修行になるだろうけど、まだ十八才、無理して体を壊させたくない。

 「勿論じゃ。」

 「そうだな。反りはこれを参考にして欲しい。」

 シスが左脇から一振りの刀を出した。

 「「えっ。」」

 見慣れていないタタラとオルカは驚いた様だ。

 そりゃ何も無い空間から刀が出てくれば驚く。

 「今何処から・・?」

 「何処ってここから。」

 同じ所からもう一振り刀が出て来る。

 オルカがその空間に手を出すけど、勿論何も無い。

 「シスの固有魔法とでも思っておけ。一言で言えば空間収納術じゃな。」

 「なんかそれダサくないか?」

 「気にするな。何処でもマジックバックとでもするか?」

 「いや・・。何でも無い・・・。」

 何処でもマジックバッグよりマシだと思ったのか、自分でも良い名が浮かばなかったのか、シスは反論を諦めた。

 「一応必殺技でもあるのだがなぁ・・・。」

 諦めきれない様だ。確かに何も無い空間から武器が出て来るのも、シスの強さを支える一旦である。

 もっとも全ての武具を自由に使いこなす実力が最大の強みだと僕は思っているけど・・。

 「それにする。」

 「これか?」

 刀を持ち上げるシス。

 「違う。空間収納術。それを教えて。」

 「あぁ免許皆伝の祝いか。構わないが・・。」

 シスは語尾を濁した。

 「秘密なら別のを考えるけど。」

 使えたら便利な気がしたので言ってみただけだ。

 「秘伝って言えば秘伝だが、それよりも使える様になるかが・・。トラは魔法が使える様になったのだよな?」

 「うん。人族用の魔力運用が鍵だったみたい。」

 師匠の魔族用の魔力運用では必要魔力が多すぎて、魔法の発動ができなかったみたいだった。

 「なら、トラなら使えるかもな。教えてやるよ。」

 そうして教えてもらったのが三日前。その後も時間を見つけては一人で練習した成果がこれだ。



 「私にも教えて!」

 エルザがシスではなく僕に頼んでいた。タタラあたりから秘伝だと聞いていたのかもしれない。

 「まぁ教えても良いが、嬢ちゃんには使えないと思うぞ。」

 「人族でないと使えないとか?」

 僕からでなくシスから返事をもらったことに驚いたのか、エルザが目を大きくして聞く。

 「そうじゃねぇが・・。説明するのは苦手だな。トラ、後は任せた。お前が物にした以上誰に教えても構わねぇが、責任はもてよ。」

 教えるときはちゃんと考えて教えろということだろうか。

 「俺は風呂入って帰るわ。」

 手元だけになった木剣をその辺に放ってシスは風呂場の方へ去って行く。

 「ありがとうございました。」

 「おう。」

 エルザの例にシスは片手を上げただけだった。

 「それでどうやるの?」

 「基本的には複数属性の魔力の同一軸における融合なのだけど・・・。」

 「はぁ?」

 教わってから自分なりに考えた成果は、エルザにはさっぱりわからなかった様だ。

 「んー。エルザは魔力制御をしている?」

 「強化魔法を使うときくらいかしら。」

 「まずその制御が完全に出来ないと出来ないと思う。」

 僕が一番師匠に鍛えられたのはこの魔力制御だ。純粋に魔力を使う強化魔法しか使えなかった為、その強化魔法の強化の為にも自分の魔力を一滴も漏らさない程の精度での制御を要求された。魔力を漏らさないことにより、多少なりとも自身に溜まる魔力は大きくなる。

 なにより師匠曰く、常日頃から制御し続けることにより、寿命が延びるらしい。

 これは師匠独自の理論だけど、生き物は各々その生涯において生み出せる総魔力量は決まっており、使用量に合わせて年を取って行くらしい。なので無理なり大量の魔力を生み出せば、老化等寿命が削られる。また、竜やヴァンパイア、エルフ等の寿命が長く、肉体が若い時を維持できるのはこの総魔力量と許容量が大きいおかげだと言っていた。

 一般的な説ではないらしいし、制御をそこまでする人が師匠を含めて数人しかいない為、確信が持てない。なのでエルザにそこまでは言わないけれど、現に僕は制御が出来る様になってから肉体の成長が遅くなった気がする。

 只単に成長期が早めに終わった可能性もあるけれど・・・。

 「一応説明するけど、エルザには合わないと思うな・・。」

 「どうゆうことよ。」

 エルザの質問には答えず説明をする。

 「そこまで制御した魔力に自分の属性をつけた魔力を混ぜ合わせる。魔法の融合には反発があるのは知っているよね?」

 「えぇ。」

 「その反発の中心では空間の歪曲が起こっており、それこそが空間の切れ目、つまりマジックバッグの入り口だね。」

 また融合の際、その属性の種類が増える程少量の魔力で足りるが、その分制御は難しくなる。

 「ただ単に魔法を混ぜるだけでは駄目なの?」

 「うん。普段使っている魔法。例えばエルザは火の玉を出せるけど、その火の玉を生み出す魔力量は毎回微妙に違うと思う。体調や感覚、求める火の大きさでも変わるからね。」

 「それでも火の玉は出るわ。」

 「それは魔法としての現象。もちろんある程度制御した魔力を融合できるのであれば歪曲した空間を生み出すことは出来るけど、この魔力量が違ってしまうと同じ空間には繋がらない。」

 「入れた物を取り出せないのね。」

 「それだけではなくて、一度入れた後もある程度待機状態にしておかないといけない。それも何かしらを目印にして同一箇所にね。」

 僕やシスは自分の体を、マジックバッグはおそらくその鞄を目印にしている。それは座標指定であり、空間歪曲の理論と相まって僕が理解するのは早かったと思う。ジャミン先生に感謝だ。

 「仕舞った場所でないと出せないのね。」

 「そう。さらにそちらに普段から待機させている為、体の外に放出する魔法は使いにくくなるね。」

 何度か試したけれど、魔法を使うと魔力が揺らぐため、難易度がさらに上がってしまった。

 「私に合わないと言ったのは放出系魔法をよく使うから?」

 「それと、エルザの力があれば物をいちいち仕舞わなくても運べるでしょう?」

 「まぁそうね。確かにそんなにごちゃごちゃ考える魔法は私に合いそうも無いわ。」

 「シスはだいたいを勘で行っている様だけど・・・。」

 その才能は羨ましい。

 「教わるのは諦めたけど、イオシス様の木剣を折った・・。いえ、切ったのは何よ。まさか空間に刃だけ出現させたのでは無いでしょうね?」

 「いや、そんなことはシスも出来ないと思うよ。空間に自分の手を入れることで引っ張り出せるのだから。」

 そこもマジックバッグと一緒で所有者以外は出し入れすることが出来ない。

 「さっきのはその性質を使った。あとはシスの剣速だね。」

 「侵入できない空間。つまり、壊れにくい細い針金に向かって自ら木材が当った様な物ね。」

 柔らかい物が固くて細い物に速度を持って当れば切れてしまう。

 「正解。」

 「なんとも恐ろしいことを考えるものね・・・。」

 エルザに呆られてしまったけど、まだ物を仕舞う程の大きさを生み出すことが出来ない僕の苦肉の策だ。

 一応エルザには他言無用と念を押して僕たちも家の中に戻る。


 ロクサーヌさんの料理の匂いに誘われる様に・・。


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