学園都市にて。「引っ越し・引っ越し・引っ越し」。4月16日〜5月。
翌朝セバスさんが起こしに来ることは無く、マリアさんをベッドに残したまま、朝の鍛錬、朝食、そして授業へと行く。
帰って来るとマリアさんの姿は無かった。セバスさんに聞くと昼過ぎに出て行ったらしい。また、彼女が寝泊まりしているのも知っていたらしい。僕が出入りを許可したから僕も同意の上だと思っていたらしく、申し訳なさそうにしていたけど、今更問題は無く慰めておいた。
夕方には再びマリアさんがやってきた。エミリアに挨拶し、明日まで休みを貰ったそうだ。
「今更だけどなんで僕だったのかな。」
マリアさんならよりどりみどりだろうに。そう思ってベッドで聞いた所、つねられた。
「勘違いされているようですけど、今までヴィーダの様なことはしていません。そもそも私に入ってきた男はトラ様だけです。」
「えっ。」
思わず出てしまった驚きに更にきつくつねられた。
「淫魔の習いで母に破かれましたけど、それ以外ではトラ様だけですよ。」
「つまり、僕のことを好きだと・・・?」
「そういうことでしょうね。母の話しだと、好きな男と結ばれたいと強く思うのは決まって魔力の少なくなる時だそうですから。おそらくヴァンパイアの力が減退した時に淫魔としての血が出て来るのでしょう。」
「つまり来月も?」
マリアさんは満月の時に力が弱まる。
「あら、月一度で良いのですか?」
良い訳が無い。返事の代わりに再戦を申し出た。
勝負の行方は内緒である。
次の日の朝はマリアさんも共に食事を取った。タタラが不思議な顔をしていたけどわざわざ説明する気はない。
今回のジャミン先生の授業はプリントばかりで実技等はなく、ひたすら解くと昼過ぎに帰宅が許された。
昼を取っ手から帰り、タタラに気に入った木刀について話しているとロクサーヌさんとエルザがやってきた。ロクサーヌさんは両手に、エルザは背中に風呂敷を背負い片手にタンス、もう一方に寸胴を抱えている。
「手伝ったら夕食を作ってくれる約束なのよ。」
ロクサーヌさんはセバスさんとの話し合で別館の二階に住むことになり、来月半ばまでに徐々に引っ越す予定だった。しかし、エルザの手伝いで一気に終わらしてしまうつもりだろう。
「今月中に終わらせてしまえば来月から家賃払わなくてすみますから。」
それが理由だ。
エルザが二往復もすれば引っ越しは終わり、あとは掃除が残るくらいで、それはロクサーヌさんが明日やるらしい。
そんな訳でその日から住人が増えた。
だけど、さらに翌日住人が増えた。
その予想していなかった新たな住人は、美術史のおっぱい教師オルカ先生だ。彼女は部屋掃除に行ったはずのロクサーヌさんに連れられてやってきた。
「私にも部屋を貸してくれ。」
第一声がそれだった。
黙っていると言葉が続く。
「駄目か?頼む。ほらおっぱいもんでもいいから。」
胸を突き出して来る。
困っているとロクサーヌさんが説明してくれる。
「私の部屋の前で寝ていました。」
「うん。いくらノックしても出て来ないから待っていた。」
待っていたら寝てしまったらしい。
「以前残った料理を差し上げてから、たまにいらっしゃるのです。」
「ロクサーヌの料理はうまいからな。ここに住めば毎日食べられると聞いた。」
「毎日じゃないですけどね・・。つまりオルカ先、オルカさんは餌付けされたと。」
先生と呼ぶなと言われていたのを思い出した。
「なかなか優秀。だけど次からはさんもなしでオルカね。私の部屋は何処にしようかなぁ〜。」
彼女の中でここに住むことは決定らしい。
「セバスさんと相談して下さい。」
引きずられる様に連れて行かれたロクサーヌさんに伝えとく。
夜食を食べながら聞かされた話しだと、昼以外の二食付きで付き金貨一枚。部屋はロクサーヌさんの向い。それ以外にタタラの部屋の隣にももう一部屋。これは僕に美術を教える部屋らしい。
オルカは荷物を運び込んだ気配もなくその日から住み着いた。食事は僕が作っても食べるらしいので問題ない。ただ、男女の区別無く風呂に入って来るのには驚いたけど・・・・。
さらに話しを聞いたエルザが翌週に引っ越して来た。家よりも家賃が安いことと風呂、そしてロクサーヌさんの料理が決めてらしい。
ちなみにエルザの条件は、月5万セン。銀貨5枚だ。食費は別で狩った獲物を持ち込むとそれに合わせて食費が浮く。その計算はセバスさんとロクサーヌさんに任せる。部屋はロクサーヌさんの隣になった。
それ以外に大きな変化は無く、月日は過ぎて行く。
満月の時は連泊、それ以外は週に一度くらいマリアさんが泊まっていき、授業の無い日に家でロクサーヌさんとオルカの授業。
ロクサーヌさんの方は順調だと思うけど、オルカの授業は順調ではなかった。というか美術史を教える気はなさそうに思える。数冊の歴史の本を渡されただけで後は何かを作ることばかりだ。その中で木彫りはタタラも一緒に行い、一振り目の鞘はタタラが、二振り目の鞘は僕が完成させることになった。鍔の彫金は両方ともオルカが担当だ。それ以外にも部屋にこもって何かを作ったりしているけど、二・三日引きこもっていたと思ったら、庭で寝ていたりしてよくわからない。
冒険者中級の授業はケバン先生の課題やギルドのクエストを皆でクリアする日々だ。
時間が空いたら師匠へ手紙を書き、他には薬草の畑を作ったり、庭を探索してみたりする。




