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学園都市にて。「別館・台所・風呂完成」。4月15日。

 朝二人を起こして朝食を取ると、予定通りハーブを集めながら森の外へ向かう。森の入り口まで戻ると、ヴィーダさんの馬車と他にもう一台。そして昨夜の4人が待っていた。

 「これは?」

 「試験合格おめでとう。」

 後ろから着いてきていたケバン先生がエルザの質問に答え、奥さんと共に四人と合流する。

 「一発目から試験だったのですか・・。」

 試験といわれてエルザとロクサーヌさんが直に理解したみたいだ。

 「試験ですか?」

 エミリアは僕と同じで、いまいち理解が追いついていない。

 「普通は何回か授業をした後でするのだけど、君たちは優秀そうだったから。さっさと次に進んだ方が良いと思ったからね。」

 ケバン先生が説明をしてくれる。

 「冒険者入門は入門以降、初級、中級、上級、特級、外級とある。まぁ外級は一応といったところだけど。それでランクが上がるごとに試験がある。ランクが上がればやれることも増えるから、今回先生達に協力してもらって試験をしました。ちなみに試験はある程度僕たち担当が決めて良いことになっています。」

 「それで合格できたと。」

 さっきケバン先生がそう言っていた。

 「うん。次からは中級の授業になります。」

 初級の授業もクリアしたらしい。

 「いきなり中級ですか?」

 ロクサーヌさんが確認している所をみると、飛ばして上がるのは珍しそうだ。

 「森で得た食べ物だけで過ごすこと。これが僕の定めた初級クリアの条件。次にお金を稼げることと、盗賊への警戒を行い、出来れば撃退か安全に逃走すること。これが初級クリアの条件かな。」

 「まだ換金してはいませんし、盗賊には遭っていません。」

 エミリアにはまだ納得いかない所があるらしい。

 「魔石と狩猟で充分。他にギルドで依頼も受けていたみたいだしね。エルザ君達が魔石に気付かなかった時はどうしようかと思ったけど、それを補った成果を狩猟で出せる様だし、その後回収していたしね。それに盗賊といっても、盗賊に見せかけて僕たちが襲撃する予定だったのだけれど、襲撃前にトラ君に発見されてしまいました。」

 「昨夜、トイレに行ったときだよ。ほら、見張りの交代の時に。」

 三人に見られたので説明しておく。

 「それで、昨夜は聞かなかったけど、トラ君は何時気付いた?」

 「それは知りたいね。」

 エルザ達だけでなく先生方も聞きたそうである。

 「魔石の時かな。それまでは怪しむくらいだったけど。たまに取れる魔石が四個も取れたから。あれで泉にもあれば、泉で発生して流れ出たと考えましたけど、泉には無かったですから。それにエルザの方と僕たちの方それぞれに四個ずつ。ほぼ同じ大きさで売れば目標額に近いなんて出来過ぎでしょ。」

 「怪しむってことは他にもあったのでしょ?」

 エルザが気付いていなかったのが悔しい様でしつこく聞いて来る。

 「あとは、森の獣道は最近通った後があったし、先生のキャンプは不自然だったから。離れてキャンプをするのや大きなテントなのはまだしも、出入り口をこちらに隠す理由は無いし、作っている料理も多かったからね。それに月露草の依頼主がエバステル先生だったのも引っかかったかな。」

 怪しいことが幾つも重なれば、試験とはわからなくても何らかの手が先生によって加わっていると考えられたし、そのため先生の行動に注意していた。昨夜はキャンプに姿が無かったので気配を探ったところ、森で微かに話し声がしたのでわかった。

 「僕も聞きたいのですけど、何故昨夜は直に襲って来なかったのですか?」

 見張りは交代の時間でエミリア一人になっていたし、絶好のチャンスだったと思う。

 「それは・・。」

 言いにくそうなケバン先生に変わってジャミン先生が答えてくれる。

 「いざ戦って君たちに倒されるならまだしも、殺されてはたまらないからね。魔法は無しという話しだったから私はあまり戦力にならないし、一番腕自慢のケバン先生をあしらえる人間に勝てる気があまりしない上に、エルザ君がブラックベアを一撃で倒す所も見てしまったからね。」

 「今思えば、エルザ君に木剣でダメージを与えられたかも謎だね。」

 他の先生も同調してそう言った。

 「次はトラ君を通して皆に連絡するけど、その前に魔石返してもらっていいかい?」

 ケバン先生に言われて八個全て返す。

 「ありがとう。あげちゃうと予算がね・・・。」

 「あ、月露草も今貰って良いかな?」

 エバステル先生も思い出したかの様に聞いて来た。

 「この為に依頼を出したのも当りだけど、必要なのも本当だよ。」

 銀貨と引き換えに月露草も取り出して渡す。

 「ギルドへの報告はこちらでしておくから、帰ったらゆっくり休んで下さいね。」

 先生達に見送られて馬車に乗り込むと街へと戻る。

 もっともすぐ後に先生達の馬車が付いてきているけど。

 街へ着くと僕とロクサーヌさんは二人で肉屋へ。マジックバッグに入れておけば腐らないので個人的な食料にしても良いけれど、買ってもらう約束をした手前一応売りにきたのだ。

 エミリアは一度寮へ。エルザは鹿の角を売りに行った。

 熊肉も鹿肉も在庫が有るというので無理に売らなくても良いとのこと。そもそもそれほど珍しくない得物なので、定期的に冒険者が売りに来るらしい。しかし普通の冒険者はマジックバッグを持っては無いのでどうしても肉だけになる。内蔵は塩漬けにすれば生より持つけど、わざわざそんな荷物になることをする冒険者は少ない。けれど、買い手も多くはないので問題ないらしい。他に脳みそは売る為というよりも肉屋の親父の好物らしく、欲しそうだったので肉を売らないお詫びに置いてきた。ついでに鹿の頭も。

 そのお礼なのか、今後買い取りがあったら少し色をつけてくれるらしい。ロクサーヌさんの付き合いのおかげの方が割合的には高そうだけど・・。

 ついでに夕食の材料を買う。肉はまだあるけど、いい加減野菜とか食べたい・・。

 家に帰るとセバスさんと頭領、その息子であるタヒルさんが出迎えてくれた。

 「おかえりなさいませ。」

 「無事完成していますぜ。」

 「ランプもオーブンも完璧です。」

 今日帰って来ることを言っていたので、家の完成引き渡しを今日にしてくれたらしい。セバスさんもまだ引っ越ししていないとか。一緒に付いてきていたロクサーヌさんが早く見たそうだったので台所から案内してもらう

 台所は今までの倍の大きさでオーブンだけでなくコンロの数も増えて四つになっている。これは僕とエミリアが料理を教わる時、同時に作業が出来る様にだ。オーブンは一つだけどこれは一緒に使えるだけの大きさがある。

 「早速使ってみたいです。」

 タヒルさんの説明を聞いてロクサーヌさんが目を輝かせた。

 「一人でも良いですか?」

 「勿論です。これ使って良いですよね?」

 僕は他の所を案内してもらうつもりなのでロクサーヌさん一人に料理を任せてしまうことになる。

 「ええ。エルザも来るので多めにお願いします。」

 「はい。今回のことで皆さんの食事量も大体把握しましたから。」

 鹿肉とかも使える様にマジックバッグも置いて行く。

 次に案内されたのは風呂。大きく変わったのは三つ。女性用になっている風呂場の更に奥にもう一つ女性用の半分程の風呂が出来たこと。工房の風呂が無くなったこと。今までは手持ちのランプが置いてあるだけだった魔導ランプが壁に何箇所か設置してあることだ。

 「ウィゴード様から沢山贈っていただきました。」

 セバスさんの家の分だけでなく風呂場に使える程くれたらしい。

 「お礼を言わないとな。」

 「はい。運んできて下さったヴィーダ殿にはよろしくお伝えしましたが、改めてお礼状をお書きになるのがよろしいと思います。また、手紙も預かっておりますので後ほどお渡し致します。」

 工房の風呂は湯量の関係で回すのを止めたとの話しだけど、ルガードさんには使用人用の所か僕と同じ所を使ってもらえば良いだろう。

 最後に案内されたのは新しく出来た別館だ。

 渡り廊下から入って右手に一部屋。左手にコンロと水道が一つずつあす小さいキッチン。正面に階段があり、その脇にトイレがある。階段の正面には玄関があるけど、さらに奥には納戸ともう一部屋。階段を登った二階には四部屋。

 「一階の部屋が一番大きいね。あそこがセバスさんの部屋かな?」

 どの部屋もランプがあるくらいで家具が無いので何処が何の部屋かわからない。

 「一番大きな部屋は来客用では?」

 「これだけ部屋数あるし、毎日使うセバスさんが広い所使う方が良いでしょ。それとも広いと落ち着かないとか?」

 「いえ、ありがとうございます。」

 セバスさんの荷物は明日以降自分で運ぶそうだ。手伝うと提案したけれども荷物が少ないからと断られた。

 セバスさんが住んでいた小屋と工房裏の風呂場は、そのまま物置にでも転用する予定だ。

 本館に戻ってロクサーヌさんに教わりながら料理を手伝う。親方とタヒルさんも誘ったけれども、この後用事があると断られた。工房に居たタタラは後で来るとのことだ。

 一時間程料理をして一段落した頃にエルザが、それから30分程してエミリアがやってきた。マリアさんの姿は無かったらしくヴィーダさんが付いてきた。

 三人が来た所で一旦料理の手を止め、エルザがタタラを呼びに行く。食事の前に風呂で汗や埃を落とすのでタタラも風呂へ誘う為だ。僕は一緒に入れるわけでもないので、着替えを取りがてら、セバスから預かった手紙を部屋で読んでから入ることにする。

 部屋に入るとなにか違和感がある。

 「なんだろう?」

 部屋を見渡してみるけどよくわからない。

コツコツ

 グリグリが嘴で窓をノックしている。帰ってきたのにまだ会っていなかったので、ベランダに出てなでくり回す。

 「結局師匠に手紙を出してないな。今夜書くから明日お願いできる?」

クィー

 グリグリは話しが分かるかの様に首を押し当ててくる。セバスさんが世話をしてくれていたのか、毛並みが良い。後でお礼を言っておこう。一通り撫でると部屋に戻り手紙を開いた。入っていたのは二通。ウェルキンさんとカイゼルさんからだ。

 ウェルキンさんの手紙は時節の挨拶から始まり、まず魔導ランプの納品数と種類、各部屋にある小さな物は引っ越しと入学のお祝いで、大きな物は家具の代金の一部としてとのことだった。他には、七月にカイゼルさんが学園に来ることや、他のアイテムの受け渡しなど、今後予定を確認するもので、「その折はよろしくお願いします。」と締められていた。

 カイゼルさんからの手紙は短く、エミリアやマリアさんのことをよろしくということと、家具を何人かの仲間に自慢した所、羨ましがられたという内容だった。

 ウェルキンさんの手紙はあとでセバスさんにも見せるとして、ヴィーダさんに持って行ってもらう為にカイゼルさんへの返礼の手紙を書いてしまうことにした。

 思ったよりも時間がかかったので、急いで風呂へと行くと露天風呂には行かずに内風呂で手早く体や頭を洗い風呂へ入ると、女性陣の声が小さくなったので直に出る。ちょうど出た所ではち合わせたので、待たせることが無く良かった。

 風呂から出ると女性陣はその足で新しく出来た別館を覗きに。ロクサーヌさんと僕は台所へ行き料理の仕上げにかかる。

 「「「「いただきます。」」」」

 本日のメニューは野菜を食べたい僕の意見から、サラダに始まり、オーブンを使った鹿肉のロースト、野菜のオーブン焼き、森マスのグラタンと続き、他にもパエリアや熊肉のシチューなどオーブンを使わない料理も並んだ。

 言うまでもなくどれも美味しく、がつがつと食事をした。

 「ロクサーヌさんの食事はキャンプ中もよかったけどこっちの方が好きだわ。」

 エルザはお腹いっぱいでご満悦だ。

 「こちらだったら調味料も色々使えますから。」

 「そうだろうけどやっぱり腕が違うのだろうね。」

 手伝っていて思い知らされたのは、ロクサーヌさんの手際の良さと僕の手伝い何て要らないと言うこと。多分料理を教えるということで色々させてもらったのだと思う。

 「いつも通り手際が良くてわからなかったけど、台所の使い心地はどうでした?」

 「問題ありません。家の台所より使いやすいくらいです。」

 「それは良かった。何時でも使ってもらって構いませんからね。」

 改めて親方達にお礼を言おう。

 「本当ですか?」

 本当も何も使う為に作ったのだから問題があろうはずも無い。

 「その為に新しくなったのですから。」

 「いえ、授業以外でもよいのかと思いまして・・・」

 「構いませんよ。新しく作った別館にも小さいながらキッチンがあるから、セバスさんが使うこともないみたいだし、僕とタタラの分くらいしか作ることは無いから。」

 「ではお言葉に甘えます。うちよりオーブンの性能は良いし、コンロの数も火の強さも良いですから。そのかわりにトラ君とタタラちゃんの夕ご飯は任せて下さい。先生の手伝いとか入ったらできないかもしれませんけど・・・。」

 予定がある時はそちらを優先してもらって構わない。なにより

 「ロクサーヌさんの美味しい料理を毎日の様に食べられるなんて・・。」

 タタラが言う様に毎日でなくても頻繁に食べられるのは何よりも嬉しい。

 「それは羨ましいわね。だけど、毎日来るのは大変じゃない?」

 「そうかもしれませんけど・・。」

 エルザの質問にロクサーヌさんが尻込む。

 「いっそ引っ越してしまってはいかがですか?先程拝見した所、使っていないお部屋の数も大分増えたようですし。」

 それまで黙っていたエミリアがそんな事を言い出した。

 「そうですね、トラ君一部屋借りるとして一か月おいくらですか?」

 「本気ですか?」

 今までそんなこと考えたことも無かった。

 「別にただでも良いのだけど・・。」

 ご飯を作ってくれるならそれで良い。

 「ちなみに私は十五万よ。」

 それは以前聞いた。確か食費や光熱費なんかも入っていたはずだ。

 「ロクサーヌさんの今のお家は?」

 「光熱費込みで銀貨七枚です。」

 「うーん。やっぱりタダで良いかな?」

 「さすがにタダだと・・。」

 ロクサーヌさんは抵抗があるみたいだ。

 「ただというか報酬と打ち消しかな。ご飯作ってくれるなら。」

 「それはむしろ望む所ですけど・・。」

 「タタラは僕に雇われている形だけど、食住付きで月金貨一枚。ロクサーヌさんは毎日とかの拘束が無い変わりに報酬も無しで。あと一緒に食べる食事以外の材料費はロクサーヌさんもちね。」

 どうせ家賃の相場もわからないのだし、自分の思う様に決めることにした。

 「部屋や食費、引っ越しの時期なんかはセバスさんと話して決めて下さい。」

 あとはセバスさんに丸投げだ。

 食事も終わり片付けをすると、タタラが一度退室して両手に荷物を持って帰ってきた。

 「明日で良いので試してみて下さい。」

 右手に抱えられた束は木刀。素材は略一緒のようだけど、長さや反り、太さが違う物が十数本と行った所だろうか。

 「ルガードさんと二人で作ってみました。それとこちらはお部屋で使ってもらえると嬉しいです。」

 包んでいた布をほどくと、出てきたのは以前庭の森で穫れた森林鹿の角で、その頃は売ることも考えていなかったので倉庫に入れてあったものだ。

 「刀掛けです。こうして置くのを以前見たことがあったので作ってみました。」

 タタラが木刀を置く。角は土台に固定され、高さが調製されておりずれることも無い。

 「まだ鞘の制作が出来ないので、木鞘のままで申し訳ないのです・・。」

 一朝一夕で作れるものではないのだろう。

 「角で思い出したわ。これ換金したお金よ。」

 エルザがテーブルにお金を置いた。

 「全部で20,520セン。分けることも考えたけど、皆が良かったら次の冒険の準備金にしない?」

 「私は構いません。」

 「私も。」

 反対も無かったので責任を持って僕が預かることにした。

 「そういや、肉とかはどうしようか。」

 今日も食べたけどマジックバッグに入っている物がまだある。

 「こうやって食べるし、まぁトラに任せるわ。」

 エルザが遊びに来たりしたら食料の消費が激しいし、売ったりするのは止めておこう。


 皆を見送った足で改めて風呂に行く。家に帰ってきたのでゆっくりと湯船につかりたかったからだ。軽く体にお湯を掛けると露天風呂へ。

 雲の隙間から覗く月は明るい。

 「満月か。」

 帰ってきたらマリアさんの話しがあると言っていたけど、僕たちが街を出た日から少し出かけるとヴィーダさんに言い残して何処かへ出かけしまっており、当のヴィーダさんも行き先は知らないようだった。そもそもエミリア付きなのでいないときは仕事が無いし、今の寮ではほとんど世話もないとはエミリアの弁。

 「どうしちゃったのだろう。」

 満月は力が落ちるので何処かで隠れている。皆で話した中では、一番ありそうだけどエミリアが知り合ってからそんなことは無かったらしいので違うだろう。

チャポンッ

 お湯が揺れる。

 「マリアさん?」

 女性用の入り口の方から人影が近づいて来る。

 マリアさんだ。

 「先程は気付いてくれませんでしたね。」

 すぐ隣に腰を下ろすと、肩を寄せて来る。

 「さっきもお風呂に居たのですか?」

 内湯にしか行かなかったので気付かなかった。

 「いえ、お気付きにならなかったのなら良いです・・。」

 顔を背けてしまった。

 拗ねたのだろうか、今までには無かった行動だ。

 「そういえば帰ってきたら話しがあるって言っていませんでした?」

 「そうですね・・。」

 その後に続く言葉は無く、静かな時が流れる。

 「はしたないと思わないで下さい。」

 不意にマリアさんが立ち上がり、前に回り込むと僕の足に座った。僕の上に足を開いて向かい合って座った形だ。

 「あの・・。」

 最近は慣れつつあったけれど、正面向かって見せられると目のやり場に困る。

 「嫌ですか?」

 マリアさんは美人であり、体も綺麗だ。今まで一緒にいて嫌だったことも無いし、男として嫌な訳が無い。

 問題があるとすれば一つ。

 「あっ。」

 その問題の所為で、マリアさんが少し腰を浮かして首の後ろに手を回してきた。顔が近づき、吐息がかかる。胸が押し当てられ、問題児が大きくなる。

 「嫌ではないようですね。」

 「はい・・。」

 耳元で囁かれる声が色っぽい。

 軽く唇が振れ、マリアさんの手が問題児を自らの秘所に導く。

 「お情けをいただきます。」

 マリアさんが腰を落とし、問題児が彼女の中に入って行く。


 ずっと皆と行動していて溜まっていたのもあった。

 久しぶりに女性と触れ合ったのもあった。

 なにより彼女は気持ちよく、彼女以外視界に入ることが無く、行為は繰り返された。

 一度目の後も僕が彼女から出ることはなく、そのままキスをし二回目へ。

 その後は場所を移動し、ベッドで何度か。

 何度目かの後に体がようやく離れた。

 

 部屋には二人の呼吸音だけ。

 ベランダのグリグリも大人しい。

 「私は夜の一族ではありますけど、正式なヴァンパイアの一族ではありません。」

 枕元の水を飲み一息つくとマリアさんが語り始めた。

 「お嬢様の親戚ということで良くさせていただいていますけど。」

 「親戚?」

 「はい。お嬢様とお爺様が一緒で、従姉妹になります。」

 「カイゼルさんのお父さんか。確かギャロットさん。」

 有名だ。

 「ええ、先代国王には物語にもなっているので有名です。」

 その内容は獣族と百年以上に渡って何度も争い、幾人もの族長を倒した後、最後に倒された族長を倒し、その妻であり現獣族族長の8代前の族長となったキャメルに討たれるという物だ。それ以来、今に至るまで獣族の族長はキャメルの名を継ぐ女性がなっている。

 「その人と淫魔の間に出来たのが私の母です。」

 「ヴァンパイアと淫魔のハーフか。」

 初めて聞いた。

 「そうなりますね。父はヴァンパイアなので私はクォーターになります。珍しいですけど、今まで無かった訳ではありません。先程お話しや物語は聞いたことがありますか?」

 「うん。」

 村の祭りに来た一座が語っていたのを聞いたことがある。

 「実際は物語と違う部分も多いのですけど、多くの所は間違えていません。戦の際、数に勝る獣属を相手にする為にギャロットが何をしたか覚えていますか?」

 「確か多くのヴァンパイアを作ったと。敵味方問わず。」

 「はい。ですが敵をヴァンパイア化することはありませんでした。何故ならヴァンパイア化した敵が襲って来るからです。よく主の言うことを聞くと言われていますけど、そんなことは無く自分の意思で動きますから。トラ様はそもそもどうやってヴァンパイア化するか知っていますか?」

 「そう言えば聞いたことが無いかも。」

 「相手の魔力を吸い取って自分の魔力を注ぐのです。その結果ヴァンパイア化するのですけど、相手の魔力を吸い取れるからか、こちらの魔力がヴァンパイアの魔力だからなのか理由は判明していませんけど・・・。祖母はベッドの上でヴァンパイア化したそうです。」

 一旦言葉を切りもう一度水を口にする。

 「トラ様はすでに知っているとは思いますけど、淫魔は性交によって相手の魔力を得ることが出来ます。」

 「つまりベッドの上で魔力を吸われて性交によって魔力を与えられたと。」

 「祖母から聞いた訳ではありませんけど、数少ない今までの例からいって間違いないでしょう。その場合子供が出来ることがあるそうです。一部の学者はそこから種族間の子供が出来にくい訳が解るかもしれないと言っていますけどね・・。」

 結局何が言いたいのだろうか。

 「それに淫魔の体液には興奮作用があって、私の血にも含まれていると思います。」

 「うん。」

 半身を起こしたマリアさんは月光に照らされて美しい。

 「トラ様のいない間はここで過ごしていましたから、多少なりともベッドに染み込んでいるでしょう。それに姉は他家に嫁いでいますけど、兄もいます。家は先程の理由で比較的優遇されており、裕福です。」

 益々何が言いたいのかわからない。けど、いつもより饒舌に喋るマリアさんが可愛らしく思い先を促す。

 「それで?」

 「人間であるトラ様と子供は出来ないと思いますし、万が一子供が出来たとしても大丈夫ですから、ここは犬に噛まれたと思って忘・・・」

 馬鹿なことを最後まで喋らせることは無く、抱き寄せてキスをする

 「犬がこんなに綺麗で気持ちよいわけがない。忘れないですよ・・・・。」

 耳元で囁いて再び彼女の中に侵入する。


 そのまま、朝まで抱き合って眠った。

 また師匠へ手紙を書けなかったけど、しょうがない。


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